追加記録 白い花
これは、ヒエイ隊での記録である。
その日は移動任務のみ。威嚇攻撃も行わず、静謐方針が取られたことから束の間の平穏のような、嵐の前の静けさのような穏やかさがあった。
「本日は貴官の誕生日だとうかがいました。せっかくですので、道端のものでありますが、花を手折ってみた次第であります」
「そうか」
昼。補給の時間に、背中合わせのままモガミはヒエイに語りかけていた。誰が教えたのだ、アブクマあたりか。余計なことを……をヒエイは半ば呆れたような心地であった。
「小さくて白くて、美しい花であります。まるで、ヒエイ殿のようなのであります」
「本艦は超弩級戦艦級だ。小さくはない」
「これは失礼いたしました……ふふ」
「何がおかしい?」
小さく笑うモガミの声を聞いて、ヒエイはやや顔をしかめた。
「いえ、話しかけているうちに返事をいただけるようになったのが嬉しくてですな。反論もいただけるようになって……反論がまた可愛らしくて愛おしいのであります」
おかしな奴だ、と改めてヒエイは思った。同時に、そんなおかしな奴の会話に引きずられている自分が奇妙でもあった。
「直接手渡せれば良かったのでありますが……あまり下手に動くと司令部に怒られてしまうので。ここに置いておくことにしましょう」
そっと、不自然には見えない程度に振り向いたモガミが、ヒエイとの中間地点に花を置いた。
「移動のタイミングで嗅ぐなり食すなりお好きになさってください。踏み潰しても構いません。貴官の掌に甘い返り血がつくのなら、それも一興でありましょう」
ヒエイは返事はしなかった。つくづくおかしな奴だ、軍属じゃなくて詩人にでもなった方が良かったのでは、などと意味のない思考を無意識にめぐらせていた。
一時間後。移動の時間となり、ボスの指示を受けて部隊が動き出した。
ヒエイは静かに振り返り、やや立ち止まり。地面に置かれた花を見た。
「……」
嗅ぐような時間もなく。踏み潰すにはもったいない……散々殺しておいて、今まさに枯れようとしている花に対しもったいないと感じるのも奇妙だと思いながら。消去法的に、ヒエイはその花を食った。花の一輪、毒があったところで問題はないだろう……そんな不必要な、意地を張った正当化を伴って。
花はやはり小さすぎて、味も香りも分からなかった。
しかしどこか甘酸っぱいような。そんな味蕾の錯覚を覚えた。
……これが彼女の味なのだろう。そんな詩人めいた言葉がヒエイの頭に浮かんでいた。
彼が気付かぬままに、白い心は緋色の熱に染まりつつあったのである。




