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1.アオバの一日

 イーヴェンがこの世界大戦の中で生み出したのは、凶悪な生物兵器群。通称・軍徒と呼ばれる特異生物……竜たちのことである。彼らは古代の化石より蘇り、遺伝子の組み換えを繰り返して生成された生物であり、その能力は現代の生物的常識を完全に無視している。先述されたアオバのように、雷を放つものから、火を吹くもの、嵐を起こすもの。その軍事転用の効果は凄まじく、瞬く間にイーヴェンの支配領域を以前の植民地獲得状態にまで逆戻りさせた。

 大絶滅から復活した生物によって大絶滅がまさに行われようとしているのは、全くもって笑劇でしかない。


【起床】

 光も差さない地下施設の中。アラームと共に命令が放たれ、軍徒たちは一斉に目を覚ます。


 昨夜の任務で大暴れしたアオバは、本来よりも睡眠時間は短めとなっているが。きっちりと定刻に目を覚ます。肉体的欲求よりプログラム的行動を優先するように設定生成されているためである。


【補給】

 扉が開き、二本のチューブが出される。右がタンパク質、左が水。それぞれ必要量を摂ったら、待機場所に戻る。


 アオバはこの待機場所を気に入っている。座るだけで電気を好きなだけ吸える特別あつらえであるためである。明かりはないため見えづらいが、あるときそのアオバを見た一兵卒が「窓辺の飼い猫」と称するくらいにはリラックスしている。


【訓練】

 隊列移動、乱戦、殲滅、攪乱作戦。様々な戦況に対応するため、日々訓練が行われている。一度覚えればできるようになるのが軍徒であり、イーヴェンが人間を育てることをやめたのにはこのような背景もある。


【出撃】

 輸送空挺に揺られながら運ばれる軍徒たち。普段は個別格納庫に収容されるアオバも、作戦行動中は他の個体と同じ格納庫で寿司詰めにされる。性格によって反応はまちまちだが、全体的に何度も共に出撃している顔なじみがいると喜ぶ傾向がある。アオバもそのうちの一匹であり、毎回隣になる軍徒を翼腕で撫でるのが趣味である。任務中に何してるんだ、とハヤテに白い目で睨まれ。集中したまえ、とミネカゼに窘められ。困りますよお、とフブキをあたふたさせ。先輩の手おっきいねー、と笑うサクラにほっこりして。それぞれの反応を見て楽しんでいた。


【投下】

 命令に合わせて、軍徒たちが一斉に空に飛び出していく。アオバが主に担うのは海上戦であり、作戦空域も広く設定されているため、軍徒たちの興奮度はいささか高い。


【敵艦情報。送れ】

 アオバの赤い双眸が、敵空母を捉えた。目測で距離を測り、尾を構える。

『ミネカゼ。座標と時間の照準演算を』

『了』

 

 その演算結果を得て、アオバは翼腕で尾を固定し。自由落下体勢に入る。そのまま海面に落ちればまず間違いなく死亡するが、アオバに恐怖はない。任務のためなら命は捨てられるものだとインプットされているためである。


『電力充填完了。発射シークエンス開始』

 尾の先の五本の爪が、ゆっくりと開く。それはまさに、花開くように。同時に尾の外殻がガチャリガチャリと金属質な音を鳴らしながら、雷光を迸らせる。


【撃ちかた始め】


 白昼の太陽から、雷鎚が放たれた。

 指向性を持った真っ白な光は、敵艦隊の本陣を貫いて。挨拶と言わんがばかりに、空母を撃沈した。



 アオバは甲板を駆けた。軍徒らしい膂力と、遊び足りない子犬のような無邪気さをもって。機銃を削ぎ落とし、戦闘機を浴びて。電力を奪うだけ奪ったら、また飛んで。

『四隻目』

 艦首に飛び乗ったアオバは、そのまま轟雷を撃ち。艦尾まで風穴を貫通させた。


 空母の滑走路に降り立つと同時に、前後から二機のアーマイェーガが迫る。前方からのチェーンソーは牙で受け止め、背後からのバズーカは尾の電磁砲で相殺し。飛びかかり、剛腕でエンジンルームを打ち砕き。脇の死角から肉薄するアーマイェーガの首に尾を絡め、捩じ切る。ピチャリ、と雫のような雑音は金属の不協和音の中に、掻き消えた。

『六首目』


 遠距離からの狙撃、高い飛翔能力による急接近。からの電力強奪、至近距離での高火力攻撃による撃墜。体格に恵まれ、近接戦闘の性能も申し分なく。アオバは軍徒の中でもかなりの成功個体であった。



【洗浄】

 任務が終わり、母艦へと向かう。海域警護を担うアオバは、基本フルメンテナンスのときしか陸上基地には戻らないのである。

 格納庫に降り、洗浄室に向かう。全身に高圧の水流を当てて、こびり付いた火薬とオイルを洗い流す。時々目に思いっきり水流をぶつけられると痛かったりするので、アオバはこの部屋は苦手である。


【点検】

 カプセルの中に入り、翼を伸ばし、牙を見せ、脚を開く。異常無しと命令を受け取ってから、ようやく待機場所に向かう。


 ウトウトしながら充電床にごろりと寝転がり。ゆるゆると鱗を整えて、尻尾の手入れをする。隙間に挟まった鉄屑を爪で慎重に取って、舐めて保湿し、具合を確かめて。満足したところで、頭を床に置く。


 軍徒たちは、今の生活を憎んでいるわけではない。むしろ、疑問すら持たない幸せの中にあると言っても良い。しかし、そこにはかすかな、自由への憧れが存在していた。


 ああ、一度だけでいいから。この翼で飛べるところまで飛んでみたい。

 そんな無垢な夢を静かに抱いて、知らないフリをして、アオバは今夜も眠りについた。

Xにアオバのイラストを投稿しました。

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