37.手を出すか否か 前編
BL表現になります。苦手な方は飛ばしてください。
これは、カコ……フルタカ型二番艦である……と、サワカゼ……ミネカゼ型二番艦である……の一晩の記録である。
自身の格納庫で眠っていたカコの睡眠サイクルが不意に途切れる。目を開けて身を起こせば、サワカゼが扉から中に入ってくるのが見えた。
「帰ってきたばっかだってのに、大変だなお前も。今日はおやつの準備か?」
洗いたてらしい湿ったサワカゼの鱗と時間帯から、カコはおおよその状況を察して言った。
「これもワレの任務だからな。それに、キミの格納庫で一緒に寝られるんだ。これ以上に嬉しいことはない」
カコがふわりと翼腕をあげれば、サワカゼは嬉しそうにその下にもぐりこんだ。
「んだよ、俺がいなくて寂しかったのかよ?」
いつも以上に積極的なサワカゼを見て、カコはからかうように言った。
「ああ、寂しかったとも。キミは違うのか?」
少しくらい否定されると思っていたカコは、想像以上に素直なサワカゼの答えに驚き。その切り返しに口ごもってしまう。
「べ、別に……いや、やっぱりちょっと寂しかったかもしれねえ……」
こいつにハッタリは無駄だとよく理解しているカコは、やや頬を赤くしながら白状した。無意識のうちにサワカゼの傍で巻かれた尾が何よりも証拠であった。
「ノカゼをサワカゼと呼び間違えて落ち込んだ回数六回、尾の角度低下傾向二十四パーセント上昇。尾の過剰メンテナンス十七回。帰投中にワレの座標方向を視認した回数十二回……カコは存外寂しがりやかもしれないというノカゼの立論は間違っていなかったということか」
ふむ、と満足げなサワカゼ。あの野郎、とカコは拳を握りしめた。
「……ワレとしては、今キミはワレとキスしたいのではないか、と考えるのだが。違うか?」
キス、と言われてぎくりとかたまるカコ。尾は、やや立っていた。
「んだよ、証拠でもあんのかよ」
せめてもの抵抗として、カコはサワカゼを睨んだ。
「尾の過剰メンテナンス時、目で誘った際に食いついてきた回数三十八回。成功率で言えば百パーセント。そして、今ここにめちゃくちゃピカピカになった尾がある。故に、そう判断した」
カコは己の行いの愚直さに頭を抱えた。なまじ強がったせいで恥ずかしさが倍増して耳まで赤くなっていた。
「違ったか?」
「違わねえよむしろ正しすぎてこうなってんだよ」
ミネカゼ型の観察趣味はどうにかならないのか、とカコは溜め息を吐いた。
「……明日は全日艦隊移動、要するに我々は待機だ。しかも、今夜はボスから睡眠指示も出されていない」
サワカゼの声音が少しだけ変化したことに気づいたカコ。
「つまりこれは、そういう期待をしても……そういうことをしてもいいということではないか?」
サワカゼの目には、誘うような、熱いものが込められていた。
「……出向任務明けで疲れてるだろ、オマエ」
「ああ、非常に疲れている。だが……こんなに可愛いキミがじれったく目の前にいるのを放っておけるわけがないだろう?」
サワカゼがカコの尾を撫でる。それだけでカコの心臓は脈打ち、肩は震えてしまっていた。
「ワレの帰りをウズウズしながらずっと待っていたのかと思うと、愛しくてたまらなくてな。それに……この状況で我慢できるほど、ワレが理性的に見えるか?」
サワカゼの目は本気だった。いや、疲労でのハイも混じっていた。
止めた方がいいのか、いやでも俺だってしたいし。絶対休ませた方がいいよな、チクショウなんでこんないい顔してるんだよ……とカコは葛藤した。
何もしないまま、三分が経過した。
「……意外と紳士だな、キミ」
「うるせえちゃんと部下の気遣いができる上官なんだよ俺は。上官の言うことちゃんと聞けよ」
「ワレの方が年上だが」
「だから何だよ」
「年上への敬意ということで妥協してくれないだろうか」
「敬意あるからこそ寝ろっつってんだよ俺は」
むす、とむくれるサワカゼ。普段はきっちりと仕事をこなす分、こうしたオフの時間、とくにカコと過ごす時間はやや我が強くなる傾向があった。
「なんだ、したくないのかキミは」
「……別にしたくないわけじゃないけどさ……」
ぼそりと返すカコ。尾は不機嫌そうに床を叩いていた。
「久しぶりの添い寝だから、丁寧に洗ってきたのだが」
「そりゃ見りゃ分かる……おいこらチラ見せすんな。んな顔してもダメだぞ」
カコの前に回り、尾を揺らしてみるサワカゼ。その仕草はカコにはどことなくセクシーに感じられた。サワカゼの狙い通りである。




