表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/67

58.報告官の銃弾 後編

 その後四か月間、報告官は副長から暴行を受けるマヤの姿を見ていた。少女が元軍人、屈強な男に殴られ蹴られるのは、見ていて心苦しいものがあった。

「……我々は、自由のために戦っているのか?本当に?これが?自由につながっているのか?」


 決定的にその対立感情が明確になったのは、12月25日のことである。

「副長。これは本当に自由のために、独立のために……正義として行っているのですか?」

 二人きりの副長室。報告官は、副長へと拳銃を向けていた。

「あんな子供を虐げて、何が自由ですか。自由だの独立だの言ったって、結局は金も武器もメイミィからの密輸品頼みじゃないですか。これが、こんなのが、正義であってたまるか!!」

 報告官は激怒していた。副長は、冷たく報告官を見つめていた。

 そう、実のところ革命軍はメイミィの傀儡なのである。国内のルートだけでは、どう足掻いても革命は起こせない。そこにメイミィは目をつけて、革命の支援を行い始めた。いつか革命が成功した暁には、その経済と行政に関与する権利を与えることを条件として。

 対外戦争が止まれば内乱が始まる。最悪の場合、同時に起こる。何度も繰り返されてきた歴史。

「……従わなければ直々に空爆する。そうすればお前の家族の命はない。そう脅されてなお、お前は屈しないのか」

 ガオドゥはメイミィ側の大洋に面していた。過去にもメイミィから空爆を受けた記録が残されており、その脅しは本物であった。

 こんなありきたりでありがちな、涙ぐましい正当化に同情できるほど、報告官は冷静ではなかった。

「そんな理由で、あなたの罪は消されません。娘と同じ年の子供を暴行して、恥ずかしくないんですか」

「アレは人間ではない。何度も言っているだろう」

 報告官は噛み合わない会話に舌打ちした。

「もしもアレが反旗を翻せば、我々は一瞬で全滅する。そのとき誰が責任を取る?死んで贖えるようなぬるい責任だと思うか?」

 革命軍にBOSSシステムはない。そんな中で、他の団員に対してマヤは制御可能な道具だということを示さなければならない。そうしなければ、戦いが成り立たない。支配というものは説得なんて曖昧なものではなく、暴力として分かりやすい形でなければならない。

 マヤは正義も倫理も危うい子供。敵軍の一言で簡単に寝返る可能性はある。両親が殺された怒りで軍徒全員を自殺に追い込み、周辺地域を吹き飛ばし民間人を何千人と殺した子供が、正気であるはずがないだろう。

「人間同士は、力づくでしか支配できない。アレが人間だというのなら、力づくで支配しようとするのは当然だろう」

 副長は報告官の銃口を見つめながら、冷ややかに言った。


「撃ちたければ撃てばいい。お前が人間を撃てば、俺も人間を撃つ。お前がマヤを人間というのなら、俺がマヤを撃っても文句はあるまい」

 これが、戦争の縮図。報復の理念、他者の行動からの自己正当化。そのエスカレートの先。やり始めた方が悪い、やられた被害者ならもっとずっと反撃しても良い。そんな応酬を繰り返す。自分が同罪、あるいはより深い罪を背負うことになると気づかないまま。


 報告官は、拳銃を下ろした。

 虚しい屈辱の正義。これが、無力な彼の抵抗的な、守るための降伏であった。





 1月5日。アタゴとマヤは撃沈された。

 報告官は、アタゴの最後の演算記録を見返していた。すると、ずっと白紙だった自己記録メモリに一行だけ言葉が一行だけ残されているのを発見した。


『Have I been a brother?』


 奇妙な文言だと思った。しかしその直後にアタゴは撃沈されたことから、遺書のようにも見えた。


 報告官には違和感があった。アタゴの規定外行動……イセ討伐戦における離脱判断の速さ。格納庫を破壊してのパイロット殺害。最期に切断された通信。全てはマヤの無意識下の制御として考えられていた。しかし冷静に考えてみれば、おかしい。


 イセ討伐戦の離脱も、最期のアオバ戦の通信拒否もどちらもマヤが冷静に判断できる精神状態であったとは思えない。パイロットが操縦席の外にいるのに動く機体なんて、欠陥品にもほどがある。


 さらに調べていくと、アタゴの生体部分の改修において使われた遺伝子についてのデータがあった。曰く、ミョウコウの精液とムツの首。どちらもオス型個体であることから、アタゴも性自認はオスであった可能性はある。

「……兄」

 全てに気付いた瞬間、報告官の顔から血の気が引いた。





『久しぶりだな、革命軍。……よくも真矢を殺したな』

 国軍の戦闘機からの通信音声は、間違いなく歌方慎也のものであった。慎也は駆逐艦が撃沈された後、国軍に捕虜として回収されその腕をもって粛清隊に志願したのであった。

 それを知って報告官は、過呼吸を起こした。


「国の犬どもめ……チョウカイとペンサコーラ、出撃用意!!」

 革命軍には、新たな軍徒が加わっていた。人間は、本当に何も学ばないのだということを顕著に示していた。

 その事実に、報告官は吐き気を催した。







 8月15日。報告官は自らの銃で自らの頭を撃ち抜き、死亡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ