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52.歌方真矢

 その後、副長はマヤを殴った。

 彼らは優秀なパイロットたちであった、戦力が枯渇している今、さらに減らすなんてどうしてくれる。お前は自分が何をしたのか理解していないのか。

 マヤは弁明のために声をあげようとした。しかし口を開いた瞬間、顔に拳を叩きつけられた。息を吸おうとすれば、腹を蹴られ壁に叩きつけられた。

 これが、マヤが四か月間受けてきたものであった。



 1月5日。マヤは出撃した。12月29日以降、洗浄室にも行けず食糧配給所にも行けず。人間から逃げ回る姿は、ひどくやつれていた。

 離陸して三時間後、マヤはアオバ隊とエンゲージした。シナノはまだ到着しておらず、アタゴも三度目の改修を終えている。

 今ならば声が届くはず。マヤは、深く息を吸った。


 しかし何もでなかった。

 喉の奥からは、かすれた音が、隙間風のように漏れていた。

「・・・っ・・・ーーー・・・っ・・・」

 失敗すれば殴られる。弁明しようとすれば殴られる。助けを呼ぼうとすれば殴られる。殺して助かれば殴られる。

 延々と続けられた学習演算。あるいは、抑圧的な過剰ストレス。それが、マヤの、真矢の発声能力を殺したのである。


 慎也を失い、誰もマヤと話さなかった。話さないだけで、話し方は忘れられてしまったのである。

 無線機の向こうでは、副長が怒鳴っていた。モニターに警告が浮かび、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

 もはやマヤの耳には何も届かなかった。

 真矢は操縦桿から手を離し、背中を座席に預けた。

 すると警告音は止まり、無線は切られた。まるでアタゴが、マヤの諦念を察したかのようであった。


 モニターには、尾を構え電流を迸らせるアオバの姿があった。

 その深紅の目には、憎悪がなかった。

 ……ああ、この子にならいいかな。真矢はそう思った。


「     」


 唇だけが、音のない感謝の言葉を紡いだ。


 その一秒後、アオバの雷撃がアタゴと真矢を貫き。爆発の後、死亡させた。

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