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24.内緒話

 これはホウショウの戦線離脱に伴い、予定より早い段階で実地運用となった空母級軍徒・リュウジョウに関する記録である。


 ナミカゼの指導を受けて、初期シミュレーション成績はホウショウ以上。リュウジョウは、ホウショウの後継艦として期待を背負っていた。

「りゅ、リュウジョウです……よろしく、お願いいたします……!」

 緊張して舌を嚙みそうになっているリュウジョウを見て、ユウバリ、ナガラ、ナトリ、ノカゼは微笑ましく思った。


 作戦行動に問題はなく。ホウショウからの改良型として、ホウショウ以上の産卵量と制御精度を誇るリュウジョウ。その活躍は、司令部の期待以上のものであった。

 始めのうちは緊張しがちで、部隊の面々とのコミュニケーションに苦戦していたが。徐々に慣れてきて、特に隠蔽役として付随任務が多いユウバリとの親密度が上昇していた。


「ユウバリさん、ユウバリさん。今夜は、どんなお話?」

「んー、そうですねえ。じゃあ、ミクマさんがビール飲んで盛大にすっ転んだ話をしましょう」

 夜間の待機時間中。外の世界に慣れないリュウジョウに対し、ユウバリは今までの自分の見聞を面白おかしく語っていた。

 リュウジョウはそんなくだらない話を聞いて、笑いながら記録を取っていた。

「ビールってすごいね、あのミクマさんがそんなドジしちゃうなんて。でも、ちょっと見てみたいかも」

「いやあ、本人まあまあ恥ずかしがってましたからね。言わないでやってください。あ、この話したってのは内緒ですよ?」

「ん、分かった、内緒にするね」

 くす、とリュウジョウは笑った。悪いオトナと秘密を共有しちゃった、という子供っぽい高揚感がそこにあった。


「にしても、お前さん記録好きですね。こんなくだらない話まで記録取ってたら、メモリがいっぱいになりますよ?」

「いいの。これがきっとリュウジョウのアイデンティティ形成因子になるから。……いつまでここにいられるか分からないし。ユウバリさんのお話、全部覚えておきたいから」

 自分の居場所に対する不信感、恐怖。これはホウショウにも共通していたことであり、遺伝子的な、血筋的なものだろうか……とユウバリは思った。

「ユウバリさんは、リュウジョウのこと覚えていてくれる?」

「ええ、もちろん。小生の霧は女王型空母級とも相性がいいですし、別の部隊になってもたぶんすぐ会えますよ」

 安心させるように、ユウバリは軽く笑って返した。リュウジョウは、安堵した表情で尾を揺らしていた。



「あの、ユウバリさん。あの……姉さんとナミカゼ教官について、聞いてもいい?」

 恐る恐る、といった表情のリュウジョウに対し、ユウバリはやや驚いた。

「珍しいですね、お前さんの方からリクエストだなんて」

 しかし、ホウショウとナミカゼの特定異常行動……繁殖行動。秘匿回線での通話内容は司令部に知られないにしても、今後の軍のことを考慮すると、あの二頭に関しての情報は伝えてもよいものか、ユウバリには判断しかねた。


「リュウジョウね、研究所にいたとき、一回だけ、一瞬だけ姉さんの姿を見たの。ナミカゼ教官と、一緒にいるのを」

 リュウジョウは、どこか遠くを見るような目をしていた。

「モミ型……姉さんの子供たちに囲まれてね、とっても幸せそうだったの。軍徒ってこんなふうに笑えるんだってびっくりしちゃうくらいに」

 その言葉は、記憶をしみじみと蘇らせるらしく。その表情は、どこか懐かしむような、感傷的なものが入り混じっていた。


「あれがきっと未来なんだよ。お国が言う、守られるべき未来は、きっとあそこにあるんだよ」

 リュウジョウは霧越しに月を見上げた。きっと、研究所からも同じ月が見えていると信じて。

「リュウジョウは、そのとき、未来を守りたいって思ったの。だから、今、頑張らないとって思ってる」

 その目には、幼い身に不相応なほどの覚悟が宿っていた。

 これが、リュウジョウを戦場へ、死の女王へと駆り立てた理由だとユウバリは理解した。


「それで、まあ、その。ごめん、質問の答えになってなかったかも。えっと、聞きたい理由は……単純に、好奇心、なのかな。あ、無理だったら無理に話さなくていいよ、司令部に怒られるかもしれないし……」

 リュウジョウはあたふたしながら言葉を選んでいた。

 さてどうしたものか、とユウバリは考える。ようやく自分の希望を言えるようになったんだから、その意志は尊重してやりたい。なら、司令部に怒られないようにあの二頭の関係を伝えるための話の題目は。


「いいでしょう、ではお話ししましょう……乙女の好奇心を満たす、とびきり甘ったるい恋バナを」

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