3.隙間の時間 後編
作戦時刻五分前。五頭がゆっくりと格納庫から出て、甲板で待機態勢に入る。
【確認】
『充電率一〇〇%。蓄電器官異常なし。アオバ。出撃可』
『演算ノイズ無し。遠距離視力、良好。赤外線視力、良好。ミネカゼ。出撃可』
『翼剣動作異常なし。ハヤテ。出撃可』
『尾槌動作異常なし。思考加速演算三〇%。フブキ。出撃可』
『感情演算抑制一〇%。背殻動作異常なし。サクラ。出撃可』
以前は人間側だけでの確認作業のみであったが、万全を期すため軍徒自身でも確認作業を行わせるようになった形である。
【出撃】
その命令と同時に、真っ先にサクラが飛び上がる。それにハヤテ、ミネカゼ、アオバ、フブキが続いた。
天候は晴れ。月の光も出ており、波も穏やかで幻想的ですらある光景。しかし、そこには確かな緊張感が存在していた。
『二時の方向に戦闘機四機。九時の方向にアーマイェーガ六機。サクラ。速度そのまま、パターン05で散布』
『了!』
一番前に躍り出たサクラが背殻……背中の鱗を展開し、中から鱗粉を噴き出す。真っ白な粒は月光に瞬き、敵軍の視野に薄く靄をかけた。
そのまま一気に高度を上げ、サクラの口元に火花が散る。
「いっくよー!キラキラファイヤー!」
撒き散らした鱗粉に火球が撃ち込まれる。宙に漂っていた粉塵は連鎖的な燃焼を引き起こし、強烈な炸裂音と、夜闇を吹き飛ばすような閃光を放つ。
強烈な光に一瞬動きが鈍る敵機。対強光膜を下し、ミネカゼがその航行軌道の揺らぎを見つめる。
『解析完了。グラフィックフェイク無し。全機生体反応無し。ハヤテ、アーマイェーガを』
『了』
速度を上げるハヤテ。弾幕攻撃の隙間を縫って敵陣に突入し、先頭のアーマイェーガに肉薄する。
振り下ろされる斧をひらりと躱し、その横を通り抜ける瞬間。がちゃん、という音と共に翼支骨から翼剣……鋭利な長い爪が分離し。角度が微調整され、すれ違いざまにその鋼鉄の首を跳ね飛ばした。
『一首目』
改ミネカゼ型として、実験的に撃墜機能が付与されたカミカゼ型。その性能は予想をはるかに上回っており、敵軍からは『辻斬り型』とおそれられ。こうした優秀な戦績が挙げられたからこそ、駆逐艦級が補佐に留まらず撃墜型として量産されることになったのである。
『対艦ミサイルの接近を確認。起動予測演算開始。隊長、迎撃を』
『了』
バチッ、とアオバの尾に電流が光った。
『フブキ、戦闘機を』
『了』
フブキが速度を落とし、隊列から外れ戦闘機群と向き合う。他個体より動きが鈍重。優先撃破対象としてAI判定を行った無人機は、一斉にフブキへと襲い掛かった。
機銃の嵐を一身に引き受け、痛みにやや顔をしかめるフブキ。しかしミサイルより平気、と判断を下して距離を詰め。戦闘機が頭上を通り抜ける瞬間にぐるりと身をひねり。尾槌……太く、先端に重い槌のような器官を帯びたそれを思いっきり叩きつけ。一撃で機体を爆散させた。
『一機目』
迫りくる二機目の右翼に嚙みつき、へし折り。三機目のコックピット……主要演算装置へ投擲し、命中させた。これらの一連の動きは、以前アオバが行ったものであり。フブキの学習能力の高さを示していた。
残りの一機をミネカゼが撃墜したところで、対艦ミサイルがアオバの視界に入る。
『指定座標確認。発射』
星空を貫く雷。その砲撃を前に、ミサイルは虚空へと散った。
花火ってこんな感じなのかな、とアオバは思った。
その後、友軍の戦闘機群からの援護もあり。敵輸送艦隊を壊滅させることに成功した。
【帰投】
命令を受け、母艦へと翻るアオバ。ああ、もう一分、十秒でもいいから、好きに飛ばせてくれたらいいのにと思いながら。
「サクラの必殺技どうだった!?可愛かった!?」
「はい、とても可愛かったです!サクラって感じでした」
「今日のせんぱいは、プチピカピカだったね!」
出撃よりもずっとゆっくりに、バレない程度に速度を落とした飛行。
この帰り道が、隙間の時間がずっと続いていればいいのにという願いをみな一様に胸に抱きながら、そっと蓋を閉じた。
願いがこぼれてしまったら、きっとここにはいられない。そう知っているから。




