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56.11月29日 螢翫l縺溘き繧ウ

  これは11月29日におけるカコに関する記録である。

 その日カコ隊とミクマ隊の連合部隊は、陸へと向かっていた。メイミィ本土ではない。イーヴェンの山地の一角へ、である。


 今回の任務は革命軍の拠点の制圧。特に例の白い機竜……アタゴと、そのパイロットであるマヤが潜伏しているとのことであり。連合部隊での襲撃であった。本来ならば軍徒抜きで戦うのがマヤへの対策として最適解なのであるが。通常兵器を使えば休戦条約に抵触するおそれがあるとのことで、条約の穴をつける軍徒での襲撃となった。


 輸送機の中、サワカゼはまたカコの隣に座りその横顔を見ていた。

 そして不意にカコはサワカゼの方を向き。その額に口づけを落とした。

 サワカゼはやや呆然とした表情で硬直し。わずかに頬を赤く染めて翼で顔を隠した。

「んだよ、違ったのかよ」

「……ワレとしては、今日も顔がいいなと思って見ていただけでな。しかしキミの方からしてくれるというのはなんとも、可愛すぎるというか」

 早とちりか、とカコは恥ずかしくなって目をそらした。


 朝からイチャつかないでくださーい、と呆れたように言うアサナギ。たいちょーさん照れてるー、ソイネしてもらったのかな?とヒソヒソ楽しそうに話すウメとモモ。久しぶりの陸戦緊張するべ、とひとりだけ話を聞いていないムラクモ。


 そんな時間も過ぎて、輸送機のハッチが開いた。

 『充電率一〇〇%。蓄電器官異常なし。カコ。出撃可』

『演算ノイズ無し。遠距離視力、良好。赤外線視力、良好。サワカゼ。出撃可』

『翼剣動作異常なし。アサナギ。出撃可』

『尾槌動作異常なし。ムラクモ。出撃可』

『背殻動作異常なし。焼夷剤装備完了。ウメ。出撃可』

『背殻動作異常なし。炎症剤装備完了。モモ。出撃可』


 輸送機から降りていく部隊。威風堂々たるカコの姿は、旗艦としての風格があった。

『祖国を蝕む蛆共に価値はない。一匹残らず駆逐せよ』

 旗艦たるカコの声に、連合部隊は沈黙のまま戦闘態勢へと移行した。


『サワカゼ、指揮を』

『了。ウメ、モモ、カエデは先行。ムラクモはミクマの護衛。アサナギ、ユウナギは航空機へ対処。シオカゼとタチカゼは本艦と演算同期。情報報せ』

『了』

『カコは速度そのまま。一二〇秒後に敵斥候部隊とエンゲージ。停電用意』

『了』

 フルタカのような威力やアオバのような射程のないカコの武器は、その圧倒的な持続性にある。強烈な電圧を帯びながら敵陣を飛び回り、計器を狂わせて叩き潰す。アオバ以上の格闘戦適正値を誇るカコに正面切って戦いを挑むアーマイェーガはいないと言われるほどである。


『拠点より単騎で直進する敵機を確認。生体反応あり。重巡洋艦級マヤ、およびアタゴと判定。エンゲージカウント、三十秒に短縮』

 他の航空機と一線を画す速度で突撃してくるアタゴ。各種火薬に機翼デバイスを使ってのレーザーも併用することから、その危険度は高く設定されていた。

 しかし、一対多を切り抜けられるはずがない。前回のイセ討伐に加え、度重なった襲撃でのデータ解析から音声識別は可能になっている。同じ手は食らいはしない。今度こそ沈めてやるぞ、とカコは気を引き締め帯電を始めた。

 そんなカコの目線と、アタゴの視線のようなものがぶつかった瞬間。カコの頭に声が響いた。


【友軍を撃滅せよ、カコ】


 その声は間違いなく偽りのボスのものであった。意識では理解した。しかし同時に耳なじみのある心地よい声……サワカゼの声が混ざっていた。

「……え?」

 その瞬間、全ノードが静的化し。カコの目の前は真っ暗になった。






 気がついたときには、カコは地面に立っていた。

 真っ黒な地と肉で染め上がり、赤々と燃える地面に。

 その頭上には黒く染まったヘイロー……暴走型能力上限(オーバードライブ)の証があった。


 ミクマの砲身がひしゃげて、アサナギの腹を貫いていた。ウメとモモは、首がなかった。ムラクモはミクマを守るように覆いかぶさり、そのまままとめて炭になっていた。シオカゼとタチカゼは四肢が食いちぎられており、カエデの胴体はなかった。

 全部自分がやったことだと、カコは悟ってしまった。折られた自分の角と翼、抉られた腹……壊された蓄電器官がその証拠だった。


「……サワ、カゼ?」

 カコは、自分が今踏み潰しているものがサワカゼだと気づいた。原型が分からないほどに食い荒らされ、引き裂かれ、焼かれた臓物と肉が、彼だと理解してしまった。

 胸に残る傷の痛みと熱は、彼が最期まで抵抗した証。その自爆の証明であった。


 また、自分はおかしくなってしまった。

 また、彼を傷つけてしまった。

 どうしようもないほど、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

「あ゛っ、うあ、あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!!!」

 カコは慟哭した。人の言葉を借りるなら、絶望とでも呼ぶべき感情であった。

 感情演算量が臨界値を突破するのと同時に、カコの頭に激痛が走った。暴走超過の反動により、脳の血管が破裂したのである。

 混乱と後悔、嘆きと落胆と憎悪にカコは人格演算を崩壊させた。


 カコが死亡したのは、それから三分二十秒後のことである。

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