099・帰還とご報告
(あ……出口だ)
前方に、光が見える。
魔法やランタンとは別の光源……外の光だ。
(うん)
その輝きに安堵する。
中央制御システムを停止させてから、1度休憩を挟み、約7時間……僕らは行きの道順を逆に辿り、地上階まで戻っていた。
3人も息を吐く。
「やっとだね」
「ええ、そうね」
「あと少しです、がんばりましょう」
「うん」
クレフィーンさんの言葉に、僕も頷く。
やがて、通過したことのある通路を逆に見ながら、出口の外へ。
う……眩しい。
太陽の御光だ。
(こんなに強かったっけ……?)
暗闇に慣れた目には、かなり強烈に感じるよ。
見た感じ、朝だろうか?
東側の崖上に、ようやくお日様が顔を出した感じである。
う~む、徹夜かぁ。
と、出口の近くには見張りらしい王国兵がいて、彼は僕らに「あ」と気づくと、急いで1番大きな天幕の方へと駆けていった。
おや、足速い。
やがて、
「おお、戻ったか!」
「ご無事で何より」
戻ってきた時には、責任者の室長さんと隊長さんの2人も一緒だった。
騒ぎを聞きつけ、他の人も集まる。
ザワザワ
出口付近は、あっという間に人垣ができていた。
おお、注目されとる。
黒獅子公の美女も微笑み、
「うん、ただいま」
と、気楽に答える。
レイアさんは肩を竦め、クレフィーンお母様は苦笑。
(あはは……)
僕も苦笑いだ。
でも、どんな時でも変わらない態度に、妙に安心と頼もしさも感じるから不思議ですね。
パドゥナ室長は、彼女と握手。
そして、
「成果は……?」
と、聞く。
黒い尻尾を揺らし、アルタミナさんは頷く。
「うん、倒したよ」
「おお……!」
「誠ですか!」
責任者2人は目を瞠る。
ワアッ
周囲に集まった管理局員、王国兵からも歓声が上がった。
オルクス隊長は、
「ありがとうございます……っ」
グッ
と、僕らに頭を下げる。
目に涙が滲んでいる。
ああ、うん、
(隊長さん、部下の人たちが殺されてるんだもんね)
周りの王国兵の中にも、仲間の仇が取れたことに涙をこぼしている人もいた。
黒獅子公も、静かに頷く。
と、そんな中、
「それで、そのだね……」
と、何か言い難そうな室長さん。
(ん?)
見返す僕らに、
「その門番だが、無傷で無力化などはできただろうか?」
へ……?
僕らは、唖然。
あ、ああ。
そう言えば、到着初日に言ってたね。
その時、アルタミナさんははっきり断っていたけれど、彼も『もしかしたら……?』って聞いてる感じ。
それに、黒獅子公は苦笑。
ある種、冷淡なレイアさんが言う。
「悪いけど、完全破壊させてもらったわ。無事に残ってる部位の方が少ないわよ」
「そ、そうかい」
ガクッ
室長さんは肩を落とす。
う~む、
(研究オタクなんだねぇ)
僕、呆れるより、感心しちゃう。
その時、オルクス隊長が、
「室長」
「ん?」
「彼を見てください」
と、突然、僕を手で示した。
(へ?)
彼の言葉に、室長だけでなく、3人の女冒険者と周囲の人も僕に注目した。
な、何々?
戸惑う僕。
隊長さんは言う。
「彼の腹部がわかりますか?」
「腹部……?」
「はい。あの衣服の損壊、大量の血痕……治療はされていますが、通常なら致命傷となるレベルの負傷跡です」
「あ……」
「彼らは楽に勝ったのではありません。命懸けで戦い、勝利したのです」
「…………」
パドゥナ室長は黙り込む。
周囲の人々も、僕を見ながらざわめいている。
その中には、亜人差別発言をした北部出身の例の3人もいて、何だか複雑そうな表情をしていた。
(え、え~と)
確かに?
服には大穴開いてるし、血だらけだけど……あんまり見られると恥ずかしいぞ。
何となく、両手で隠しちゃう。
すると、室長さんは視線を上げ、僕の顔を見る。
目が合う。
僕は、曖昧に笑った。
途端、彼はショックを受けた表情になり、
「すまない、軽率なことを口にしたようだ……」
と、謝罪した。
何で?
いや、大変だったけど、
(でも、治せるのわかってて、あえて自分から受けた傷だし……?)
別に謝らなくても。
ねぇ?
と、3人を見る。
でも、
「うん、シンイチ君は勇敢だったよ」
「古代魔法の回復がなければ、確かに死んでいたでしょうね」
と、2人は頷く。
(え?)
クレフィーンお母様も、
「この子の勇気により、私たちも勝利を得ることができました」
と、おっしゃる。
お、お3人さん~?
僕、唖然。
室長さんと隊長さんも頷く。
そして、なぜか周囲の人々まで、僕に感嘆の視線を送り、
パチパチパチ
と、拍手まで送ってくる。
例の3人も、どこか不満そうなのに手を叩いていらっしゃる。
(何でよ?)
なんか、むず痒い。
居た堪れなくなった僕は、
「あ、あのですね」
「ん?」
「僕ら、討伐ついでに、遺跡のゴーレムの製造室と管理室も停止させたんですけど……」
「……へ?」
責任者2人は目を丸くする。
僕は言う。
「その製造室に、番人と同型のゴーレムが作りかけの状態であるので、そっちなら無傷だし、調査や研究もできるんじゃないかと思いますよ?」
と、伝えた。
2人は、唖然、茫然。
室長さんは、
「そ、そうなのかい?」
「うん」
「お、おお……素晴らしい、すぐ調査の用意をしなければ! ありがとう、勇敢な少年よ!」
ギュッ
僕の手を握る。
そして、奥の天幕へと走り出した。
うわ、機敏~。
周りの管理局員の人たちも慌てて室長さんを追いかけていく。
隊長さんも、
「では……今後、遺跡のゴーレムは……」
「あ、はい。現在、残っている個体以外は、もう追加で現れることはありません。これからは安全も確保し易くなると思いますよ」
「…………」
「……?」
「そうですか」
「はい」
「トウヤマ様。重ね重ね、ご協力に感謝いたします」
「あ、いえ」
これが仕事ですし。
でも、隊長さんは僕に熱い眼差しを送ってくる。
そして、
カッ
靴の踵を合わせ、こちらに敬礼した。
彼だけでなく、後ろにいた王国兵の皆さんも、同じような敬礼を僕ら4人に送ってくる。
(…………)
僕は、目をぱちくり。
でも……。
なんか、ジンと胸に来る。
3人の女冒険者も同じみたいで、僕と顔を見合わせると4人で一緒に笑う。
そして、僕は姿勢を正し、
ペコッ
彼らに向け、お辞儀を返したんだ。




