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プロローグ

  これはある世界大戦の記録である。

 人が時を数え始めて数千年。その年が重ねられる毎に、戦争は熾烈なものとなり、かつてのあるべき形を忘れていく。科学はとうとう、魔法と区別がつかないほどになっていく。そんな世界の記録。


 今はまさに戦時中。未だ嘗て人類が経験したことがないほどの、世界大戦。そこには、禁忌とされた兵器たちがいた。

 


 大国・メイミィの第一大部隊。大型空母に戦艦を二〇隻以上率いて、空は巨大な人形機兵……アーマイェーガが隊列を組んで飛んでおり、この部隊だけで国一つは沈むと言われている。アーマイェーガの機動力と搭載重火器の量を鑑みれば、三百機あれば首都を壊滅できるのだから当然である。これが千機あるというのは、イーヴェン相手にいささか過剰戦力であると世論も批判している。


 その旗艦とも言える、メイミィが世界に誇る大戦艦の艦橋にて。兵たちはブルーライトの画面を睨みつけながら、忙しなく通信を行っている。

「諜報部より通達。二一〇〇、イーヴェンの巡洋艦五隻がジェング島より南南西へ向け出撃予定であると傍受」

 無線機での暗号通信を受けながら、兵は上官の端末へと座標データを転送した。

 予測進路演算の結果を見て、上官は眉間に皺を寄せた。

「五隻全てが、我が艦隊に直進だと?馬鹿馬鹿しい。死を尊ぶお国柄にも程があるぞ」

 これだからイーヴェンの猿共は、と腹立たしげに鼻を鳴らす上官。

「艦の識別急げ。作戦行動に遅れを出すな」

 今まさにこの艦隊は、イーヴェンの本土に向けて進んでおり。その地を焼き払わんとしていた。抑止力と謳われたウランとプルトニウムが、海を渡ろうとしている状況は、まさしく終末大戦と呼ばれるものであった。


「……申告いたします。艦の識別が、全くできません」

 モニターで何時間も索敵と情報監査を行っていた兵が、苦しげにそう言った。

「索敵範囲を拡大し、精度を上げろ。そのくらいのこともできんのか、最近のは……」

「ち、違いますっ、最大索敵範囲で、最大出力で行っています!ですが、この五隻だけがどうしても見当たらのないです!」

 共に作戦行動を行うらしい空母とその護衛艦は見つかっているのにも関わらず、である。


「アーマイェーガ隊、同じく巡洋艦五隻発見できず」

 アーマイェーガ隊からも、同じく奇妙な報告が挙げられた。

「……五隻のうち、名称が分かっているものは?」

 かたく唇を噛んだ上官が、重々しく問うた。

「一隻だけ特定しました。しかし、現在は艦隊登録されていない名称です」

「名称は使い回すものだ、おそらく新型艦だろう。イーヴェンは今や小国ではないからな、後ろ盾のあの国の資源量なら巡洋艦五隻などすぐ作れるだろう……して、その名称は?」

 兵はモニターを見てぎこちなく、異国語らしい語調で文字をなぞる。


「重巡洋艦……アオバです」








 その半日後。とうとう艦隊戦が始まった。

 四〇キロ以上離れた場所からの撃ち合い。不可視の水平線の向こうからの、予測能力の勝負。航空機は次々とカタパルトを飛び出して、アーマイェーガがそれに続く。


 数時間あればメイミィ側の完全勝利となるだろう、とAIは演算し。軍部もそれに全くの疑問を抱かなかったわけだが。


 次々と報告されるのは、斥候部隊の壊滅であった。

『ドラゴンです、ドラゴンが、うあっ、うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』

『新型兵器です、いや、兵器なのか!!?あれは本当に兵器なっ……!?』

『来るなあ!!喰われ、喰われるなんて、ぎゃあああああああ!!!』

 通信機越しに響く断末魔、阿鼻叫喚に一同は凍りついた。


「レーダーに感あり!本艦より三時方向、飛翔体五機!」

 その言葉を聞いて、一同の顔は青ざめた。

「五機もだと!?何故索敵できなかった!?」

「高ステルス性大型輸送航空機を発見、まさか、ここから飛んだの……?カタパルト無しで、五機をほぼ同時に発艦……?わ、分かりません!何が、何が起こっているの……!?」

 上官は舌を打ち、他に檄を飛ばす。

「直ちに機種を識別しろ!主砲一番、二番、新手に照準合わせ!対空ミサイル用意!どうせ五機で戦局は覆らん、叩き潰せ!」


 新たな敵に館内に最大警戒のサイレンが鳴り響く中。そのカメラの一つが、敵の姿を捉えた。

「航空機五機一体何ができ……は?」

 モニターを見た上官は、並行することができなかった。無論、同じ映像を見たクルー全員がそうであった。当然である。


 飛んできていたのが、竜たちであったのだから。


 それこそ、お伽噺やゲームに出てきそうな。美しくも恐ろしい姿をした化け物たちが、確かな赤外線と質量を帯びて存在していた。

 一際美しかったのは、先陣を切る金色の竜。太い四肢に、長く揺れて光る尾。月光を浴びて、逞しいその翼は煌めき。月の御使い、と形容しても過言ではないほどの壮麗な姿であった。

「生体反応有り!!グラフィックフェイクではありません!!本物の……本物のドラゴンです!!」

 

 そこからは、全く初めての形での戦闘……否、蹂躙であった。

 大翼は変幻自在な空中移動を可能にし。流れるミサイルの雨を竜たちはすり抜けて。主砲の旋回なんてものは間に合うはずもなく。機銃の弾丸は鱗に阻まれて為すすべもなく。鉤爪は、パイロットが脱出するより早くコックピットを握りつぶし。牙はアーマイェーガの腕すらも易々と噛みちぎった。

 赤々と燃え上がる艦橋。夜空に星屑のごとく散る戦闘機。

 「何なんだよ、何なんだよお前らは……!」

 特に甚大な被害をもたらしたのは、五匹のうち真っ先に艦隊に飛び込んできた金色の竜。他の四匹よりも大型であり、何より……その巨大かつ強靭な尾は、薙ぎ払うだけで艤装の殆どを吹き飛ばした。


 金色の竜は真紅の眼を、艦橋に向け。直下で爆ぜる主砲の豪圧をものともせず、その硬い爪を鉄の壁に食い込ませて艦橋に張り付き。電気配線に牙を突き立てた。その途端に、艦内の全ての電力系統は動力を失ったのだから、船はもはやただの肉を載せた鉄くずと化し。

「電力消失……まさか……食べた、の……?」

 絶望を前に逃げ出すことすらできなくなった兵たちを、竜は一瞥し、尾を背後に構えた。その姿は、毒針を向ける蠍を彷彿させた。


 咆哮とともに尾から放たれたのは、稲妻であった。

 弾け飛ぶ鉄。蒸発する血肉。夜闇の中、一瞬だけ輝く太陽のような閃光。艦橋を刺し貫いた稲妻は、その向こうの主砲を大破させ、火薬庫へ引火。大規模な誘爆を引き起こした。


 その爆発の熱風を受けてなお、金色の竜は平然と空に舞っていた。

 全滅した艦隊などもはや眼中になく、他の四匹と共に初の任務の完遂に、インプットされた通りの勝鬨をあげた。



 そう、この金色の竜こそが、イーヴェン国所属重巡洋艦級軍徒・アオバである。

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