2.隙間の時間 前編
これは、アオバを旗艦とするアオバ隊での記録である。
ここでは特に、軍徒専用秘匿周波数……通称、おしゃべり回線での発話を大いに含む。何故人間に聞こえない声を発することができるのか、軍徒たちは知らない。いつか軍徒たちの間で通信し、団結して反旗を翻すことができるように……という、博士の意図など知る由もないのである。
本日は、十八時から夜戦、敵艦隊への強襲を行う予定。そのため、午前中は待機時間であり。モニターでの作戦行動、航行ルートの確認が行われる。実際には、既にデータファイルとして各個体に情報は伝達されているが、改めて外界から視覚的に情報認識させることでどのような演算処理が行われるのかを検証するためである。
確認作業が終わったら、恒例の愛国主義ムービーの時間である。祖国を愛せよ、敵を憎み討ち滅ぼせ、栄えある死を誇りとせよ、といった具合の内容である。
これは使いまわしの映像で構成されているため、アオバたちにとっては非常に退屈なものである。これが三十分も流されるのだから、演算刺激も非常に小さくなる……ざっくり言えば、眠たくなるビデオなのであった。
「もうねむたいよー!ねえ寝ていいかな!?サクラもう寝ちゃう!」
真っ先にしびれを切らしたのは、サクラ……縹色の小柄な竜……であった。駆逐艦級の中でも非常に若い個体であり、陽動・攪乱行動型ということで突発的行動採用モデル……平たく言えば、跳ね回る子供のような設計がなされていた。
「僕も眠いです。一緒に寝るですか、サクラ」
アオバは重巡洋艦級であり、旗艦を務めるためにある程度理性的に行動するよう設計されているはずなのだが。サクラに引っ張られることが非常に多かった。
「わーい!せんぱいの背中でお昼寝ー!」
「待ちたまえサクラ、キミまだ提出ファイル作ってないだろう。アオバ、キミも同調せずちゃんとしたまえ。このあいだ再提出することになっただろう?」
アオバの背中に乗ってキャッキャするサクラを制止するミネカゼ……サクラよりは大きいが、細身の灰色の竜。この部隊の中では保護者的な、ある意味お母さん的な立ち位置であった。
「ちゃんと僕は提出したですよ!メイミィは悪い奴で、ゾンジュオのお言うことはちゃんと聞かないといけなくて、頑張るイーヴェンを応援しないといけないって、いつも通り書いたですよ?」
いわば、読書感想文のようなものであった。毎回同じ内容のビデオを見て同じ作文を出すのは、個体によっては拷問に近いものであった。
「提出前にファイルはちゃんと確認したかい?」
「もちろんです、ちゃんとデータファイル034を……あ、間違えて隣のファイル出しちゃってるですね……」
重巡洋艦級のくせにかなりのポンコツ。というかドジが目立つのがアオバであった。
「どうやったら提出ファイル間違えるんだよオマエ」
辛辣に、呆れたようにアオバを見るハヤテ……翼に長大な爪を携えた灰緑色の竜。仕事に忠実、真面目な性格、ただし口が悪い。そんなタイプである。
「いやあですね、眠いなあと思いながら出したのです。寝落ちしちゃったサクラ可愛いなあと思って。そしたらうっかりサクラの可愛い寝顔画像ファイルの方を送信してしまって……」
「馬鹿じゃねえの?」
「ハヤテ、もう少しオブラートに包んでやりなさい」
オブラートに包むだけで、内容に関しては否定を入れないミネカゼ。彼もやはりアオバのドジには頭を悩まされていた。
「あのぉ……モニターが見えないですぅ……」
まごまごしながら進言するのは、フブキ……尾にハンマーのような特殊な器官をもった丁字色竜である。ひとよりワンテンポ遅れやすい、引っ込み思案のビビりすぎて演算遅延がひどい、もっとてきぱき動けと司令部からよく叱られがち。現に、発言が遅れてしまいビデオが全く見えていない状況になってしまっていた。
「そこは心配ないよ、フブキ。前回のと同じだからね。正直毎回書かせる理由が分からない」
「本音出てるぞミネカゼ」
サクラはというと、いつの間にかビデオが終わっているのをいいことに部屋の中を走り回っている。下の階にいる一兵卒からしたら尋常ではない騒音であり、たまったものではない。
ビデオが終わり、三分間の感想文出力時間。みんなビデオを見ながら書き上げている、ハヤテに至っては前回のと同じのを提出するため、ここは貴重なお喋りタイムである。
「はいはーい!サクラ、みんなの必殺技名考えたい!」
ぴょん、と跳ねたサクラが元気よく前脚を挙げた。貴重な時間、思考加速演算を使ってまで話す内容は、たいていくだらないものである。
「そうですか、では、僕の必殺技?は何ですか?」
「んーと、ピカピカキャノン!尻尾からジュババババーー!ってなって綺麗だから!」
「語彙はともかく、特徴をよく捉えているね」
「なあ、俺帰っていい?」
「だ、ダメですよぉハヤテ君……!」
仲は良い、非常に良いと評価されるアオバ隊。ただしまとまりがあるかと聞かれればそんなことはない。
「ハヤテはねー、ズタズタブレード!アーマイェーガもズタズタ切っちゃうから!」
「間違っちゃいねえけどよ、なんで擬音入れるんだよ。ダセえ」
「えー?擬音入れた方が分かりやすくない?」
文句は言いながらも話はちゃんと聞くあたりがハヤテである。
「フブキはー、グルグルハンマー!戦闘機に轢かれそうになる寸前でのはんげき!かっこいい!」
「轢かれたくて轢かれそうになってるわけではないんですけどぉ……かっこいいですか、えへへ」
十分に敵機を引き付けてから撃墜せよ、とインプットされているが。どこまで引き付けたらいいんだっけ、あ、敵機思ったより速い、え、噓でしょもう目の前!?といった具合でいつもギリギリになるのがフブキである。
「あんだけ近けりゃ当たるだろうけどよ。被弾するリスクがデカいだろ。もうちょい早くしろ馬鹿」
「うう、分かってます、分かってますけどぉ……!」
涙目になるフブキの背中を優しく撫でおろすミネカゼ。
「言い方は乱暴だがね。ハヤテとしてもキミに怪我をしてもらいたくない……心配してるだけだよ。だからそう落ち込むことはないよ、フブキ」
「え、ハヤテ君が、わたしのこと心配してくれて……?は、ハヤテ君」
「うっせえ。とろくてイライラするだけだっての」
ハヤテとフブキは、アオバという砲台を最大限に活かすための露払い。斜線上の障害物となる敵機を潰すハヤテに、アオバ自身への攻撃部隊を撃滅するフブキ。
飛ぶ場所は違っても、仕事が似通っていることから、この二頭は共に行動することが多く。現にフブキの隣にハヤテが腰を下ろしていた。剣のごとく鋭利な翼の爪を大人しく床に下しているあたりは、ハヤテなりの配慮である。
「ハヤテはフブキと仲良しですから。心配するのは当然です」
「仲良くねーわ。眼球パーツ交換してこい」
「僕、知ってるですよ。つんでれ?というんですよね」
「おう喧嘩なら買ってやるぜ隊長。甲板出ろ」
「やめたまえハヤテ。キミらで演習したら洒落にならなくなる」
そんな喧嘩腰の雰囲気も全く気にしないまま、サクラはあれこれ思案していた。
「うーん、ミネカゼってピカピカしたりしないし、演算型だから必殺技って感じのがない……むずかしい!」
「無理をしなくていいよ、サクラ。気持ちだけでも十分嬉しいからね」
「でも、ミネカゼも友達だもん、絶対名前つけるから!待ってて、今アーカイブ頑張って探すから!」
そして、サクラが出した結論は。
「マジカル☆アイズ!演算がすごくてマジカルな感じだから!」
「マジカルではないよ、ロジカルだよサクラ」
「ツッコむところそこか?」
ミネカゼのツッコミは的確であることが多い。しかし時々論点がズレることはあった。
「ワタシには少し可愛すぎる名前かもしれないと感じるんだが、どう思う?ハヤテ」
「俺に聞くな馬鹿」
アオバは基本サクラ全肯定派であり、フブキは自分の意見がなかなか出力できない。そのため、消去法的にハヤテに意見が求められることが多かった。この部隊の中である意味一番常識的なのである。
と、ここで三分間の出力時間が終了し。それぞれが格納庫へと戻ることとなった。
「サクラのはねー、今夜のお楽しみだよ!」




