18.崩れゆくは 後編
ヒエイ隊はメイミィ大部隊と交戦になった。本土戦ということもあり、海上戦とは比較にならない戦力量。アガノとアブクマは撃沈され、司令部は撤退を決断。モガミは一定時間足止めを行うとして、機動力の低いヒエイは先に都市を脱出。定刻となり、ホウショウ隊と交代する手はずが整ったが……モガミは戻らなかった。
『義足エンジンより出火。航行不能。司令部の指示を求む』
ヒエイの呼吸が、一瞬だけ止まった。
【ヒエイ。能力上限解放を三分間許可する。最大出力で敵軍を殲滅せよ】
要するに、モガミもろとも撃てと。重巡洋艦級とあり、モガミは優先討伐対象。敵機が集中しており、撃つならば今が好機。ヒエイもその意図を理解した。
『了』
ヒエイがモガミの座標を確認し、向き直る。
『敵国に粛清を、祖国に鉄血の義を……能力上限解放』
ヒエイの頭上にヘイローが展開され、強烈な冷気に周囲が音を立てながら氷へと転じていく。
モガミをビルの残骸の隙間から発見し、ヒエイは照準を合わせた。
「申し訳ありませぬ。本官の自爆のみで出力が足りていればよかったのでありますが……」
地に伏し、背を抉られ臓物を焼かれながら、モガミはこぼした。ああ、こんな醜い姿は見られたくなかったな、と思いながら。
「貴官の手を汚してしまうのは、心苦しいものであります」
その声は、ヒエイに届くはずがなかった。
「どうか、気に病まないでいただきたい……きっと来世か、どこかで会えますゆえ」
モガミは力なく、でも精一杯笑った。
その笑顔をヒエイは確認し。一瞬演算を遅延させた後、最大出力で砲撃した。
氷点下の津波に、景色が銀世界へと変わる。火を吹いていた砲の熱は掻き消えて、冷たい風に全ては軋み、崩壊してゆく。
モガミの生体反応は、もはや存在しなかった。
その後、交代したホウショウ隊が敵軍を壊滅させ。その一帯はイーヴェンの侵略拠点となった。
「……」
ヒエイは、地面を見下ろした。更地となった白銀の荒野。そこは、モガミが最後に通信を行った地点。
何もなかった。目の前にも、胸の内にも。
モガミの両足をああしてまで戦地に残したのは、ボスの判断。モガミを犠牲にして敵を撃つべきというのも、ボスの判断。ボスの判断は絶対であり、疑ってはいけない。
それなのに、演算ノイズが発生してやまない。
「……静かすぎるな」
静寂の中、ヒエイはこぼした。不要発話、自発的主観的観測結果の報告であった。
何もなかったはずだったのに、失って初めて、そこに何かがあったのだと気が付いた。気付いたときには、不可逆性が退路を断っていた。
「……」
その頬に、一筋の氷が光った。
これが、ヒエイの自壊の始まりであった。




