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22.夜明けの子守唄

 これは、ある日のフルタカ隊の作戦終了後における記録である。


 フルタカは、司令部から移動指示を受けた。


「……今日は別艦なのか」

「ええ、流れ弾が艦を掠めてしまったようです。幸い、死傷者はなく修復もすぐに完了したようですが」

 低い声、暗い表情でイスズはフルタカを見た。そんなイスズの目をあえて気にしないように、穏やかながらも淡々とした声音でフルタカは言った。

 そんなフルタカを、ツバキは押し黙ったまま、不安そうに見つめていた。イゴウは目を伏せていた。新しく編成に加えられたばかりのノカゼは、事情が分からず首をかしげていた。

「大丈夫ですよ。慣れてますから」

 そう言って、フルタカはツバキの頭を撫で。やや離れた別艦……軍徒用特別収容艦へと飛び立った。


 フルタカは、いつも通り懲罰室に入った。四方を鉄で囲まれた一室。窓も配管もない、平面ばかりの部屋。ただそこにあるのは、監視用のカメラと……壁の下に仕込まれた、BOSSシステムの特別機器。この部屋では特に、様々な信号を扱うことができた。


【任務遂行内容に不備を確認。懲罰を開始】

 まず与えられるのは、激痛を与える周波数。頭を殴り、割られるような痛みに、フルタカは絶叫した。翼腕で頭を押さえ、うずくまり、のたうつ。あまりの激痛に過呼吸となり、口からは唾液が垂れ流された。

 次に与えられるのは、快楽を与える周波数。実験段階の、交配行動促進周波数……端的に言えば、強制的に疑似的な発情期を再現させる信号である。本来は、オスの生体サンプル採取のために使われるべきものであるが。ここでは不正にも、サンプル採取という目的もなくただ玩具として使用されていた。

 痛みが引いた安堵と同時に火照りだす体。満たされたい欲に身を犯されながら、満たしてくれる何かを、誰かを求めて床に這いつくばる。朦朧とする意識の中、フルタカは甘い声で鳴く。


 それをしばらく続けられた後、また激痛が与えられる。こうした拷問を延々と、一晩中繰り返す。

 

 もともとこの艦は、規律を乱す軍徒に罰を与えるために建造されたもの。物理的な外傷を与えるのは困難であることから、神経に直接信号を送信するのである。

 本来ならば、軍徒の不用意な消耗を避けるため、規定回数以上の懲罰は禁止されている。しかしこの艦の人間には、既にそのような意識はなかった。艦という密閉された空間に蓄積されたストレス。フブキにも向けられたその悪意は、兵への暴行に留まらず。ストレス発散を目的とする懲罰は、回数を重ねるごとにエスカレートし、嗜虐的愉悦は兵の間に広まっていた。

 フルタカは、小隊の旗艦であることから何かにつけて責任を取れと要求され、その拷問を一身に受けていた。責任という言葉の意味も、よく分からないまま。



 早朝。睡眠演算サイクルが解除されると同時にイスズは目を覚ました。

「あら、イスズ。起きていたんですね」

 他の者を起こさぬよう、足音を忍ばせ声をひそめながら、フルタカが帰ってきた。その表情には、はっきりと疲労の色が残っていた。

「何故、毎度貴様なのだ。……吾輩でもよかろうに」

 事実、誰でもよかった。そんな悪意である。

 どのような仕打ちを受けているのか、フルタカの口からは一度も語られていない。しかし静寂の夜に響く、あの声が。泣き叫ぶ音が。全てを物語っていた。

「我は旗艦ですから。この任務を負うのは、我のみで十分です。……もし我が壊れてしまったら、そのときは、部隊のみんなを頼みます」

 壊れる前に救う術はないのかと、イスズは問いたかった。しかし、それは不可能だと理性が判断し。感情は押し潰された。胸には、こぼれた何かがべったりとへばりつくような、気持ち悪さだけがあった。


「壊れるまでは、我が鳴きましょう。情けなく、はしたなく、無様に、可愛く、苦しがって、狂ったように」

 不可視の傷は深かった。瞳の奥に、仄かに虚ろな影があった。




「やはり、眠たいですね……仮眠申請、通るでしょうか?」

「今日は前日艦隊移動だ。眠っても構わんだろう。……寝ろ」

「そうですね、そうしましょう」

 いつも通り、フルタカはイスズの隣に横たわった。

「……歌って構わないか」

「ええ、もちろん。聴かせてください」

 イスズは歌った。やさしく、切なさを帯びた声で。こんなもので言えるはずがない傷と知りながら。


 夜明けの子守唄は、これが十八回目。

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