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4.水面下の悪意

 これは、アオバ隊で発生した事件に関する、分析官による記録である。


 10月11日。一一五三。作戦開始五分前、甲板にて出撃準備を行っていたフブキが嘔吐。


 前代未聞のトラブルに、作戦は予定より三分遅延。アオバ隊はフブキ抜きでの出撃となった。


 作戦中、隊列行動に若干の乱れ。全個体の演算遅延が確認された。特にハヤテは必要撃墜数の増加から、交戦回数の増加、ボディへの6パーセントのダメージが確認された。


 作戦終了後、フブキに対し精密検査が行われ、経口摂取した補給水に毒物が混入していたことが発覚した。使用されたのは、先日敵軍から押収した対軍徒用新型薬物であり、内部調査により犯行者が特定された。

 犯行者は軍内部の兵士四名。以下が、それぞれの事情聴取における発話内容の要旨をまとめたものである。


『自分はお国のために戦うと誓って生きてきた!お国のために死のうと誓って艦に乗った!そのために何もかも犠牲にしてきたのに!お国は何故、自分ではなく獣を選んだのか!』


『戦闘機人材の削減、軍徒生産ラインの拡充……我々は必要とされなくなった。管理人材というのも美化が過ぎる。これではただの飼育員だと思った。だから、自分は飼育員ではないと証明したかった』


『どうしてあんな家畜のために自分たちが苦しまなければならないのか分からない。耐え難い騒音に、糞尿による悪臭。さらには軍徒の食糧確保のため、人間用の食糧庫スペースの削減が行われた。これが人間の所業であってはならないと感じた』


『こんな馬鹿な真似をする奴らを雇っているとか正気じゃねえよなあんたらも!人手不足だからなあ!誰でもいいんだろ?こんな要らねえ腐ったクソみたいな人材捨てちまえよ!できないだろ?だからこんな化け物のペットになってるんだよなあ!?』


 重度の抑圧感情反応。四人目に至っては錯乱状態に近いものとなっており。過度なストレスが原因と考えられる。

 では、何故フブキを狙ったのかと問うたところ、四人の意見は合致していた。


『フブキが一番死んでいいと思った』


 明確な理由はなかった。なんとなく、いつも退きがちなフブキに対し、無脳感を抱いていた。

 撃墜レベルでいえば、優秀とは言い難いが。囮としてフブキは十分に貢献し、徐々に撃墜スピードも上げており。何故犯行者たちがフブキを下に見ていたのか、分析官は理解できなかった。その撃墜データを、下位の兵士たちは閲覧できないことを知らなかったのである。


 これに対し、分析官はアオバ隊に通達を行った。

【毒物確認。今後、補給中およびその後にボディに異変が検出された場合にはすみやかに報告】

『了』


 これは対面の肉声ではなく、軍徒制御用音声装置……BOSSシステムと呼ばれる機器を通じての伝達である。


 このやり取りの後、アオバ、サクラに内省感情反応……落ち込みや反省に近い数値が確認され。ハヤテには急激な戦闘意欲反応が確認された。


 このことから、分析官は以下のように考えた。


 アオバとサクラは、日ごろの行い……主に騒音……から、反省した。ハヤテは、本来わが軍に向けられるべきであった『憎しみ』に近い感情を、安全制御プロトコルで無理矢理敵軍に向けさせられた。果たして、感情の矛先が向け変えられたことをハヤテは自覚しているのか否か。


 そこまで考えて、分析官はその案を棄却した。根拠に欠ける予測はただの妄想であると判断したのである。また、根拠を集めるという案も棄却した。言ったところで通じない声は発する必要がない、と判断したためである。

 四日後、本部より判決が下り、四人は処刑された。人事部は新たな隊員の名を名簿に追加し。分析官は本部の指示に従い、この事件に関するデータの一切を削除した。


 ただし、アオバ隊への記憶削除処置は実行できなかった。そのための施設が艦になかったためである。


 これが軍徒の最も恐ろしい部分であると知るのは、この艦の中ではこの分析官ただ一人である。


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