009・冒険者登録
「――はい、冒険者登録のご希望ですね」
総合受付で用件を伝えると、受付嬢さんは微笑み、何枚かの紙を用意した。
僕の前に示して、
「では、こちらの書類の必要項目にご記入をお願いできますか?」
「あ、はい」
僕は頷き、書類を受け取る。
(どれどれ?)
氏名、年齢、性別、住所、出身地、魔力の有無、特技、病歴、などなど、色々な項目がある。
ちなみに、文字は日本語じゃない。
英語の筆記体?
みたいな、異世界文字だ。
だけど、
(普通に読めるし、書ける感覚があるなぁ)
異世界言語、習得済み……便利である。
文字を眺めていると、
「読めますか、シンイチ君?」
勘違いしたのか、クレフィーンさんが心配そうに聞いてくれる。
(あ……)
僕、外国の人設定だっけ。
優しい未亡人さん。
僕は笑顔で「大丈夫です」と答える。
受付嬢さんが貸してくれたペンを受け取り、紙面に向かう。
……?
指の当たる部分に、透明な石がある。
変なペン。
と思ったら、
ヒィン
【魔力インクのペン】
・使用者の魔力に反応し、インクを生みだす魔法のペン。
・触れた魔石から魔力を抽出する。
・ギルドの備品。
・1本30リド。約3000円。
(ほわっ?)
異世界独自のペンだった。
てか、魔力に反応?
これ、僕にも使えるの……?
心配になりながら、ペン先を紙の上に滑らす。
(あ……普通に書けた)
魔力、僕にもあったのか。
ひょっとしたら、真眼や異世界言語みたいに、転移した時に魔力も付与されたのかも……?
…………。
……誰に?
今更、疑問。
(何か忘れてるのかな、僕?)
ふと、そう思ったり。
でも、答えは出ない。
ま、いいか。
今は、目の前のことを。
そう考えた僕は、目の前の書類の項目を埋めていく。
(えっと)
氏名・桐山真一 年齢・15歳 性別・男 住所・なし 出身地・日本国 魔力・有 特技・目がいい 病歴・なし などなど、書いていく。
やがて、5分後。
(よし、完成)
1度見直したあと、受付嬢さんに提出。
彼女も確認。
そして、少し眉を寄せ、
「ニホン国……ですか?」
と、言われる。
僕は「うん」と頷いた。
金髪の女冒険者さんが横から補足してくれる。
「東の海にある島国だそうで」
「東の……ああ、東の海の『日の出の諸島』に複数の小国群がありましたね。その1つですか」
「恐らく」
頷く、クレフィーンさん。
それに、受付嬢さんも納得した様子である。
ニコニコ
僕は笑顔で、何も言いません。
時々確認を受けながら、けれど、特に問題もなく書類は受け取ってもらえた。
そして、ペンも返却。
(ん……?)
受付嬢さんは、ペンの石を取り外す。
カチャ
何かの器具に固定。
器具にある丸い水晶みたいな球体が光り、文字が浮かんでいく。
カチカチ
鍵盤みたいな部分を、受付嬢さんが押す。
やがて、球体の光が消える。
器具から石を外し、今度は小さな金具にはめ込む。
金具には、紐が付いている。
見ていると、その石のついた金具が僕に差し出された。
(え……?)
受付嬢さんは、
「トウヤマ様の個人情報と魔力紋を登録しました。こちらは、冒険者の身分証となる『登録魔刻石』になります」
「まこくせき?」
「はい」
彼女は頷き、説明してくれる。
魔力紋は、個人個人、違うらしく、本人証明になるとか。
個人情報と魔力紋を紐づけ、僕個人の身分証となる。
また、登録された情報は、冒険者ギルドと魔刻石に保存され、依頼の受注時などに随時、更新されていく。
例えば、クエストの成功、失敗の数も記録される。
(なるほど)
結構、凄い技術。
ちょっと驚いてしまった。
僕は、隣の金髪の女冒険者さんを見る。
「これ、クレフィーンさんも持ってるんですか?」
「ええ、もちろん」
彼女は頷き、
チャラッ
鎧の胸元から、首に提げられた『登録魔刻石』を取り出した。
銀色の石。
僕のは、無色透明。
(……あれ?)
すると、
「これは……白銀級の方でしたか」
と、受付嬢さんが驚いた。
ん、白銀級?
金髪の女冒険者さんは、穏やかに微笑む。
胸元に石をしまいながら、
「冒険者の登録魔刻石の色は、その人物の冒険者ランクも表しているんです」
「ランクを?」
「ええ、ランクは7等級ありまして」
と、説明。
更に詳しく聞けば、下から、無真級、赤火級、青水級、森緑級、紅紫級、白銀級、煌金級の7段階だとか。
(え……?)
僕は、目の前の美女を見る。
「上から2番目?」
「はい」
彼女は認める。
ひぇ……。
もしかして、このお母様、凄い冒険者でしたか?
驚く僕に、
「それと、この7段階の上に、実は『黒神級』と呼ばれる特別な冒険者ランクもあります」
「特別……?」
「はい、国家戦力級の実力があると認められた冒険者です」
「…………」
「歴史上で7人。現在は、世界に1人だけですが……ある意味、各国の王侯貴族よりも権力がある存在ですね」
(ほへぇ……)
もう、雲の上の話っぽい。
受付嬢さんも苦笑しながら「そうですね」と認めている。
ま、まぁ、いいや。
パン
両手で軽く頬を叩く。
気持ちを切り替え、
「僕は、僕でがんばります」
と、言った。
クレフィーンさんも受付嬢さんも、優しい表情で頷く。
僕は、自分の魔刻石を見る。
無色透明な石。
ヒィン
【登録魔刻石】
・桐山真一の所持物。
・桐山真一が冒険者である証。現在は、無真級。
・出来立ての新品。
(うん)
冒険者の証。
僕が……冒険者になった証だ。
ギュッ
思わず、握り締める。
と、その時、
クイ クイ
僕の服の裾が引っ張られ、見れば、金髪の幼女が僕を見上げていた。
(ん……?)
そんな僕に、
「と、登録、お、おめでと……シンイチお兄様」
と、天使のはにかみ。
(お、お兄様……?)
ぐあ……!
純真無垢な祝福が、胸に刺さる。
なんか、泣きそう。
それを堪え、
「うん、ありがとう、ファナちゃん」
僕は、天使の髪を撫でた。
彼女は、少し赤くなる。
目を細め、逃げもしない彼女は、本当に可愛くて。
……よし。
(これから、がんばるぞ!)
と、僕は心に誓う。
こうして、僕、桐山真一は、異世界で本物の『冒険者』になったのだ。