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34.消えた首

 これはイーヴェンのとある沿海部地域で起きた事件についての記録である。


 ある朝、海浜公園に死体が打ち上げられた。大きさは五メートル近く。異臭とその構造から、大型軍徒の首であると鑑識は判断を下した。


 そして漂着から十五日後、その首は消えた。


 周囲には引き摺ったような痕跡が遺されており、その跡は海中へと消えていた。何者かが持ち去ったのだろう、と鑑識は判断を下した。


 以下は、首の漂着から始まる関係者らの証言の要旨をまとめたものである。


『はい、自分が通報しました。変な匂いがしたので、様子を見に行ったんです。どす黒くて、不気味でした。とても一般人の手に負えるものではないと思いました。なので、すぐに警察に通報しました。___六十代男性、パート勤務』


『いつまで経っても片付かない、匂いのせいで虫も増えて鳥も集まってうるさくてたまらなくて。早くどうにかしてほしいと思ってましたけど、誰に訴えればいいのかも分からなくて困りました。___四十代女性、会社員』


『我々だって対処しようと動いていました。ただ、こんな大型個体の漂着は前例がなく、どこの部署が対処すべきか、上層部に掛け合いましたが連絡がなく……住民の苦情の対応にも追われて手が回らない状態でした。___三十代男性、警察官』


『小さいのなら、うちで何度か焼却所まで運んだことがあります。たいてい、地主さんからの清掃依頼という形で。大型、というかあのサイズだと戦艦級ですし、我々だけではどうにも判断ができず……。___五十代男性、清掃業者』


『色んな業者に手当たり次第に連絡しました。鱗とか角とか、引きはがそうと若いごろつきが集まっていましたので。ただ、どこもうちじゃ決められない、ようやく雇った新規重機免許を持った子が徴兵されたんで重機が使えないだとか。本当に困りました。___七十代男性、地主』


『何故撮影したのかって言われても。そりゃ面白かったから、友達にも見せたくて……ネットにはあげてないので、警察沙汰は勘弁してください。___十代男性、市内高等学校所属』


『インターネットに投稿したのは自分です。軍徒による環境破壊は本当に許しがたく、常日頃からこうした問題を世に問いかけています。軍徒運用のための焼却剤、導体煙幕の乱用。これは海洋生物に著しい害を与えています。あなたはこのグラフを見たことがありますか?もしも見たことがないのなら、是非このチャンネルを見てください。URLは/情報提供者として不適切と判断。聞き込み切り上げ』


『こちらも資金が不足していまして。いっそのこと、竜の首の街ということで観光財源にならないかと検討していたところです。ただ、あの腐乱死体ではどうにもならないので、早く撤去して標本にでもしてほしいと打診しました___六十代男性、市長』



『ええ、市民の方々からの連絡を受けて、各課に通達を行いました。しかし、どこの課も自分の管轄ではない、と。予算や処理ルートの段取りも不明瞭なまま処分計画書は放置されていました。___二十代男性、海軍所属』


『うちの艦隊は軍徒を編成に組み込んでいるだけで、死体処理は処理課の管轄です。その時期はちょうどキリシマが毒を食らって瀕死の状態で、こっちはてんやわんやで……ああ、キリシマは死にましたよ。___四十代男性、海軍所属』


『我々処理課は、あくまで洋上、作戦海域が管轄です。本土の首一本の回収まで行っていたら仕事になりません。葬送艦が一般エリアに侵入するとなれば、近隣漁港、漁船にも連絡をしなければなりません。こうした対処よりも、市による単純処理の方が早いと判断しました___三十代男性、海軍所属』





 この事件に対し海軍地方長官は次の様に公表した。

『何故誰も、自分たちで片づけようという気概を持っていないのか。それでも祖国の民か。自分たちでどうにもならないなら、軍部に協力を仰ぐべし。何故それができないのか、全くもって嘆かわしい』



 ここに、市民からの強い反発が起こった。


 





『ねえ、あの子は誰だったの?___十代女性、市内中学校所属』




 記録はここで終了している。

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