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ある日の雨男

作者: 萩武
掲載日:2026/03/02

 雨宮降男は雨男だった。

 自分の意思で雨を降らすことができるのだ。

 彼の勤めるM山工業は、特技を持つ者を採用するユニークな企業として注目されていた。

 優秀とも言えない彼が採用されたのもこのシステムのおかげであった。

 面接の時に、特技を聞かれた彼が雨を降らすことができますと言うと、会議室は笑いに包まれた。

 「なるほど君にはユーモアのセンスがあるのだね」

 面接官の一人がニヤリとした。

 「違います。本当に雨をふらすことができるんですよ。よく農家から雨を降らせてもらえないかという依頼があるのですよ」

 雨宮がそう言うと、突然空が暗くなり雨が降り出した。

 三人の面接官は黙って顔を見合わせたが、すぐにその中の一人が偶然ですよと笑ってみせた。

 雨宮は入社することができたが、毎日が面白くない。

 彼の周りには語学の得意な人や財テクの達人やプロ級の腕を持つマジシャン等の特技を持った人間ばかりだからだ。

 彼の存在は日に日にかすんでいった。

 おまけに直属上司の営業課長とうまくいっていなかった。

 人相を見るのが得意な課長は、彼を貧相な奴だとバカにしていた。

 ある日彼がいない時に、彼の顧客から苦情の電話があった。

 対応した課長は、顧客から大分厳しいことを言われたらしく、彼が営業から帰ってくると、いつもの三倍ネチネチと嫌味を言った。

 頭にきたのは雨宮の方である。

 席についてからもワナワナと怒りに震えていた。

 「あっ、何よ、アレ」

 女性社員が突然甲高く叫んだ。

 直径一メートル位の小さな雨雲が、課長の頭上に現れると、雨を降らし始めた。

 「なんだ、なんだ。一体どうなっているんだ」

 そう叫びながら逃げ回る課長を追いかけるように雨雲はついていく。

 小さな雷がゴロンという音とともに落ちると、課長は気絶した。

 「さあて、今夜はビールでも飲みに行きますか」

 そう言って席を立った雨宮の声は、いつもよりずっと弾んでいた。


                   【終わり】


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