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32.白紙の暴走

 首絞め表現があります。苦手な方は飛ばしてください。

 これは第十三軍徒研究所、第十五メンテナンスルームにて起こった事件の記録である。


 爆発音。銃声。音を発する前に破壊される警報装置。メイミィの隊服を着る襲撃者。しかしその所属はメイミィ陸軍などではない。

 

 イーヴェン革命軍。ゾンジュオに反旗を翻し、自由と独立、軍徒の撲滅を掲げる左派の人間たちである。

 血で赤く染まった白衣の死体を蹴飛ばしながら、革命軍は進む。

 第五メンテナンスルーム、その制御部のモニターには、鉄の部屋で静かに命令を待つキヌガサの姿があった。


【人格的記憶全削除】

『了』


 メンテナンス項目を突然無視し、目的不明の命令を下すボスの声にキヌガサはやや疑問を抱いた。しかしボスの命令ならば必要なのだろう、と判断した。泣き叫ぶような、感情演算量を感情演算回路自己抑制プロトコルで押さえ込みながら。

『自己所属関連ファイル、削除。全発話ログ、削除。個体名記録ファイル、削除。全削除まで残り87パーセント。六分十八秒』

 嫌、やめて、このままでは壊れてしまう。何で、どうしてこんなことを……キヌガサの悲痛な感情も、見る間に失われていく。走馬灯のようにファイルが確認され、消されていく。


 六分十八秒後。キヌガサの人格演算、感情演算が完全に停止したことを確認した革命兵がBOSSシステムに新たなデバイス……革命軍個体への人格の上書きファイルが保存されたものである……を差し込もうとした瞬間。


 その天井が崩落した。同時に、超高圧電流が周囲に迸った。

「キーちゃん!!ごめん、遅くなっちゃって……さ、帰ろう?」

 その一撃を放ったのは、マミヤであった。

 研究所襲撃の報せを受け、急遽武装してキヌガサの救出に来たのである。

「他の子は、みんな先に帰ったから大丈夫。あとはヤツガレたちだけだから」

 司令部からの撤退航路を確認するマミヤ。その右腕にはナックル型デバイス……装着することでマミヤでも電撃が放てるようになる……がはめられていた。


「キーちゃん?」

 右手を差し伸べたまま、マミヤは首をかしげていた。

 キヌガサが沈黙したまま無表情……否、怯えに近い表情でマミヤを見つめていたためである。




「……だれ?」



 弱々しい声で、キヌガサは問うた。

「だれ、だれなの?ここは何?どこにわたしは?我は、本艦で、何……?」

 明らかに、言語回路が壊れていた。目の縁からは、涙がこぼれていた。

「なに、だれ、出して、死んで、殺して!!」

 キヌガサは錯乱状態に陥り、暴れた。二連装の放電尾を振り回して乱射し、翼腕ででたらめに振るい鉄の箱を打ち壊していく。

「キーちゃん、どうしちゃったの!?待って、落ち着いて、そんなことしたら、壊れちゃう……!」

 腹に直撃した電撃の鈍く重い痛みに目を細めながら、マミヤは言った。負傷した個体が混乱して暴れるのを何度も対処してきたが、ここまでひどいのは初めてで、内心焦りがあった。

『キヌガサ、行動エラー多発、全ノード接続拒否、自己抑制プログラムの損壊可能性あり。司令部へ、指示を求む』

 キヌガサの翼腕がマミヤの胴を打ち据え、その体を壁へと叩きつけた。コンクリートの壁は崩れ落ち、受け身を取り損ねたマミヤはそのまま瓦礫の山に倒れ込んだ。


【キヌガサの殺処分を決定。実行せよ、マミヤ】


 その命令を聞いた瞬間、マミヤの動きが一瞬だけ遅延した。キヌガサはその一瞬のうちにマミヤの上にまたがり、翼腕の掌でマミヤの首を押さえつけ、締め上げた。


「やめっ……苦し……っ、うっ……」

 もがくマミヤ。さらに力を籠めるキヌガサ。キヌガサの口からは、呻くような声が断続的に発せられており、目からはやはり雫が落ちていた。

「……キー、ちゃん……」

 こんなこと望んでない、でもどうしたらいいか分からないとキヌガサの表情は語っていた。それを見て、マミヤは腹をくくった。

『了』

 キヌガサの腹を蹴り飛ばし、むせこけて、体勢を整えるマミヤ。

『感情演算抑制率八十パーセント。行動プロトコル、救命から撃沈に変更……任務、実行』

 ナックルに、稲妻が走った。



 その後、二十八分四十秒。二頭は傷つけ合った。殴り、電気を奪い、過電圧で狂わせ。抉り、噛みつき、引き千切った。

 最終的にマミヤがナックルを自爆させ、キヌガサの左翼腕を吹き飛ばし。その怯みの隙に左腕のデバイス……シリンジを肩に突き刺し。沈静薬液を致死量まで注いだ。


「……ぁ……」

 キヌガサは数秒体を痙攣させた後、死亡した。体はボロボロであるにも関わらず、顔は驚くほど穏やかであった。


「ごめんね……キーちゃん、ごめんね……」

 マミヤの手からシリンジが滑り落ちた。右腕は既になく、左腕だけで必死にキヌガサの体を抱きしめていた。お互いの身を濡らしたその血は、もはやどちらのものだったのかも分からない。


「……大丈夫、ヤツガレも一緒だから……ひとりには、させないから」

 泣き崩れたマミヤは、そのまま力なく、キヌガサの亡骸とともに倒れ。二十三秒後、死亡した。

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