40.フルタカ奪還作戦
フルタカ隊が本国の研究所に寄港していたときに発生した事件の記録である。
イスズ、イゴウ、ノカゼ、ツバキのフルメンテナンスが終わり、四頭は輸送艦に帰投。しかし、フルタカだけは研究所に残っていた。
重巡洋艦級であるフルタカは、もともと他よりもメンテナンスがかかるにしても遅すぎる。また何か罰を受けているのか、と気が落ち着かないイスズ。
そのとき、突然警報が鳴り響いた。
【革命軍が第七研究所を占拠。全施設封鎖および迎撃態勢への変更を確認。フルタカは依然第四メンテナンスルームにて係留中。奪還せよ】
研究所……対艦級ミサイルを何十基も備え、追尾炸裂システムまで完備している超攻撃的要塞……への突入命令が下された。
【フルタカが革命軍個体となった場合、すみやかに撃沈せよ】
陸上戦ができないイゴウを海に残し、イスズ、ノカゼ、ツバキで弾幕攻撃の中を駆け抜ける。
『ツバキ、対ミサイル用阻害剤散布』
『了』
迂回する時間はないので、一直線に第四メンテナンスルームを目指す。研究所に収容されていた個体は、避難していたり革命軍と交戦していたりと、あちこちから火の手があがっていた。
『こちらイスズ。司令部へ、能力上限解放を求む』
【了。三分間許可する】
イスズが深く息を吸う。
『敵国に粛清を、祖国に鉄血の義を……能力上限解放』
ぴり、とイスズの頭に軽い痛みが走る。同時に、その頭上にヘイローが展開された。
イスズの場合、もたらされるのは圧倒的な演算能力。普段は機翼二十パーツ分解が限界であるところを、四十パーツ分解。そして同時制御、並行演算するという離れ業である。
自爆。干渉。誘導。自爆。狙撃。誘爆。干渉。干渉。狙撃。誘導……雨あられと降り注ぐ攻撃の軌道を予測し、機翼デバイスを飛ばして全弾処理していく。
『ノカゼ、貴艦のデータもリアルタイム同期。こちらで同時演算する』
『了』
さらに追加される、ノカゼの視覚情報。交錯する弾道にめまいを感じながらも、イスズはさらに演算速度を加速させていく。
起爆と同時に発生する熱風にあおられそうになりながら、速度を落とさずに飛び続ける。そこには、焦燥感があった。なんとしても間に合わさなければならないと。
以前にもこうした事件があった。研究所が乗っ取られ、軍徒が革命軍の手に落ち、人格を全て消去され、革命軍の一員として人格を上書きされた個体。また、人格の上書きまではされなかったが、暴走した個体も。
軍の敵になるのなら、沈めるほかないだろう。イスズもそう考えていた。しかしもしも、今日フルタカが同じようになったら。この手で自沈させなければならなくなったら。そう考えると、怖くてたまらなかったのである。
フルタカは第四メンテナンスルームで横たわっていた。
どうしてか演算量が大きく制限され、意識は朦朧としていた。……キヌガサが前回暴走したことから、安全確保のため沈静化が行われている形であった。
フルタカに苦痛はなかった。ただ、眠りたいような心地がした。実際に心音は緩やかになり、呼吸数も減り。全身脱力して無防備に伏せていた。今までのフルメンテナンスでこんなことはなかったはず、どうして……そんな疑問も、まどろみにもみ消されていた。
そして、管制室にて革命軍団員が【人格的記憶全削除】と入力し、画面をタップした瞬間。
その電気信号が、ボスの声へと翻訳された瞬間。
もう抵抗するのも疲れたな、とフルタカが諦めて目を閉じた瞬間。
その鋼の檻を、一条の光が焼き貫いた。
「フルタカ!!!」
鋭く、激しく、でもよく知っている心地よい声にフルタカは目を覚ました。
檻を蹴破るように飛び込み、音の反響を確認するイスズ。同時に、五か所の配線を熱線で焼き切った。管制室内にも機翼を飛ばし、爆破して制御装置も破壊し、その場にいた全員を殺害した。
「はぁっ、はぁ、これで司令系配線は潰した……フルタカ、吾輩のことは、分かるか?」
ガチャリ、と機翼の銃口を構えながらイスズが問う。能力上限解放を使用した反動で息切れがひどく、体中に火傷と裂傷を帯びて、立っているのがやっとの状態で。
フルタカは、泣き出しそうな顔で、大きく頷いた。
「はい、イスズ。我は無事です。……こんなになるまで飛ばせてしまって、ごめんなさい」
今にも倒れそうなイスズを支えるように、翼腕で抱きしめるフルタカ。自分を助けてくれる誰かがいたことに、驚きながら安堵していた。自分に救われる権利はあったんだと、教えられたような心地であった。
「ありがとう。とても嬉しいです……うまく言葉がまとまりませんね。伝わって、ほしいのですが」
その柔らかな声にイスズは安堵し、体重を預けた。抱きしめることができる翼が自分には残っていないことが、とても悔やまれた。
【革命軍が全施設自爆機構を起動。速やかに帰投せよ】
せめて一分休ませてくれ、とイスズは思ったが。起爆まであと五分。休んでいる時間はなかった。
「我が運びましょうか?」
「いや、いい……自力で飛べる」
残った機翼を連結し、個数を確認して動作確認するイスズ。ギリギリ自重は支え切れるはず……?といった具合である。
「イスズ、ちょっとこちらを向いてもらえますか?」
「何だこんなときに……」
溜め息を吐きながらフルタカの方を向いたイスズ。その鼻先に、ちょん、と口づけが落とされた。
「……え」
呆気に取られて、間抜けな声を出してしまうイスズ。
「頑張れるおまじない、だそうです。マミヤとサワカゼが言っていました。こんなときじゃないと、できないと思いましたので」
はにかむフルタカ。イスズは依然として硬直していた。
「……我では不満ですか?」
やや不安そうな顔。しかしその目には、確信犯的な心が見え隠れしていた。
「……っ、帰るぞ!」
さっきまでの弱り切った姿はどこへやら、苛立った様子ですらあるイスズの足取りを見て、フルタカは笑った。




