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ふたりの場合 菅沼さん×原田くん編 第1話

作者: 遠野

僕の上司の菅沼薫さん。


今日も、シワ一つないダークグレーのスーツをピシっと着て職場に現れた。

「おはよう、原田君。今日の予定ちゃんと頭に入れてる?」

朝の気だるい雰囲気が一気に張り詰めたものに変わる。

来ていきなり、お仕事の話。

ホント、仕事人間なんだな。

「あ、おはようございます。えっと確か、2時に……」

「わかってるならいいの。ならそれまでにコレ。その会議で使うから、まとめといて」

「……ハイ」


菅沼さんはいつもグレー系スーツ。

入社してから笑顔って見たことない。いつも冷静。髪の毛はツヤツヤだけど一つにまとめてあって後れ毛とか見たことない。

だからか、女の子が彼女を『グレイ』って呼んでた。


確か、『グレイ』って灰色の目玉の大きい宇宙人。

宇宙人はきっと笑わない。あの目玉お化けの顔で笑えるなんて考えられない。

だから妙に納得したけれど、その不名誉な『グレイ』のあだ名を持つ彼女が僕は妙に気になる。


どんな風に笑うのかな、とか、ね。


昨日の帰りにキレイにしたばかりの机にバサッと、山のように積まれた書類とファイル。


軽くへこみながら、書類を恨めしげに見つめる。

そんなとこしてても終わらないのだし、腹をくくって書類の山を切り崩しにかかった。



時刻21時、すっかり夜。

書類はきっちり午後の会議に間に合ったけれど、その会議で提出した書類の倍の要望書が返ってきた。

僕はそれをまとめるために、残業中。

いつもなら残業に付き合ってくれる菅沼さんが、今日は「用事がある」と言って帰ってしまったのでなかなか終わらない。


「疲れたなぁ……」

机に突っ伏して、空になった菅沼さんの机を眺める。

「どーして帰っちゃったのかなぁ」


ただの上司と部下の関係だけど、菅沼さんと一番話しているのは僕だと思う。

話っても、仕事の話だけど。

ちょっとくらいプライベートの話もしてくれてもいいのになぁ。

そう言えば、菅沼さんのプライベートってどんなのだろう。

まさか休日もグレースーツ……な、わけないか。


そんなこと考えていたら、なんとなく寂しくなってくる。

「帰ろっかなぁ」

菅沼さんに偶然会えないかなぁ。


最寄駅の近くの神社の前を通りかかった時、どこからか動物の鳴き声がした。


僕は辺りを見回す。


神社の境内から、クリーム色の塊が走り寄ってきて、足元にじゃれつく。

見るとロングコートのチワワがものすごい勢いで、尻尾を振っている。

そして聞き覚えのある声。

「マロン!ちょっと待って!」

白いフレアスカートで、髪を下ろした菅沼さんが、遅れて走り寄ってきた。

走ってきたからか、頬が微かに赤い。

いつもと違う雰囲気の菅沼さん。

髪を下ろしていると、いつもより若く見える。


「すみません!リードが外れてしまって……。って、原田くん?」

僕の顔を見て少し驚きながら『マロン』と呼ばれたチワワを抱き上げた。

「原田くん、今帰り?」


「はい、……すみません。書類、最後まで出来ませんでした」

「いいわよ。明日、私も手伝うわ。……今日はごめんなさいね」


いつもより声のトーンが柔らかい。

今なら、聞けるかも。僕は思い切って聞いてみる。

「いえ、……ところで、用事って?」

「あ、この子の予防接種の予約が、今日入ってて」

と、腕に抱かれたマロンを見る。

微かに笑ってる?


な、なんか可愛いぞ!菅沼さん。

そして、菅沼さんに抱っこしてもらってるチワワ、犬の癖にうらやましいぞ。


「でも、この事は黙っててくれない?」

急にいつもの口調で口を開く、菅沼さん。

「へ?」

「……。ほら、グレイが犬飼ってたら可笑しいでしよ?」

自分のこと、グレイって呼ばれてる事を知っていたのも驚きだけど、照れたようにはにかむ彼女に、僕の心臓がわしづかみにされた。

これは、かなりヤバイ。



「わかりました。二人の秘密ですね。じゃあ、指きりしましょうよ」


「え?」

戸惑う菅沼さんに僕は右手を差し出す。

「約束守るったら、指きりですよ」


「そ、そうだっけ?」


怖ず怖ず差し出される菅沼さんの小指に、自分の小指を絡める。


「そうですよ。で、約束守ってるか確認の為に、定期的にご飯食べに行きましょう!」

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