15.盲目の連鎖 前編
ユート=ウラミは、メイミィ在住のイーヴェン人であった。両親の仕事の都合で、幼少期にイーヴェンからメイミィに渡り、育てられたのである。
生活は基本メイミィ語。家ではイーヴェン語も使うが、書くのは難しい。友人は一定数いるが、肌や髪の色が気に入らない、と嫌がらせをしばしば受ける。そんな、十二歳の子供であった。
そんなある日、ゾンジュオがイーヴェンを侵略した。弱り切った当時のイーヴェンの国力で太刀打ちできるはずもなく、一か月でイーヴェンはゾンジュオの属国となった。
イーヴェンはようやく敗け方を学習した、とメイミィは嘲笑った。同時に、敵対関係に近いゾンジュオの属国となった……寝返られたような形となったことに憤慨し、危機感をおぼえた。
そしていつの間にか戦争は始まっていた。
メイミィ国内にいるゾンジュオ人は次々と逮捕され、追放され、社会的不安を煽る道具として使われ。トロイの木馬となった。
無論、イーヴェン人も例外ではなく。ユートの一家は家を追われ、137収容所へと連行された。
衣服を奪われ、髪を切られ。番号を彫られて管理される。戦争のための家畜。生きたまま解剖され、千切られ、縫われ、どこまで生存可能か記録を取られる。かつての大戦で行われた罪が、そのまま蘇った形であった。
ユートは檻の隅で、次は自分なのかとずっと震えていた。収容所に入れられた時点で、両親とは既に引き離されており。十二歳の子供が耐えられるはずのない恐怖と孤独がその身に重くのしかかっていた。
そんな毎日が、ある日突然文字通り崩れた。
ホウショウ隊が、137収容所を襲ったのである。目的は、研究されている毒ガス、細菌兵器の強奪。繰り広げられるのは、一方的な蹂躙。醜く不気味な、竜とも言えない無数の獣が建物を破壊し、瓦礫とともに人々を踏み潰す。奇怪な声をあげながら、逃げ惑う人々を蹴り、引き摺り回し、殺していく。
「父さん!母さん!」
壊れた檻の外でユートは両親を見つけた。
念願の再開。双方が手を伸ばした瞬間。両親は、食われた。ブチブチと音を立てて、食い破られていく肉。歓喜は、絶望へと転じた。
ユートは怨嗟に叫んだ。直後、その頭部に石が直撃し。意識は途絶えた。
気が付いたときには、ベッドで寝ていた。白い清潔感のあるシーツ。アルコールの匂い。身を柔らかく包む布の感触を、服として思い出した。
医師に聞かされたのは、ユートに特別な才能があったこと……アーマイェーガの特殊機体のパイロットとして、改造手術が施されたこと。
事実をあえて述べるなら、被験体は誰でもよかった。ユートはたまたま、死にかけていて出自も不明。イーヴェン系なら実験に使ってもよかろう、という収容所と同じ倫理観がそこにあった。
「君に復讐の力を与えよう」
ユートはその言葉に呪われた。わけは分からなかった。ただ、穏やかな日々を、愛してくれた、愛していた家族を残虐に、いたずらに殺した軍徒を、この手で殺したかった。




