願いを届ける器
昔々、深い山や谷を越えたところに人々がやってきて小さな村を作った。
人間社会から逃げ出した、追い出された、追われた、そんな人たちの集まりだ。
けれどそこは土が薄く、岩場に砂礫ばかり。
わずかにはえる草も花も獣達が食べてしまう。
そんな場所で人々はわずかな獣を狩り、魚をとり、飢えを凌いだ。
固い岩を砕き、作物を育てる試みもしたが、うまくいかない。
人々は神に祈り、天を仰ぎ、時にはわずかな供物を、愛しい我が子を捧げた。
それでも神は応えてくれず、生まれた子は飢えて死んでしまう。
ある日、貧困と空腹に喘ぐその村に旅のまじない師が立ち寄った。
村人たちは旅人を歓迎した。
出せる限りのわずかな食事を旅人に与え、隙をうかがった。
隙があれば彼の持ち物を奪おうと考えたのだ。
寝込みを襲ってはみたが、うまくはいかなかった。
きっとそういった状況をうまく脱し、旅を続けているのだろう。
その旅人は襲ってきた村の者達を哀れんだ。
「自分たちを救う神を作ってはどうだろうか。私がその手伝いをしよう」
旅人はそう提案した。
神を作るのに必要なものは祈りと願い。
そしてそれを入れるための器だ。
器は人が良いだろう。
魂の入っていない器を用意し、願いと祈りを託しなさい。
旅人がそう言ったので村人たちは相談することにした。
神を作る……人柱を立てるということだろうか。
では、まだ仕事ができない子供か、美しい娘か……
さあ、誰にするか、誰が相応しいだろう。
話し合ったがなかなか決まらない。
すると、一人の若者が手を挙げた。
「私が器になりましょう。 私は先日の事故で働けなくなりました。
ですから私が皆様の祈りを届けましょう」
それを聞いた村人たちはほっと安堵した。
神の器は見つかった。
さて、神になる器だ。
きっと傷は少ない方が良いだろう。
村人達は彼らが考え得る最善を尽くした。
横たわるその若者から慎重に魂を追い出すと、
村人達はその器を前に手を合わせた。
それに祈りを捧げた。
もう誰も飢えて死ぬことがなくなりますように。
作物が実りますように。
豊かになりますように。
……
そう願いを込めた。
全ての村人たちが祈りを終え、
家に帰ってしまうと旅人がその器の前にやってきた。
旅人は不思議な術を使い、その器を自由に動けるようにした。
「君は村人たちの祈りから、願いから生まれた。
何をしなくてはいけないか、分かるだろう?」
動けるようになった器に旅人はそう言い、
それを村に戻すとまたどこかへ去っていった。
村人達は驚いた。
あの若者が帰ってきたと。
村人達はそれを歓迎して受け入れた。
それが覚えていることは、
村人たちの命を救うこと、もう飢えないようにしてやること。
ただそれだけ。
どうしてやればいいかはすでに分かっていた。
それが村に居着くと、不思議なことに作物が青々と育つようになった。
作物が育つものだからそれを求めて獣達も現れるようになった。
それから飢えて亡くなる村人はいなくなった。
村人たちはそれを神と祀りあげ、信仰し、感謝と祈りを捧げ続けた。
それから長い年月が過ぎ、
作物がたわわに実ること、飢えずに済むことは当たり前になった。
なぜそれが生まれたのか知る村人はいなくなった。
そして自分の畑をより豊かにしてくれと祈る村人が、
あいつの畑を不作にしてくれと呪う村人が現れた。
ついには自分の願いだけを叶えてくれと我が子を捧げる村人が現れた。
そして、
◇おしまい◇
そういうことがあったんだってさ。




