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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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090・血の臭い

「じゃあ、先に進もう」


 戦闘後、アルタミナさんの号令で僕らは再び歩き出した。


 地下2階層を進んでいく。


 幸い、その後は戦闘もなく。


 何度も地図を確認して現在位置を見失わないよう注意しながら、真っ暗な通路を歩き続け、約1時間後――僕らは、更なる地下への階段を発見した。


(……3階層か)


 階段の奥は、やはり暗闇の中。


 ドキドキ


 緊張と少しの恐怖。


 僕は深呼吸。


 と、クレフィーンさんが気づき、落ち着かせるようにポンポンと軽く僕の背中を叩いてくれる。


 振り返ると、


 ニコッ


 と、微笑んでくれた。


 め、女神……!


 そうして、僕らは地下3階層へ。


 1~2分ほどで階段を下り切り、再び移動を開始する。


 地下3階層も上層の2階と変わらぬ構造で、目の前の風景も同じような石造りの通路が続いている。


 コツ コツ


 足音を響かせ、僕らは歩いていく。


 ここまで、1階層の踏破に約1時間。


 目的地は7階層。


 つまり、移動だけで、


(約7時間……?)


 結構、かかる。


 しかも、これ、往路だけの計算。

 

 復路も入れたら、約14時間……半日以上かかるのだ。


 う~む、


(今回、遺跡内で1夜を明かしそう……)


 そんな気がする。


 と、その時、


 ヒィン


(お?)


 再び、赤文字の警告表示。


 内容を読み、


「敵です。数、4体。距離330メード。人型3体と百足型が1体です」


 と、3人に伝達。


 ちなみに『百足型』の強さは、


 ヒィン




【魔法人形〈百足型〉】


・体長約7メートル。


・無数の足と長い胴体で対象に巻き付き、動きを封じて嚙み殺そうとする。意外と力が強いので注意。


・動力部は1つ。


・戦闘力、210。




 との情報だ。


 3人には、その辺もしっかり伝える。


 黒髪の美女は頷き、


「ありがとう、シンイチ君。――じゃあ、今回、君は後方待機で」


「え?」


「今日は2度も戦わせたからね。今回は休んでて」


「でも」


「口答え禁止。リーダーは誰だっけ?」


「…………」


 むぅ……。


 不満だか、仕方ない。


(確かに今、魔力量も半分ぐらいしかないもんね)


 と、渋々了承。


 彼女も笑い、頷く。

 

「うん、いい子だよ、少年。――じゃあ、フィン、レイア、聞こえていたね? あとは、私たち3人だけでやるよ」


「はい」


「わかったわ」


 頷く美女2人。


 クレフィーンさんは、


「今回は私たちの先輩らしいところを、シンイチ君に見させてくださいね」


 と、僕に言う。


 僕も「うん」と頷く。


 そんなお母様とのやり取りに、レイアさんは『はいはい』と軽く肩を竦め、一方のアルタミナさんは楽しげに笑う。


 しばらくすると、闇の中から硬質な足音が聞こえてくる。


 やがて、十数秒後、


(……出た)


 光源に照らされる範囲に、その姿が入った。


 3体の人型の背後に、巨大な百足型ゴーレムがいる。


 わぁ、でっかい。


 半身を起立させ、3~4メートル程の高みから僕らを見下ろしている。


 赤い眼球は、三角形の配置で3つ。


 口元には、鋭利な牙が輝く。


 かなりの迫力だ。


 ゴクッ


 思わず、唾を飲む。


 そんな僕の前に、3人の美しい女冒険者が並んで立つ。


 静謐で、凛と美しい表情。


 怯えた気配は微塵もない。


 た、頼もしい……!


 そして、



 ――開戦。



 ガシャン


 3人に対して、4体の古代の魔法人形が一斉に飛びかかった。


 その内の人型1体に、


 バシュッ


 レイアさんが大弓の矢を放つ。


 ギィン


 人型は右腕の剣で受け、足を止める。


 その間に、アルタミナさんが黒い疾風のように巨大な百足型ゴーレムへと肉薄し、長い胴体に戦斧を叩き込む。


 バキィン


 激しい音と火花が散る。


 巨体が横に弾かれ、側面の壁に激突した。


 おお、凄い力。


 残る人型は、2体。


 その進路上には、『雪火剣聖』と呼ばれる金髪の美女が立っている。


 ユラッ


 彼女は静かに、幅広の両刃剣を構える。


(――――)


 美しい。


 素人でもそうわかる、構えの安定感。


 その金髪の女剣士に対して、2体の人型ゴーレムは右腕の剣を振り被りながら、同時に襲いかかった。


 キン


 小さな音がした。


 2体の右腕が切断され、空中に舞っている。


(……へ?)


 見えなかった。


 強化された動体視力でも、光が走ったようにしかわからない。


 でも、クレフィーンさんの大剣が振り抜かれた状態になっていて、多分……いや、間違いなく、彼女の剣が斬ったのだと理解する。


 人型2体の足が止まり、


 キン キキン


 澄んだ音が連続する。


 途端、金属装甲に覆われた腕が、足が、次々と切断され、床に落ちた。


 装甲の隙間。


 僅か1~2センチの隙間に、正確無比に剣の刃を通している。


(…………)


 神業じゃん。


 そんなの、静止してても難しい。


 しかも今は、動く相手にそれを行っている。



 ――剣聖。



 なるほど、まさに。


 四肢が切断され、動けなくなった魔法人形――その剥き出しの動力部を、金髪の『剣聖』は楽々と、2度、剣を突き刺して破壊する。


 うん、圧勝だ。


 その間、僅か10秒弱。


 そして、レイアさんが足止めしていたもう1体に向かう。


 キキン


 15秒もせず、動力部を破壊。


 機能停止――それを確認した美女2人は、頷き合い、アルタミナさんの方を見る。


 ガギィン


 金属音と激しい火花が散り、巨大な百足の胴体が『黒獅子公』の戦斧で真っ二つになっていた。


 落ちてくる百足の半身。


 雪火剣聖が剣を構え、


 キン


 剣閃が煌めき、更に半分に……。


 ガコォン


 重い音と共に、4分の1の巨体が床に落ちる。


 その切断面からは、


 ジ、ジジ……


 斬られた動力器官が覗き、赤黒い液体が床にこぼれていた。


 雪火剣聖の美女は、


「――ふぅ」


 短く息を吐き、振り抜いた剣を戻す。


 長く美しい金髪をなびかせ、青い瞳を伏せるその表情と静謐な所作は、まるで日本の武士みたいで、うん、めっちゃ格好いい。


 ていうか、


(え、強ぉ……)


 あまりに圧倒的で、僕、唖然ですわ。


 いや、3人とも凄すぎ。


 遠距離武器なのに、相手の接近を許さず、かつ足止めもし続けたレイアさんも凄いし、巨大百足を1人で相手していたアルタミナさんも凄い。


 でも、何より、初めてじっくり見たクレフィーンさんの剣の腕前が……。


(う~む)


 戦闘時間も、ほんの1分ちょっと。


 彼女たちの誰1人、汗もかいてない。


 別次元の強さを見せた美しい女冒険者たちを、僕はただただ見つめてしまう。


 3人は、こちらに戻ってくる。


 僕の顔を見て、


「お待たせ」


「いい子で待ってたわね」


「少しはいい所を見せられたでしょうか?」


 と、美女たちは笑う。


 僕は大きく頷き、


「うん! 皆さん、強くて、格好良くて、すっごく素敵でした……! もう、憧れちゃう……!」


 ギュッ


 両拳を握って力説する。


 3人は驚いた表情を見せ、それから、お互いの顔を見て照れ笑いを浮かべた。


(???)


 何を照れるの?


 僕は、キョトン。


 クレフィーンさんは「ありがとうございます」と頬を赤らめながらはにかむ。


 残る2人は、


「本当、素直ないい子だねぇ」


「その馬鹿みたいな素直さが、逆に私は心配になるわ……」


 なんて言う。


(……何のこっちゃ?)


 僕は、首をかしげる。


 そんな僕の様子に、3人の美しい女冒険者たちは苦笑をこぼしていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「じゃ、先に行こうか」


 と、僕らは移動を再開する。


 その後の地下3階層では、もう1度だけ、ゴーレムとの遭遇と戦闘が発生した。


 でも、敵は人型1体のみで。


 ガッ キン


 3人の美女により、瞬殺されてしまう。


 僕の出番なし。


(う~む) 


 何もしなくて、本当にいいのかしら?


 と、悩んだり。


 やがて、30分ほど歩き、


(あ……階段)


 と、地下4階層に続く階段を発見した。


 僕らは互いを見て、


(うん)


 と、頷き合う。


 そして、階下に通じる目の前の段差を、1段1段、慎重に降りていく。


 約2分後。


 カツン


 足音を響かせ、地下4階層に到着。


(ふむ……)


 景色は、特に変わらない。


 石造りの空間が、闇と共に広がっている。


 地図を確認し、


「こちらですね」


 と、クレフィーンさんの示した暗闇の方へ歩き出す。


 コツコツ


 薄暗い空間に、足音だけが響く。


 途中、3時間の効果時間が切れたので『身体強化』の魔法をかけ直す。


 ピィン


(ん……!)


 力が湧くぜ。


 で、再び歩き出したんだけど、


「――――」


 ピタッ


 突然、先頭を歩いていたアルタミナさんが足を止めた。


 え……わ?


 次を歩くレイアさんも立ち止まり、僕は背中にぶつかりそうになる。


 何とか耐え、仲間の2人と共に先頭の彼女を見る。


「アル?」


「どうしたの?」


「…………」


 2人の問いに、けど、彼女は答えない。


 その表情は少し険しくて、黒髪から生えた獣耳は進行方向のみに向き、金色の瞳が薄く細められている。


 形の良い鼻が、


 ヒク ヒク


 と、かすかに動く。


(???)


 本当、どうしたんだろう?


 怪訝に思っていると、


 ヒィン




【アルタミナの停止した理由】


・血の臭いを感じたため。


・獣人特有の鋭い嗅覚で、前方からのかすかな血の臭いを感じ、警戒して足を止めている。


・他種族では知覚は難しい。


・血の臭いの発生地点までは、距離127メートル。




(へ……?)


 真眼君の表示した文字を、僕は2度見してしまう。


 思わず、


「血の臭い……?」


 と、呟く。


 近くの2人がギョッと驚いたように僕を見る。


 アルタミナさんは頷き、


「うん、シンイチ君の言う通り、この先から嫌な臭いがするんだ。やはり、血臭かな」


 と、認めた。


 仲間の美女2人も、真剣な表情になる。


 僕は言う。


「秘術の目によると、130メードぐらい先が発生地点みたいです」


「そう」


 頷く黒髪の美女。


 僕らは武器を用意し、警戒しながら先に進む。


 コツコツ


 やがて、100メートルほど石造りの暗い通路を進む。


(ん……?)


 すると、1番前方に浮かぶ『光の羽根』の照らしている範囲の中に何かが見えた。


 何だろう?


 少し、光ったように思う。


 もう、2~3歩、進む。


(あ……)


 そして、わかった。


 僕は呟く。



「……ゴーレムの残骸」



 目の前の床の上に、金属の破片が無数に散らばっていた。


 砕けた装甲、千切れたチューブ束、折れた骨格、割れている動力器官などが散乱し、魔法の羽根の光を妖しく反射している。


 でも、


(結構、数が多いぞ?)


 1~2体じゃない。


 多分、20体以上……それぐらいの残骸の量だ。


 3人の美女も、この光景に目を瞠っている。


 と、その時、


「ん……?」


 と、アルタミナさんが何かに気づいた顔をした。


 1人、前に出て、


 カィン


 残骸を蹴る。


 壊れたゴーレムの身体が転がり、現れた下の床が真っ黒い色に染まっていた。


(……?)


 彼女はしゃがむ。


 目を細め、


「……血痕だね」


 と、呟いた。


(!)


 僕は硬直する。


 血痕って……。


 仲間の美女2人も表情をしかめ、周囲を見回す。


 よくよく確認してみれば、僕らのいる空間の床には、ゴーレムの残骸だけでなく大量の血痕が何ヶ所にも広がっていた。


 え……?


 何、ここ……?


 てか、


(誰の血なの?)


 僕は茫然と、床の黒い染みを見つめ、


 ヒィン


 すると、真眼が発動した。




【血痕の正体】


・人間の血痕。


・2ヶ月前、遺跡管理局員と王国兵の調査隊30名が、この場所でゴーレムの集団に襲われた。


・死亡者、7名。重傷者、5名。


・被害者の遺体は、すでに地上に回収されている。




(…………)


 そっか。


 僕らが来る前に、遺跡を調査、探索していた人たちの……。


 グッ


 僕は、唇を噛む。


 そして、視えた事実を3人にも伝える。


 3人も驚いた顔をする。


 すぐに頷き、


「そうですか、以前の調査隊の……」


「なるほどね」


「7人……確かに、これだけの血の量だものね。相当、酷い状況だったんだわ」


 と、周囲を見る。


 彼女たちも、さすがに少し痛ましげな顔である。


 クレフィーンさんが僕を見る。


「遺跡の探索では、このような悲劇も起こり得ます。私たちも油断せず、気をつけていきましょう」


「はい」


 僕も真面目な顔で頷く。


 3人の強さや真眼の力で、勘違いしそうになる。


 でも、


(ここでは、普通に、簡単に命が散ってしまう場所なんだ)


 そう思い知らされた。


 僕は目を伏せ、


「…………」


 悲劇の現場に、手を合わせる。


 それを見て、3人の美女も黙祷を捧げる。


 1分ほどの慰霊の時間。


 やがて、黙祷を終える。


 僕らは顔を上げると、この場をあとに、更なる通路の奥の暗闇へと進んでいったんだ。

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― 新着の感想 ―
探索中にゴーレムに探知され・・・という訳か。こういう描写があると「命がけの仕事」だというのが改めて知らされますね・・・戦闘描写も良いですが、こういう描写も好きです。 後、何気にクレフィーンさんの実力の…
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