29.雑談 前編
アオバが全治し、前線復帰してしばらく後。これは、救護隊における記録である。
救護艦内。救護活動が主な任務であり、連携行動のため広く大きく作られた格納庫兼応急治療エリアの一角にて。
「あれ?キーちゃん元気ないね、大丈夫?」
補給艦級であるマミヤ……任務は友軍回収および発電であり、主にフルタカ型への電力供給を行う個体である……がキヌガサに問いかけた。負傷個体や死体を運搬するため、体格は重巡洋艦級に相当し、大きく発達させられた両腕と薄墨色の巨大な翼を持つが。その物腰は柔らかく、キヌガサに対しては親しい友人の様に接していた。
「一気にお姉様成分を摂取したせいでロスが大きくて辛いですわ……」
「うーん、ごめんヤツガレじゃどうにもならないかなそれ」
格納庫の隅に丸くなってうずくまるキヌガサ。マミヤはやや心配しながらも、慣れたことなので苦笑していた。
「アオバお姉様が、わたくしとフルタカお姉様の画像を撮ってくださったの。そのときのお顔があまりにも尊くて眩しくて……怪我さえなかったら全力で抱きしめていたところでしたわ」
「キーちゃんのフルパワーで抱きしめたらアオバさんどこか骨折すると思うんだけど」
「瞬間的に出力制限するプロトコルが必要ですわね」
「まずは自力で出力調整する努力が必要なんじゃないかな」
キヌガサの肩をやさしくさすってやるマミヤ。艦内では大人しく、静かにするというのが基本であるが。救護艦においては試験的にその既定の緩和が行われていた。救護活動は特に臨機応変な連携を必要とするため、軍徒間においてもコミュニケーション能力と信頼が必要かもしれない、という判断である。……コミュニケーションといっても、ここまで高度で複雑な発話が行われていると知っているのは、ごく一部であるが。
様々な部隊をめぐりながらデータを収集し、時には部隊の編成にも携わるという点で、救護隊は非常に実験的な側面が強いのであった。
「今回は一命を取り留めたからの、万々歳じゃよ。あの状態から回復するとはすごいのう、お主のお姉さん」
治療艦級であるヒカワマル……草色の竜……が言った。背の薄い鱗を貼り付けて止血、長尾鶏のような長い帯状の尾を巻き付けて包帯にする。背腕……背から伸びるもう一対の腕のことである……でこれらの処置を素早く行える。戦闘力こそないが、人力ではどうにもならない大きさの軍徒の処置を行える点で、救護兵からも一目置かれる存在。
「そうですの、アオバお姉様はすごいのですわ!いや、あの状態から全治するのはちょっとすごすぎる気がしますけれども」
こくり、と無言のままに頷いたのはノカゼである。今回、カコ隊のサワカゼと交代することになり、輸送されている形である。
「ノカゼをお兄様のところまでお送りして、後は大洋を回る形でユウバリを本土隊……ヒエイ隊に引き継ぎ、ということでよろしいですわね?」
キヌガサが振り返った先にいたのは、ややだらしない、と形容されそうな格好であくびをしていたユウバリである。
「ええ、それで合ってます。まあ小生としては、ここでずっと居候していたいのですがねえ」
軽巡洋艦級でありながらも、撃墜型としては設計されていない特異な個体。系統としてはマツ型の上位に位置し、電波干渉性のある霧を発生させる能力を持つ。ただ海上では気流が安定しないため霧の運用が難しく、再び陸戦部隊に送り返される形である。
「定時に補給させてもらえるし、喋っていいし、寒くないし、ほんと天国ですよここ。あー、もう陸帰りたくねえ……」
五体投地するユウバリ。隠蔽、護衛役として優秀ではあるが。ユキカゼやミクマとはまた別の方向性で軍徒らしからぬ、欲に正直な性格をしていた。
「連合隊にいたのもほんの数日でしたけどね?いやあほんと楽しかったですよ。何よりサクラちゃんとツバキちゃんが可愛い。たまらん。あの純粋無垢な感じ、守りたい……あとついでになでなでしたい」
「なんか不審者みたいに感じるのはヤツガレだけかな」
こんな調子である。マミヤはややドン引きしていた。




