表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/67

18.崩れゆくは 後編

 ヒエイ隊はメイミィ大部隊と交戦になった。本土戦ということもあり、海上戦とは比較にならない戦力量。アガノとアブクマは撃沈され、司令部は撤退を決断。モガミは一定時間足止めを行うとして、機動力の低いヒエイは先に都市を脱出。定刻となり、ホウショウ隊と交代する手はずが整ったが……モガミは戻らなかった。


『義足エンジンより出火。航行不能。司令部の指示を求む』

 ヒエイの呼吸が、一瞬だけ止まった。

【ヒエイ。能力上限解放(アンロック)を三分間許可する。最大出力で敵軍を殲滅せよ】

 要するに、モガミもろとも撃てと。重巡洋艦級とあり、モガミは優先討伐対象。敵機が集中しており、撃つならば今が好機。ヒエイもその意図を理解した。

『了』

 ヒエイがモガミの座標を確認し、向き直る。

『敵国に粛清を、祖国に鉄血の義を……能力上限解放(アンロック)

 ヒエイの頭上にヘイローが展開され、強烈な冷気に周囲が音を立てながら氷へと転じていく。

 モガミをビルの残骸の隙間から発見し、ヒエイは照準を合わせた。



「申し訳ありませぬ。本官の自爆のみで出力が足りていればよかったのでありますが……」

 地に伏し、背を抉られ臓物を焼かれながら、モガミはこぼした。ああ、こんな醜い姿は見られたくなかったな、と思いながら。

「貴官の手を汚してしまうのは、心苦しいものであります」

 その声は、ヒエイに届くはずがなかった。

「どうか、気に病まないでいただきたい……きっと来世か、どこかで会えますゆえ」

 モガミは力なく、でも精一杯笑った。


 

 その笑顔をヒエイは確認し。一瞬演算を遅延させた後、最大出力で砲撃した。

 氷点下の津波に、景色が銀世界へと変わる。火を吹いていた砲の熱は掻き消えて、冷たい風に全ては軋み、崩壊してゆく。

 モガミの生体反応は、もはや存在しなかった。



 その後、交代したホウショウ隊が敵軍を壊滅させ。その一帯はイーヴェンの侵略拠点となった。

「……」

 ヒエイは、地面を見下ろした。更地となった白銀の荒野。そこは、モガミが最後に通信を行った地点。

 何もなかった。目の前にも、胸の内にも。

 モガミの両足をああしてまで戦地に残したのは、ボスの判断。モガミを犠牲にして敵を撃つべきというのも、ボスの判断。ボスの判断は絶対であり、疑ってはいけない。

 それなのに、演算ノイズが発生してやまない。


「……静かすぎるな」

 静寂の中、ヒエイはこぼした。不要発話、自発的主観的観測結果の報告であった。

 何もなかったはずだったのに、失って初めて、そこに何かがあったのだと気が付いた。気付いたときには、不可逆性が退路を断っていた。


「……」

 その頬に、一筋の氷が光った。

 これが、ヒエイの自壊の始まりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ