魔女と呼ばれる理由
もう体は限界のはずなのに、勝手に歩き続けている。
疲労は感じるが、足は一方向に動き続ける。
その不思議な感覚に身を任せていると、見慣れた風景になってくる。
夜の丘に浮かび上がる村の明かり。
あれが、自分の生まれた村だと、すぐにわかった。
村に入り、自分の生家が残っていることに安堵を覚える。
生家を通り過ぎて、目的の家まで向かう。
村に着いたのは夜だからか、道には人は見えない。
目的の家はまだ明かりがついていて、自分の訪れを知っていたかのような暖かな光が歓迎している。
「……いらっしゃい」
扉をたたくより先に開き、中からはかつて自分が惚れた女性が立っていた。
「待っていたわ。入りなさい」
扉をあけてすぐのところは居間のようになっていて、机と椅子が置いてある。
「座って。疲れたでしょう」
勧められるがまま、椅子に座る。
目の前にお茶が置かれた。
「お帰りなさい。是非飲んで」
「いただきます」
思うよりも、自分の声はかすれているが、驚くほどの元気もない。
寒さで震える手に、温められた陶器は心地よくて、両手で包み込む。
飲んでみると、瞬間に体が温まる感じがする。
「あなたは……魔女なのですか……」
「…と呼ぶ人もいるわね」
まるで、そう呼ばれてもいいと思っているかのように、笑みを浮かべる。
幼い自分はその笑みに一目惚れしたのだった。
しかし、成長した今ならわかる。
その笑顔は作り笑いだ。
そして、それは誰に対しても変わらない。
「私はなぜここに帰ってきたのでしょうか」
何よりもわからないのは、あれだけ病気で体が動かなかったのに、この村に帰ってくるために動き続けたことだ。
自分の生まれた村に大して愛着があったわけでもないのに、限界を超えてこの村に帰ってきてしまった。
「……あなたの仕業ですか?」
「当たらずとも遠からず。一部は私の仕業でしょうか」
「でもね」と微笑む彼女は、昔見たことがある気がした。
今と同じで、暗い部屋の中。
ろうそくに照らされただけの『彼女』がとても魔性に見えた。
自分の中に現れる、後悔の念。
「でも、あなたの仕業でもあるのよ?」
「私の、せい……」
「そう。でも、あなたはそれを忘れてしまっているから。結局私が『魔女』だと言われる理由はそこにあるのかもしれないわね」
肩をすくめる彼女は、言葉ほど気にはしていないようだ。
彼女の細い指が、まっすぐ胸の真ん中に向かう。
きれいだな、と思ってしまった。
「さぁ、昔の約束を果たしてもらいますね。あなたの『胸骨』いただきますよ」
そこで意識が途切れた。