9.乱れた規律 前編
これはミクマ隊における、ユキカゼに関する記録である。
カゲロウ型駆逐艦級八番艦・ユキカゼ。ボディモデルは、イゴウ型を基軸に、背に翼皮膜を追加。薄く軽く、破れやすいが再生も早い。その速力と翼皮膜を使っての、潜水と超低空飛行を織り交ぜた動きで敵を攪乱。至近距離で火球を打ち込み、即時離脱。ヒット&アウェイを基本行動とする駆逐艦級設計。
最前線で先陣を切り、戦う。その設計構想から、特攻を命じられることも少なくないカゲロウ型。しかしユキカゼは、特攻を命じられないギリギリのラインを見極めて生き残っていた。ちょうど突っ込みやすいところにいれば、死ぬ。だから逆算して、常に微妙な場所を選ぶ。
撃墜レベルは高くない。しかし必ず帰投する。それがユキカゼであった。
「あー、疲れたアル。もうちょい休み寄越すヨロシ!」
「それなー」
不満げに言うユキカゼ……露草色の竜……と気だるげに相槌を打つユウナギ……カミカゼ型九番艦。帰投までの帰り道は、この隊ではたいていユキカゼの愚痴から話が始まる。
「ねー気になってたんだけどさ。ユキカゼの喋り方って特殊だよね?カゲロウ型のデフォルトなの?」
「いや、違うアル。われ、竣工してけっこうすぐにゾンジュオ本土の研究所に出向して、そのとき向こうの奴らと喋るときに分かりやすいようにしてたらこうなってたアル」
ほえー、とタチカゼ……ミネカゼ型十一番艦……は興味深そうに目を輝かせた。
「語尾変化形の統一かあ、ちょっと歪だけど、可愛い!ね、シオカゼ」
「そうですね。聞いていて非常に面白いです」
同じ部隊にミネカゼ型が二頭。一隻も見逃さない、殺意の強い編成であった。
「今日もかっこよかったぜ、ユキカゼのアニキ!」
「おー、おまえもよくやったネ、カエデ」
カエデ……マツ型十七番艦……はガキっぽさはあるが、尊敬されるのはいい気分だ、とユキカゼはやや満足を得た。
「あ、ミクマ隊長。今、お酒のこと考えてたでしょ。これ以上は研究所送りにされるよ?」
「な、なんでバレたんじゃ……いやあちょっと舐めるくらいしたいなあって思っただけじゃよ、浴びるほど飲みたいとか思っとらんから、セーフじゃよ、セーフ」
タチカゼの言葉にオロオロと弁明するミクマ……軍徒では意外と珍しい二足歩行の緋色の竜。戦場ではカッコいいが、酒好きなのが玉に瑕というのがもっぱらの軍徒間での評判であった。
「ミクマはメイミィ本土まで出向したって聞いたアル。向こうの飯って、うまかったアルか?」
「ああ、美味かったぞ。補給艦が潰されてな、補給食もないから現地のバーガーショップの在庫を食い漁ったんじゃよ。兵卒さんがハンバーガー作ってくれての。いやあ、ジャンキーで美味であったわ」
「いや洒落にならねーよ!?てかよく帰ってきたなそれ!?」
飯の話が好きなユキカゼ。じゅるりと涎を垂らしながら思い出すミクマ。補給食無しでハンバーガーとか、大昔の女王でもやらねえよとツッコむユウナギ。実際、これが最後の晩餐だとヤケクソで作られたハンバーガーであった。その後到着したホウショウ隊による補給物資に兵士たちは泣いて喜び、ホウショウを女神とあがめたとか。
「よくお腹壊しませんでしたね」
「いやめっちゃ壊した。腹痛すごかったけど頑張って帰ってきたんじゃよ」
「ミクマすげー!カエデもやりてーそれ!」
「ダメだ、絶対真似すんな、このオッサン絶対後で肝臓かどっかで再検査食らうタイプだ」
わっはっはっはと笑うミクマ。食えるものなら食ってみれば分かる、というのが彼のモットーであった。
緊急時のために、最悪その辺の草でも食える。下痢症状が出ても無理矢理動かせば体は動く設計がなされているのが軍徒なのであった。ただ、だいたいの軍徒はチューブやパックに入っている=食ってよいもの、かつ食ってよいと許可が降りるまで食わないのが基本であり。割と何でも口に入れたがるミクマはかなり特殊な個体であることを追記しておく。




