16.盲目の連鎖 後編
それからユートは厳しい訓練を受け、いじめを受け、改造手術を何度も受け、三年後にはアーマイェーガ隊の副隊長にまで昇りつめた。
対軍徒用特別仕様機体群。通称ベオウルフシリーズ。生身の人間では到底扱えない複雑な駆動系。それを操作できるのは、脳に操作用デバイスを埋め込まれた改造人間のみ。
「わたし、メアリ。よろしくね、ユート」
受動的に、衝動に呑まれるがままに生きてきたユートの前に現れたのは、可憐な少女であった。金色の髪に、淡い空色の瞳。声は優しく、口元には常に慈愛の微笑みがあった。
「わたしはね、みんなを助けたいの。だから、ベオウルフに乗るって決めたんだ。子供っぽい浅はかな正義だよ。でもね、これはわたしの意志なんだ」
メアリは隊長。生い立ちも覚悟も対極にある両者は、数奇な運命で同じ戦場に立った。
「フォローありがと、ユート。おかげで、まだ頑張れそうだよ」
メアリが振るう剣は、次々と軍徒を切り裂いていった。恐怖を払う蛮勇のような踏み込み。気高い騎士のような、美しい太刀筋。
その姿に、ユートは徐々に惹かれていった。
「えっ、これユートの補給食でしょ?いいの?わたしがもらっちゃって」
「……お前のおかげで命拾いした」
「んー、わたしも何度も助けられてるしなあ。あ、じゃあこうしよっか」
メアリは補給プロテインバーを二つに折り、半分をユートに差し出した。
「これでおあいこ。これからもよろしくね、相棒」
「……了解」
その七日後、基地が襲撃された。
『重巡洋艦級が二頭!モガミ型一番艦モガミ、および二番艦ミクマ!軽巡洋艦級、ナガラ型が三頭!駆逐艦級十頭以上!至急討伐を!』
二分後、ベオウルフ01、メアリが出撃し。その五秒後、ベオウルフ02、ユートが出撃した。
ユートは、その光景に目を疑った。
軍徒がアーマイェーガの武器を取り、交戦していたのである。二足歩行、二本の腕に五指。対術とでも呼ぶべき身のこなし。飛び掛かるアーマイェーガから武器を奪い、捨て、目まぐるしく得物を変えながら戦うさまは山賊のような、傭兵のような野蛮さがあった。
『わたしがモガミを引き受ける!君はミクマを!』
『了解』
メアリはモガミと斬り合った。何十手かの剣戟の末、メアリの剣はモガミの右足を貫き。モガミのチェーンソードはベオウルフ01の頭部パーツを捩じ切り、爆発四散させた。
「メアリ!!!」
ユートは思わず振り返り、ミクマはすかさずキャノンを撃った。ユートは機体の右腕を失いながら、かろうじてそれを回避した。
熱線は、右足の負傷と掴みかかられたままの機体によろけていたモガミへと迫り。その両足を焼き貫き、機体に誘爆した。
至近距離での爆発に倒れゆくモガミを見て。ああ、最初から……メアリは相打ちを覚悟していたのだとユートは悟った。
十秒後、撤退指示が下り。ユートは奥の歯を割らんばかりに食いしばりながら、その場を去った。ここで死んでは、彼女の遺志をないがしろにしてしまうと判断したためである。
三か月後、空母の甲板に佇むユートの姿があった。イーヴェンへの上陸作戦へ向けた航路の上。そのアーマイェーガ隊のエースとして、胸には勲章があった。
軍徒への憎しみは、メアリの死をもってより強く彼を蝕み。深い喪失感に心は壊れかけていた。
同刻。空母内部のセンサー室にて、異変が探知された。
「センサーに感あり!十一時方向に高エネルギー反応……!今なお増大傾向!」
「どうして見つけられなかった……!?クソ、イセの嵐か!」
「エネルギーシグナル判定……や、ヤマトと酷似!ヤマトと同等、いえ、それ以上のエネルギー量です!」
「馬鹿な、ヤマトは沈めただろうが!!」
「イーヴェンめ、もう二号機を完成させたのか……!」
あまりのエネルギー量に、真っ白に染め上がるモニター。
『各艦へ警報!全速で面舵!アーマイェーガ隊全機発艦!一機でも多く逃がせ!』
その報せを受けて、ユートは駆け出した。すぐにベオウルフ02に乗り、カタパルトから発艦し……高エネルギー反応の方向へと突進した。
『バカ!反対だ、戻れベオウルフ02!』
その声はもう、ユートの耳には届かなかった。
「なんで、なんでお前らは、いつも俺の大事なものばかり奪っていくんだよ!!返せよ、父さんを、母さんを、メアリを!!」
ユートは泣いていた。切実な、祈りと憎悪であった。
間に合わない、無駄死にだと分かっていた。しかしそれでも飛び、進んでいた。三か月という不在の時間に、メアリの遺志は軍徒への憎悪に塗り潰されたのである。
死者に口無し。同時に、この三か月間、彼を人間として扱う者がいなかったが故の、悲劇。
「死ねよ!!殺されろよ!!なんで、何で俺たちばかり……!」
その表現は適切ではない。軍徒だって奪われ、死んでいるのだから。ユートは、これまでに軍徒を十四頭殺しているのだから。
そんな事実が見えなくなる。シャットアウトされて、自分帯が悲劇側だと誤認する。
これが戦争である。
ユートが発艦して一分十五秒後、上陸艦隊は全滅した。
海底から放たれた熱線。濁った海を割る、鮮烈な光。その強烈な熱に、周囲の海水は蒸発し。海の底に沈んでいた彼……ムサシの姿は露わになっていた。
「……」
沈黙のまま、ムサシは再び水底へと身を隠した。
自らが殺めた者たちの顔も、胸に抱いた誇りも憎しみも。背負わされ、背負ってきた悲劇も、何も知らぬまま。
こうして戦争は連鎖していく。




