095・僕はどこにも行きません
(はぁ~、死んだかと思った)
ナデナデ
僕は、自分のお腹を撫でてしまう。
現在は、多脚型ゴーレムとの戦いの直後である。
3人に『無茶しすぎ!』と叱られたあと、僕は、床に座って休憩中、アルタミナさん、レイアさんは周囲を確認しに行き、クレフィーンさんは僕のそばにいてくれている。
しかし、服、大穴開いてるね。
しかも、穴の周囲は焦げてるし、血でベトベトだし……。
(買い替えだね)
ぐすん。
まだ買って、1ヶ月ぐらいなのに……。
ま、でも、生き残れたんだからいいか。
だけど、
(魔法って、本当、凄いよな~)
と、改めて思うよ。
だって、あの時、僕自身、死んだと思ったもん。
だって、身体のど真ん中に、ぽっかり、穴、開いたんだよ?
でも、生きてる。
治ってる。
現代日本の医療でも、こんなの不可能じゃん?
う~む、
(異世界って、本当に素晴らしいですな)
なんて、つくづく思います。
と、その時、
「シンイチ君? 痛むのですか?」
(え?)
振り返ると、お腹を撫でる僕を、クレフィーンさんが心配そうに見ていた。
あ……。
僕は首を振る。
「いえいえ、大丈夫です」
「本当ですか? 我慢してないですか?」
「うん」
「そうですか……。ですが、もし何かあるようでしたら、すぐに言ってくださいね。絶対ですよ?」
「…………」
すっごい心配されてる。
う~ん?
真眼君が作戦思いついた時は、名案だと思ったんだけど、お母様には余計な心労を与えたみたいだ。
(本当、ごめんなさい)
心の中で謝る。
ま、実際、どんな作戦だったか、詳しく思い出すとだね。
まず、僕が囮。
方法は単純で。
人間、突然目の前に虫が自分目がけて飛んで来たら、思わず叩くでしょ?
それと同じで、重力魔法で、予想外の速さで飛んできた虫……つまり僕に、多脚型ゴーレムも他2人を無視して反射的に動いちゃったんだよね。
しかも、防御不可の絶対的な攻撃を防御される。
ま、混乱するよ。
だって、
(コイツら、分析してるんだもん)
7階層に到達するまで、中央制御システムに情報を送るために、何度も小型ゴーレムで情報を集めてたしさ。
想定外の魔法。
それが何か、知ろうとする。
だから、動きが止まる。
おかげで僕は、簡単に囮になれて、黒獅子公と雪火剣聖が致命的な攻撃を与えてくれた。
……うん。
ここまではいい。
でも、このあとが、ね?
(怖かったなぁ)
いや、マジで。
あの魔力砲……。
真眼情報だと、あれ、破損率が80パーセントを超えた時にのみ起動する最終手段らしいんだ。
魔力消費が激しく、撃つと30秒間、再起動まで時間がかかる。
そんな攻撃。
ま、追い込まれた証明だね。
で、僕はあえて奴の正面、砲口の先にいて、それでわざと自分に狙わせた。
だって、
(3人が撃たれたら、嫌じゃん?)
僕なら1日1回、どんな負傷も治せる古代魔法がある訳だし、もちろん他人にも使えるけど、3人に痛い思いさせるのも、もし万が一、魔法が間に合わない可能性もある訳だしさ。
で、自分を撃たせたの。
本当は『王霊の盾』で防げればよかったけど、
(どうも古代魔法の発動には、1回使うと数秒、クールタイムがあるみたいなんだよね?)
だから無理で。
で、負傷覚悟で魔力砲、受けたんだよ。
いや~、あの時、そばにクレフィーンさんがいたのも予想外で、思わず、突き飛ばしちゃったよね。
本当、申し訳ない。
でも、
(クレフィーンさんは無事でよかったよ)
と、安堵もしてる。
実際、魔力砲を受けた時は、痛みよりお腹が熱く感じて……でも、ほぼ同時に真眼君の指示で『不死霊の奇跡』を発動してたから、それ以上、苦痛はなかった。
…………。
……うん。
あの時、
『――不死霊の奇跡!』
と、心の中で念じたら、傷口が『虹色の炎』でボッと燃えたんだよね。
凄く綺麗な炎。
ちょっと見惚れたよね。
で……その炎で燃えた箇所が治っていく感じ。
お腹の穴もあっという間に塞がって。
なんか、その『虹色の炎』が、焼け千切れた内臓とか、溶けた骨とか、失った血液とか、全部、補ってくれたみたいでさ。
多分、2~3秒だったと思う。
完治まで。
(1日1回の不死……体験したけど、本当、凄いよ)
我がことながら信じられない現象。
僕自身そうなんだから、何も知らなかった3人は、そりゃ、僕以上に驚いてしまったよね。
チラッ
僕は、背後にいる金髪の美女を見る。
彼女の青い瞳は、ずっと僕の方を向いていた。
だから、
「シンイチ君、何か?」
と、僕の視線に気づき、問いかけてくる。
僕は苦笑。
そして、言う。
「あの……やっぱり心配しました?」
「っ、それはもう」
美しい金髪を揺らし、クレフィーンお母様は大きく頷く。
目が潤み、
「あんな光景、もう2度と見たくはありません。もし、シンイチ君に何かあれば、ファナにも何と言えばいいか……」
「あ~、ですね」
「あんな真似、もう2度としないでくださいね」
「うん」
「約束ですよ?」
と、白い小指を出される。
(おや?)
異世界にも指切り習慣があるのか。
僕は驚き、
「わかりました、約束です」
キュッ
小指を絡ませ、笑う。
そんな僕の顔を見つめ、彼女は唇を強く引き締める。
そして、
グイッ
小指を引き、
(わ?)
倒れ込んだ僕を、強く抱き締めた。
ふぇ?
ク、クレフィーンさん!?
驚く僕に、
「ごめんなさい……もう少し……もう少しだけ、貴方が無事なのだと感じさせてください」
「え、あ、はい」
「…………」
「…………」
クレフィーンさん、少し震えてる。
え、そこまで?
僕は困惑。
すると、
ヒィン
真眼が発動した。
【クレフィーンの動揺】
・桐山真一の死を想像したことで、7年前、夫を看取った時を思い出してしまった。
・大事に思う人を失う恐怖に怯えている。
・好感度、90/100。
(あ……)
そっか。
さっきの僕の出来事で、亡くなった旦那様を連想しちゃったのか。
何だか申し訳ない。
ギュッ
僕も、彼女を抱き締める。
ピクッ
彼女は少し反応した。
その耳元に、
「大丈夫。僕は、クレフィーンさんを置いてどこにも行きませんから」
「……!」
「だから、大丈夫です」
「…………。はい」
少しだけ安心した声。
彼女の震えが……うん、消えたかな?
でも、
(……ん)
お互い、離れない。
ドク ドク
彼女の早い鼓動を感じる。
僕とクレフィーンさんとの抱擁は、やがて、アルタミナさんとレイアさんの2人が戻ってくるまで続いたんだ。




