33.効率性の犠牲者
これは、マミヤとキヌガサの死亡後、一か月後の記録である。
マミヤとキヌガサは、何事もなかったかのように救護艦の甲板に座っていた。
「今回は一緒に死ねてよかったね」
「そうですわね。待たされる方は寂しいですもの」
奇妙な話ではない。全身ボディの予備と、記憶データの全てがバックアップされており、復元されただけである。
この二頭は特に、死亡しても記憶を引き継げるよう特殊な改造が施されていた。救護という任務を行うため経験やノウハウは蓄積した方が効率的、という研究所と司令部の判断である。同時に、何回まで死亡しても人格が壊れずに維持されるか、という実験の側面もあった。
マミヤの目の前で、キヌガサはベオウルフに首を刎ねられた。
キヌガサの目の前で、マミヤはミサイルに轢き殺された
そんな経験を、何度も繰り返しているのである。
蘇生されて、二、三回目はお互いにパニック症状が見られた。動悸、過呼吸、視認拒否、応答拒否、接触拒否。戻ってきてくれた喜び。顔を見る度にまざまざと蘇る、死の匂い。今、目の前にいる彼女への疑心。疑心を抱く自分への嫌悪。死んだはずの相手が生きている。これははたして、生きていると言えるのか?そうした大量の感情が、一度に襲い掛かるのである。
「殺すのはやっぱりきつかったなあ……ヤツガレもすぐ死んだからまだよかったけど」
「重巡級としては、シリンジ込みでも勝つべきでしたわね。次はもっとうまくやりますわ。アナタを先に死なせるためにも」
慣れつつある、という恐怖を二頭は感じていた。だが、元に戻るにはもう手遅れであった。
「接触は、しばらく控えた方がいいかもしれませんわね」
「うん、そうだね……ハグもキスもしたい気持ちはあるけどね。まだちょっと引きずりそう。胃のあたりがウッて感じする」
二頭は、静かに海を見ていた。引き継がれた記憶データ。そこに何か失われたものはないか。自分たちは、何か大事なものを忘れてしまっていないか。そんな冷たい心地を抱きながら。




