41.帰れない
これは、新たに編成されたヒエイ隊での記録である。
また新たに軍事拠点を得て、忙しなく走り回る兵士を見ながら、ユウバリは溜め息を吐いた。
「まーた補給指示忘れてますよ、あの人。もういっそ食っちまいましょうか、目の前にあることですし」
目前で開封され放置された補給食。後は指示を出すだけ、というところで管理官に呼び出しがかかり、軍徒たちは放置されているのである。
「……指示があるまで動かない、ですか。お堅いですねえ、戦艦級ってのは」
呆れたようにユウバリは言った。背中合わせのまま、ヒエイは沈黙していた。どうしてか、その場所にいるのがユウバリであること……彼女ではないことにやや苛立ちを感じていた。
後日の作戦にて、ヒエイ隊は新たな都市の攻略を行っていた。
『能力上限解放が必要と判断。許可を申請』
【了。三分間許可する。ヒエイ除く全艦退避】
ヒエイは、毎回能力上限解放を申請していた。
どう見ても過剰攻撃だ、とユウバリは思った。武威行動か、それを承認するボスの気が知れないと恐怖した。
「お前さん、死にたいんです?」
ある日の補給中、とうとう言葉が口をついて出た。
「そんな無茶したら早死にしますって。……それが分からないほど馬鹿じゃないでしょう、お前さんは」
ユウバリは、ヒエイがいつも何かの記録を見返していることを知っていた。
ヒエイはずっと、モガミの最後の笑顔を思い出していた。誉ある殉死とは違う、どこか寂しげな瞳を。
その違和感を忘れるために、ヒエイは能力上限解放を繰り返していた。何度もやっていればきっと慣れて、胸の何かは埋まるはず。分からなければ、ないのと同じ。
しかし繰り返すほどに痛みは鋭く、棘が深くに食い込んでいくような感覚があった。
「自傷行為ですよ、それ。早く本国に戻って、フルメンテナンスなり初期化処置なり受けることをおすすめします」
「……うるさい」
ああ、やっと喋ったな、とユウバリは思った。主観的観測結果なら無視して構わないだろう、と判断した。
「そんなに自分で罰を与え続けなければならないほど、お前さんは罪を犯したんです?」
その言葉に、ヒエイは爪を地面に食い込ませた。
「不要発話だ。今後二十四時間の発話を禁止する。これは上位艦命令だ、ユウバリ」
ユウバリは閉口して、肩をすくめた。
その二日後、ユウバリはノシロ……アガノ型二番艦である……と共に夜間警備を行っていた。
「ヒエイさん、いつかどっかで死んじまいそうな気がするんですよ。分かります?この感じ」
「……別にどうでもいい。気にかけることじゃない」
ノシロは淡々と返した。アガノの代わりとして急造された個体であり、非常に若く、人格が未発達。外部への興味関心が希薄であり、コミュニケーション意欲も乏しい個体であった。
「お前さんももうちょい肩の力抜いていいと思いますがねえ」
「……力を抜けば撃沈される。自ら沈むような戦い方をしてはならない」
「じゃあ、ヒエイさんのアレはどう思います?小生からしたら、自沈したいようにしか見えませんが」
「……それがお国のためになるのなら、推奨する」
ああ、こいつもダメだなとユウバリは思った。
「海に帰りてえなあ……」
誰にも聞こえないような小さな声で、ユウバリはそうこぼした。




