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43.嗤う悪女 後編

 二十時間後。敵艦隊を全滅させたイセは、悠々と友軍艦隊まで戻ってきた。

 救護艦甲板には、黒い血をせっせと拭き取るヒカワマルの姿があった。

「ただいまー、アオバちゃんはどう?生きとる?」

「五分五分、といったところじゃな。一応ワシも応急手当はしたが、出血量も多いし毒も残っておる。今はキヌガサからの輸血とマミヤからの電力供給で命をつないでおるが……」

 陸に向かい全速力で進む救護艦。ヒカワマルの頬には、イセの弱い雨がかかっていた。


「……あれは大破ではなく着底ではないかの、イセ」

 軍徒の中で最上位に位置する超弩級戦艦に対し、治療艦級としてヒカワマルは異議を申し立てた。公式回線を使っていたならば、絶対に記録し研究すべき内容である。

 大破とは、自力航行不能レベルの負傷だが、治療すれば前線に戻れる可能性があることを示す。一方で着底とは、自力航行不能レベルの負傷かつ、治療が間に合わないことを示す。生物らしい語を適用するならば、致命傷ともいえる状態である。

「ワシらとて救える命は限られておる。今回は、司令部とお主の意見が合致したから従ったまでじゃ。……むやみに他を混乱させるようなことを言うでない」

 生と死の間、その揺らぎを見てきたヒカワマルは静かに言った。


「あらら、んな怒らんといてほしいわあ。ウチとあの子の能力の相性がええから死なせるのも勿体ないわって思っただけやさかい、な?」

 嘘である。本当は、自分の誤った判断を司令部がどこまで信じるかの実験。結果は成功。やはり第八艦隊司令部は判断能力が低い……とイセは秘匿メモリに記録した。

「あと、愛着?何回か一緒に任務して可愛ええわって思ったんよ。あの子、フェイクフレンドの第一機の直撃食ろうて生きとったし、ひょっとしたら思て」

 これは本心に近い供述であった。しかしイセ自身が嘘くさいと判断していた。軍徒に愛情など芽生えない。そう理解し、諦観しているのである。


「さよか」

 これ以上は不要だとヒカワマルは判断し、閉口した。







 その一か月後、全身パーツの六割を交換して前線復帰したアオバの姿があった。

「先日はありがとうです、イセさん。おかげで何とか戻ったのです」

「元気そうで何よりや。もう騙されちゃあかんよ?」

「肝に銘じておくのです……キヌガサにもすっごく怒られたですから」

「妹ちゃんを怒らせたくはないもんなあ。……あ、ウチはもう移動みたいや。ほなな、アオバちゃん」

「はい、お元気で。ご武運を」




 これがイセとアオバの、最後の会話である。

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