28.ケガの功名? 後編
幸い、母艦での応急処置が間に合い。救護艦も速やかに到着し、手術が行われ。アオバは一命を取り留めた。
アオバを襲ったのは、後にフェイクフレンドと名付けられる、軍徒偽装型特殊無人機。竜型のフレームに合成繊維……先の海戦でサクラから剥落した鱗から培養されたものである……を纏ったもの。静穏性に優れ、一定以上の濃度に達した阻害粒子の中でなら至近距離にまで接近が可能。友軍と見せかけて爆破させることから、軍徒同士での信頼関係にダメージを与えることもできるのではないか、と開発されたメイミィの新兵器である。
普段よりもミネカゼとノカゼに射線が集中していたことから、何か敵に策があるのかもしれないとフルタカは感じていた。ただ、それを後から言うのは適切でないと判断した。敵機の接近を索敵できず自責の念を感じるミネカゼ型二頭に対し失礼であると感じたためである。
一方、アオバは救護艦内で全身ギプス固定されており。寝返りも打てず天井とにらめっこするという退屈を味わっていた。痛覚遮断演算が起動しており、痛みもなくただ本当に退屈しか感じないのである。
『自己点検結果について報告を』
アオバの固定代の傍らに座りながら、アオバに瓜二つな金色の竜……ただしその尾は二本である……アオバ型二番艦・キヌガサが問うた。
『自己再生演算正常。損傷率十二パーセントにまで改善。感情演算回路静的。精神混乱バグ該当なし』
ようやく声帯が回復し、発声が許可されたアオバ。喋ることだけが暇を紛らわす刺激であった。
「ごめんなさいです、僕の隊の旗艦を任せてしまって……」
「これがわたくしの任務ですから。アオバお姉様が気に病む必要はありませんわ」
キヌガサの任務は、救護隊の護衛および負傷した個体が復帰するまでの代理である。二本の尾を使っての雷撃、その速射性は素晴らしく、旗艦として申し分ないものであった。
「あまり喋ってもお体に障りますわ。お休みくださいまし」
「それはそうですが……あまりにも暇です。天井のシミを数えるのも飽きたのです」
「では、内部メモリの整理はいかがでしょう?友軍の画像ファイルの閲覧は精神的活性化、リラックス効果の可能性があると先日のアップデートで聞きましたわ」
「そうですね、そうするです」
そして数時間が経ち、キヌガサフルタカと交代になった。ボディに重大な損害を受けた個体が思考演算に支障をきたし、暴走した事例があるためである。いわば監視役、万が一の場合の処分役という立ち位置であった。
「アオバ、変わりはありませんか?」
「はい。とても暇です」
「思ったよりも元気そうですね。キヌガサ、サクラたちにも伝えてやってもらえますか?」
「承りましたわ、フルタカお姉様」
こうして、キヌガサがフルタカとすれ違って出ていこうとしたとき。不意にアオバがそれを引き留めた。
「すみません、キヌガサ、姉様。僕の顔を覗いてもらえるですか?ほんと、ちょっとでいいので」
これは特殊任務であり、通常戦闘ほど厳格な行動規定は行われていない。ならば去り際、入り際に顔を少し覗き込むくらいは許されるだろうとキヌガサとフルタカは判断した。
「これでいいですか?」
「はい。少しそのままで……記録できました。ありがとう、です」
アオバの視界。右にフルタカ、左にキヌガサ。アオバの画像ファイルの中に、また一つ画像が追加された。
「ふたりと一緒にいられるのも、すごく珍しいので……画像、記録できてすごく嬉しいです」
ふにゃ、と軍徒らしからぬくだけた笑みを見せるアオバ。
フルタカとキヌガサは思わず翼腕を軽くホールドアップした。意図しすぎて抱きしめたくなったのを理性で押しとどめたのである。
「……気持ちは嬉しいですが、やはり怪我はよくありませんよ、アオバ」
「ええ、そうですわ。フルタカお姉様の言う通りですの」
「はい、次からは気を付けるですよ、もちろん」
そう言って、アオバはまた小さく笑った。
そしてその言葉は、また破られることになる。




