097・魔法人形製造室
僕らは、7階層の通路を歩いていく。
途中、分岐があると、
ヒィン
【右へ進め】
と、真眼君の表示に従い、進路を選んだ。
クレフィーンお母様は、その度に紙面に歩いた距離、方向など地図を丁寧に描いていく。
その手元を覗いていると、
「帰る時に迷わないためです」
とのこと。
(あ、なるほど)
僕も納得。
彼女は優しい表情で、
「あとは、地上の遺跡管理局員にも渡すためですね」
「局員さんに?」
「はい。後日、安全に調査をするために利用してもらえれば……と」
そう微笑む。
や、優しい……!
(うむ、やはり女神)
心の中で拝んじゃう。
また、しばらく進むと、
ヒィン
【罠に注意】
・進路上に、毒ガスの罠がある。
・床石の1つが魔力紋感知センサーになっている。
・踏んだ人物の魔力紋が事前に登録されていない場合、壁面の彫刻にある微細な穴から毒ガスが噴霧される。
・踏まなければ、作動しない。
(へぇ……?)
僕は、即、報告。
3人は頷き、
「やっぱり、生きた罠があったわね」
「まだ、私の罠感知の魔法の範囲外なんだけど……もうわかったのかい?」
「さすが、シンイチ君ですね」
と、会話する。
そして、
「その目のおかげで、本当に助かっています。ありがとう」
と、金髪のお母様。
(えへへ……)
少し照れる。
他の2人も「ありがとね」「ま、褒めてあげるわ」と笑ってくれた。
うん、役に立った。
嬉しい。
地図にも記入し、避けて歩く。
ついでに、
ガリッ
手前の床石に、アルタミナさんが戦斧で『↑罠』と傷をつけ、よりわかり易くした。
(うん、いいね)
僕らも笑う。
そして、更に奥へ。
何回か、分岐を選び、罠を見つけ、先へ進んでいく。
途中、2回、小型ゴーレムが4~5体ほどで現れ、戦闘も発生したけれど、
ガシャアン
3人の女冒険者が即、排除してくれる。
(うむ、強い)
僕は見てるだけでした。
真眼情報によると、中央管理システムが自分や製造機を破壊されないよう、最後の足掻きで製造し、送り込んできたゴーレムらしい。
けど、
(ま、3人の敵じゃないね)
普通の人型と獣型だったし。
せめて、あの多脚型ゴーレムじゃないとね。
……いや、
(本当に出たら困るけどさ)
出ないよな?
ドキドキ
心配していると、
【多脚型の再製造】
・現在、製造機で製造中。
・ただし、丸1日かかる。
・桐山真一たちの到達の方が早いため、戦闘は起こり得ない。
・安心されたし。
(……ほっ)
そっか、よかった。
ありがとう、真眼君。
一応、3人にも伝えると、再製造中だったことに驚き、間に合わないことに安堵の表情を見せる。
3人は、
「もう1度戦うのは、面倒だったよ」
「そうね」
「1日1度の『神霊の天罰』も、アルは使ってしまいましたものね」
「ですね~」
僕も頷き、皆で笑う。
で、何やかんやありながら、約20分後。
(あ、扉だ)
暗闇の中、光源に照らされ石の扉が見えた。
ヒィン
【製造室の扉】
と、文字が浮かぶ。
(製造室)
じゃあ、この先で……。
僕は、扉を見つめる。
やがて、罠と施錠の有無をチェック。
ないことを確認し、
ゴゴン
僕らは力を合わせ、その石扉を強引に開いていく。
開いた隙間から、奥の広い空間が見え、
(お……)
僕は、驚く。
内部には、複数の自動コンベアがあり、機械式のアームが何本も稼働しながら、現在も小型ゴーレムを製造していた。
女冒険者たちも驚きの表情だ
(うん)
間違いない。
この場所が、遺跡のゴーレムの発生源だ。
◇◇◇◇◇◇◇
僕らは、製造室内に入る。
(ほへぇ……)
自動コンベアの上には、製造途中のゴーレムが流れている。
でも、皆、完成前の状態で。
人型ゴーレムなどは手足がなく、上半身だけで、装甲も剝がれているため、内側の骨組みや人工筋肉、内臓みたいな器官が丸見えになっている。
まるで、胴体が千切れた上半身だけの死体みたい。
結構、グロい……。
3人の女冒険者も表情をしかめている。
虫型、獣型も同様で、
(あ)
1番奥には、多脚型が足のない状態で、人型の上半身と蜘蛛型の下半身が分離して製造されていた。
蜘蛛の内部構造、キモイ……。
変に柔らかそうな部位があり、その内側で何かがピクピク動いてる。
上半身も同じく、顔なんか皮膚がない顔面みたいで、骨組みや眼球レンズが剥き出しになっていて、めっちゃ不気味だよ。
(ひぃ~)
長く見てられません。
嘆く僕と裏腹に、3人は気を取り直したように周囲を見る。
黒獅子公の美女が、
「よし、壊そうか」
と、言う。
でも、冷静なレイアさんは少し考える。
仲間の美女に、
「でも、遺跡管理局から文句が出るんじゃないかしら? アイツら、生きた遺跡の損壊を嫌うから」
「あ~……」
「壊すにしても、最小限にしたいわね」
「そうだね……。ごねられて、報酬、減らされても困るしね」
ガクッ
アルタミナさんは肩を落とす。
(う~む?)
色々、しがらみや制約あるんですね。
クレフィーンお母様は、長い金髪を揺らしながら僕を見る。
ん?
「シンイチ君」
「はい」
「秘術の目で、最低限、どこを壊せば停止させられるか、わかりますか?」
(あ)
なるほど。
僕は頷き、
「うん、できると思います」
と、答えた。
他2人も見守る中、秘術の目――もとい、真眼を発動。
ヒィン
【破壊すべき場所】
・奥の壁を剥がし、内部にあるコードを切断する。
・中央管理システムとの接続が途切れ、稼働用の魔力の供給が停止する。
・切断時、魔力が散るので注意。
(ふむふむ)
見回せば、【ここ】と壁の一部に文字が浮かぶ。
僕は指差し、
「あの壁を壊して、奥のコードを切ればいいみたいです」
と、教えた。
お母様は「ありがとう」と微笑む。
友人2人も、
「さすが、シンイチ君」
「本当、便利な目よね」
と、明るい笑顔と呆れた苦笑だ。
そして、
ガン ガン
アルタミナさんが戦斧で壁を壊し、
(お、あった)
崩れた石壁の内側の空間に、太いパイプとコードが何本も伸びている光景が現れた。
このコード類かな?
カチャ
クレフィーンお母様が幅広の両刃剣を構える。
僕は、
「切る時、魔力が散るそうなので気をつけて」
「はい」
長い金髪を揺らし、頷くお母様。
そして、剣を振る。
ヒュッ パチュゥン
(おわっ?)
電気が放電したみたいに青白い光が弾け、視界を眩ませた。
び、びっくりした。
視力が戻れば、あ、うん……コード、切れてる。
同時に、
ゴ、ゴゥゥン……
重苦しい音を響かせながら、流れていた自動コンベアと機械式アームの動きが停まる。
各所の作動ランプも消失。
(おお……)
僕は目を丸くする。
アルタミナさんは頷き、
「停止したね」
「はい」
クレフィーンお母様も答え、剣を鞘にしまう。
レイアさんも笑い、
「これなら管理局も文句はないでしょう。よくやったわ、シンイチ」
ポン
軽く背中を叩かれる。
あ、ども。
僕も小さく笑う。
3人の女冒険者も笑顔である。
「よし、じゃあ、次は中央管理システムの管理室だね」
「あ、はい」
「行きましょう」
「ええ、そうね」
アルタミナさんの言葉に、僕らは頷く。
製造室の奥には別の石扉があり、僕らは再び力を合わせ、重い扉を開く。
ゴゴ……
やがて、解放。
隙間を抜け、僕ら4人は更に奥へと向かったんだ。




