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17.崩れゆくは 前編

 これは、メイミィ本土隊……超弩級戦艦級であるヒエイが率いる、ヒエイ隊での記録である。


「本日よりヒエイ隊の配属となった、重巡洋艦級・モガミであります」


 配属初日。ヒエイ……白鱗に紺碧のプレートを背に携えた竜は新たに加わった隊員の顔を見た。両者がきちんと向かい合ったのは、これが最初で最後である。

「……」

 ヒエイは沈黙したまま、モガミの両足……無骨な義足へと目をやった。

「ああ、これは先の作戦で大破した際に支給されたものであります」

 うっかりミクマの射線に入ってしまった、本国に戻るまではこのまま。しかしナガラ型やシナノにも使われている軍徒用専用デバイスなので、動きに問題はない。むしろ変形してロケットエンジンにもなるので複雑な空中機動が可能になり便利であります、など訊かれてもないのにモガミは様々に語った。

「情報は既に受け取っている。貴艦の発話は不要だ、モガミ」

 全て黙って聞いたうえで、ヒエイは冷たく言い放った。任務に黙って従ってさえいればよい、と目は物語っていた。

「それはそうでありますが……貴官があまりにも綺麗でありますゆえ。声をかけずにはいられないのであります」

 はにかみながら、しかし反省の色は見せずにモガミは言った。

「……主観的観測結果を報告する必要はない」

 心底くだらない、と思いながらヒエイは目をそらした。


 十六時間後、メイミィの都市部へ向けヒエイ隊は移動を始めた。


『冷却ガス散布開始』


 ヒエイの背殻が展開され、放たれたガスにより急激に気温が低下していく。一歩踏むごとに大地に氷が広がり、風にそよいで田畑を凍てつかせていく。この冷却能力がゆえに、ヒエイ隊には巡洋艦級以上しか入隊できないことが規定されているのである。

 機動力こそ低いものの、このように食物生産に甚大な被害を与え飢饉をもたらすことから、脅威度は非常に高く。単にヤマト型の冷却機能のテスト個体とは言えないものになっていた。


 都市部に侵入すれば、その冷気は地下シェルターにまで牙を剥く。何百人、何千人もの人間が逃げ込んだその箱を、有無を言わさず氷獄へと変容させるのである。低体温症で死亡する者が幸せ。かろうじて生き残っていても、過冷却により作動しない隔壁により地上に出られないのだから。箱の中で争い、殺し合い、飢え、空気が澱んで、みな一様に屍となる。軍徒たちは、後からその箱を開いて、中身を食う。富も権力も、女も子供も関係ない。ただ敵国の地にいたから殺す。国力をそぐ合理的な無慈悲。


 ヒエイの硬く厚い鱗は機銃の弾丸を受け付けず。そのブレスは敵機を正確に捕捉する。アブクマ……ナガラ型六番艦である……の機翼デバイスによる索敵。アガノ……イゴウ型の陸戦設計個体である……は、肩の銛爪、さらに背のもう一対の銛爪を駆使し、ビルの間を縦横無尽に飛び回り。群がる敵を露と散らしていく。

 何より、翼と義足エンジンを併用した特殊飛行を行うモガミ。アーマイェーガからの武器の強奪利用を想定された設計と学習データ、経験。ベオウルフ01を撃墜して以来、その太刀筋も学習取得し。さらにその性能を遺憾なく発揮していた。


 百二十七時間に及ぶ交戦の末、ヒエイ隊は都市の軍事基地を完全破壊し。作戦は終了となった。

「もしもボスの声が届かないような、どこか遠くへ行けたら……貴官はどうなさいますか?」

「実現可能性のない話など不要だ。それに何の意味がある?」

 待機指示を受け、背中合わせのまま。補給物資の到着を待つ二頭。

「思考実験であります。軍徒倫理規定に抵触する可能性がありますゆえ、秘匿メモリにしか記録できませぬが」

「……軍規に乱れをもたらすなら、沈めてやるが」

「貴官のような美しい方に沈められるのなら、それも悪くはないですな」

 冗談交じりに、モガミは笑っていた。


「我々がこの戦争に敗北すれば……と考えたことはないのでありますか?」

「無い。可能性としては考えられるが、限りなくゼロに近い。……ゼロにしなければならない。そのために本艦らはここにいる」

 メイミィ本土隊の使命は、ひたすら殺し続けること。殺すことが守ること。殺し続ければ早く戦争は終わる。我々が勝つことでしか戦争は終わらない。そのように洗脳されているのである。

 戦争の早期終結のための非人道的兵器の使用。その正当性は先の大戦でメイミィによって証明された……あるいはその盲目的正当化の流布に誰も異を唱えられなくなったのである。


「では、質問を変えましょう。この戦争が終わったら、貴官は何がしたいのでありますか?」

 ヒエイは沈黙した。この戦争に終わりがないことを薄々感じているためである。


「本官は、貴官を抱きしめてみたいのであります。いえ、指先をほんの少し触れさせていただくだけでも、十分であります」

 指先だけならば、他の部隊なら容易いこと。しかしヒエイの能力は高すぎるがゆえに、ヒエイ隊の管理は厳格で。厳しい行動制限がかけられていた。

「ああ、そのときはどうか、冷気を少し鎮めていただけますか。凍傷くらいならよいのですが、鱗が剥がれると大変醜いゆえ……貴官にそのようなものは見せたくないのであります」

「……くだらん。本艦にそのような業務義務はない」

「なら、義理をいただけるよう尽力いたしましょう。本官、こう見えて優秀でありますゆえ」

「……」

 貴艦が優秀であることはもともと司令部から聞いているし、先ほどの戦闘から十分に理解している……とヒエイは言おうか考え、却下した。調子に乗らせてはいけない、これ以上口説かれたら面倒なことになると思ったためである。

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