31.本物
マミヤとキヌガサのGL表現になります。苦手な方は飛ばしてください。
これは救護艦における夜の記録である。
ヒカワマル、ユウバリ、ノカゼは早々に眠りにつき。マミヤとキヌガサは、特別格納庫にて待機していた。
【充電】
命令を聞いて、向かい合う二頭。マミヤはやや身を低くして、キヌガサは翼腕を広げてマミヤの背に回し。その首筋に、軽く牙を当てた。
バチ、と双方の鱗表面に細くプラズマが発生し。マミヤの電力がキヌガサに吸い上げられていく。
「いつも悪いですわね、時間をかけてしまって」
「ううん、ヤツガレ、これ好きだから。全然気にしなくていいよ」
ぎゅ、とマミヤはキヌガサの身に腕を回して抱きしめた。
フルタカ型は、放電能力に重点を置いた設計な分、自力での発電能力が低い。そのため、アオバの充電床であったり、こうした補給艦級個体からの充電が必要なのであった。一方でマミヤは発電能力は高いが、放電器官がなくフルタカ型のように戦えないという側面を持っていた。
「もっと噛みついてもいいんだよ?ヤツガレ、けっこう丈夫だから」
「前うっかり噛み跡つけて、注意されましたもの。同じ轍は踏めませんわ」
「……キーちゃんになら、別にいいのに」
ぼそり、とマミヤは言った。別にいいというより、むしろつけてもらいたいくらい、と表情が物語っていた。
「アナタが良くても、司令部が困るのですわ。我慢してくださいまし」
すり、とマミヤの首筋に小さく頬を寄せるキヌガサ。その仕草はまるで、恋人に甘えるかのようであった。
「ねえ、キーちゃん。……キス、してもいいかな」
物欲しそうな目で、恐々とした声でマミヤは問うた。その手は既に、キヌガサの頬に添えられていた。
「ええ、もちろん構いませんわ。……おいで」
そう言って、二頭はキスをした。二頭は、いつからかそんな間柄になっていたのである。
初めては、マミヤから。何となく、愛しくて、本能的に。額に口づけを、ちょっと鼻をペロッとしていいかな、と。ぎこちなく、でもどうにかしてその思いを伝えたかったから。
キスは、キヌガサから。これもまた何となく、人間同士が熱く交わしているのを見て、してみたいと思ったから。マミヤとならいいかな……マミヤとそういうことをしたい、と思ったからである。
竜という骨格上、キスというのは非常に難しく、始めは不器用にしていたが。何度か重ねていくうちにやり方が分かってきて。今ではもう、こんな可愛いキーちゃんを他の子に見せたくない、とマミヤがキヌガサを翼ですっぽりと隠して興じるくらいには余裕ができていた。
「今日はまたがっつきましたわね……息が止まるかと思いましたわよ」
「ご、ごめん、つい……最近ずっとアオバ隊で泊まってたから、久しぶりで嬉しくて」
荒くなった息を吐き、口元の唾液を拭うキヌガサ。マミヤはオロオロと手をアワアワと揺らしていた。あ、ちょっと息苦しそうな目つき悪いキーちゃんも可愛いなこれ……と内心考えていたこともここに追記しておく。
「それに、その……お姉様お姉様って言ってて、ちょっとムッと思って……ヤツガレがいるのにって思っちゃって」
要するに、嫉妬である。マミヤは殊の外強くキヌガサに好意を寄せていた。
むくれるマミヤの言葉を聞き、キヌガサは溜め息を吐いた。
「そんなヤキモチ妬かないでほしいですわ。……大丈夫、そういう相手として見ているのはあなただけですもの、マミヤ」
キヌガサは、翼腕の掌でマミヤの頭を撫でた。わざわざ言葉にしてやらないと納得してくれない面倒な子、と思いながら。でも何だかんだ恥ずかしくても言ってやる自分はもう絆されているのだわ、と感じながら。
「ヤツガレたちじゃ、子供はできないんだよね」
「ええ、両方メス型ですもの」
「だったらさ、こういうことしたくなる気持ちって嘘なのかな。……こういう気持ちって、ほんとじゃないのかな」
嘘でもほんとでもない。その言い回しに、キヌガサは昼間のユウバリの発言を思い出した。
そんなことを気にするなんて、やっぱり面倒な子だわ、と感じた。
「アナタが本物だと思うのなら、本物でいいのですわ。少なくとも、わたくしのこの気持ちは本物と思っておりますの。……それとも、アナタはわたくしを疑いますの?」
マミヤは大きく首を横に振った。
「疑ってなんかないよ!!……あ、そうなんだ、そっか、それでいいんだ」
揺れる心。揺らぐ倫理。しかし最終的に、信じるものを決めるのは自分。その報いを受けるのも自分。たったそれだけの、単純な論理なのである。
本来ならば、子をなすための戯れであるはずのキス。しかしそこには、多分の例外が含まれているのである。
「やっぱりキーちゃんのこと好きだなって思ったよ、ありがと」
「……感謝される理由はよく分かりませんが。納得したのならいいですわ」
はにかむマミヤを見て、やや照れるキヌガサ。頬は、朱に染まっていた。
「キーちゃんは、ヤツガレのこと信じてくれる?」
「ええ、もちろん。疑っていたら、こんなことしてませんわ」
キヌガサは、ごろりと寝転がった。長い二本の尾は、マミヤの身にゆるく巻き付けられていた。
「……今夜は、急速充電の気分?」
「ええ、そんな気分ですわ。アナタは?」
「同じだよ、もちろん。……できるだけ、引き延ばそうね」
接触面積が増えれば、供給できる電力量は大きくなる。そのため、充電時間は短くなる。でもその分、濃密な時間を過ごせる。それが急速充電。
「後で洗浄室一緒に行こうね」
「そうですわね」
キヌガサとマミヤは、ひとときの共有された幸せを噛みしめて。お互いの尾を静かに絡め合わせた。




