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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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086・亜人差別の悪意

 僕らは、天幕を出る。


 外では女性の管理局員が待っていて、今夜、僕らが泊まる天幕まで案内してくれることになった。


「どうぞ、こちらへ」


「ありがとう」


 微笑む、アルタミナさん。


 端正な美貌が王子様のように爽やかに笑うと、女管理局員さんはポッと赤くなった。


(はいはい)


 さすが、黒獅子公ですね。


 僕は半分唖然、半分達観です。


 慣れているのかレイアさんは興味なさそうで、クレフィーンさんは僕と目が合い、一緒に苦笑する。


 ね~?


 あと、ちなみに、


「あの、皆さん、一緒の天幕で大丈夫ですか?」


 と、確認された。


 女性の管理局員さんは、僕を見ている。


(ん?)


 クレフィーンさんが微笑み、


「はい、大丈夫ですよ。この子とは、これまでも寝食を共にしていますので問題ありません」


「…………」


 あ、そうか。


 僕、男。


 3人は、女の人。


 その辺、すっかり忘れてました。


 アルタミナさんは悪戯っぽく、僕に言う。


「襲ってもいいよ?」


「…………」


 いや、あのね……?


 僕は呆れ、


「その時は、きちんと返り討ちにするわ」


 と、レイアさんも笑う。


(いや、しませんから)


 2人とも酷いや。


 ま、冗談だってわかってるけどさ~。


 なのに、


「もう、2人とも? シンイチ君みたいな若い子が、私たちみたいなおばさんを襲う訳ないでしょう?」


「…………。フィンさ?」


「……貴方ね」


 無自覚なお母様に、2人は非難の目だ。


(うむ)


 僕も言う。


「いや、わかりませんよ?」


「え?」


「わかりませんよ?」


「…………」


「…………」


「そ、そうですか」


「はい」


 何だかお母様は焦ったような、恥ずかしそうな表情になる。


 白い美貌が、ほんのり赤い。


 友人2人は、なんか頷いている。


 そんな僕らのやり取りに、女性の管理局員さんだけが困惑の表情だった。


(あはは、すみません)


 と、雑談もしながら、僕らは拠点の仮設基地内を歩く。


 並んだ天幕の間を進んでいくと、拠点にいる管理局員や王国兵が出てきて集まり、僕らのことを眺めだした。


(…………)


 凄い注目度。


 やはり、煌金級のいる冒険者クランだからかな。


 彼や彼女たちの視線には、関心、興味、敬意などの感情が感じられた。


 チラッ


 隣の3人を見る。


 慣れているのか、女冒険者たちは気にした様子もない。


 堂々としてる。


(うん)


 僕も笑い、その頼もしい背中に倣う。


 と、その時、



「――けっ。亜人共が調子に乗りやがってよ」



 そんな嫌な声が聞こえた。


(ん……?)


 おいおい……今、何つった?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕は、声の聞こえた方を見る。


 離れた場所にある天幕の横で、3人の王国兵が嫌悪の滲んだ視線でこちらを見ていた。


(アイツらか?)


 キッ


 僕は、奴らを睨む。


 亜人とは、エルフや獣人のこと。


 つまり今のは、アルタミナさん、レイアさんに対する悪意のある差別的発言だ。


 しかも、大きな声だった。


 当然、2人の耳にも届いている。


 だからか、女性の管理局員さんは慌てており、3人のそばにいた王国兵や管理局員も「おい!」とか「馬鹿、何言ってんだ!?」と彼らの行為を止めようとしていた。


 でも、


「はっ、人間の出来損ないどもが」


「獣臭ぇ野郎と高慢な耳長どもが、人間の世界に来るんじゃねえよ」


「全くだぜ」


 と、言葉が止まらない。


 さすがに温厚なクレフィーンお母様も、その美貌をしかめている。


 でも、亜人種の2人は、平然とした顔。


 いや、無表情だ。


(……何で?)


 僕の視線に、彼女たちも気づく。


 アルタミナさんはパタリと尻尾を揺らし、苦笑しながら自分の獅子の耳を触る。


 そして、僕に言う。


「彼らは、北部出身なんだ」


「ま、たまにあることよ」


 赤毛の髪を手で払い、レイアさんも肩を竦める。


(北部? たまにある?)


 どういうこと?


 困惑する僕。


 すると、


 ヒィン


 真眼が、空中に文字を表示した。




【北部とは?】


・王国の北部のこと。


・アーク大陸の北半分では、人間至上主義の風潮が強く、亜人種との紛争が絶えない。


・アークレイン王国は平等主義である。


・だが、北に隣接する国では亜人差別があり、紛争避難民として王国民となった王国北部出身の人々には、一定数、亜人を嫌悪する考えが存在する。





(…………)


 何それ?


 そんな差別があるの、この世界?


 異世界の定番だけど……実際に体験すると、本当に嫌な気分だ。


 グッ


 僕は唇を噛む。


 アルタミナさんは優しい表情で、


「気にしない、気にしない」


 ポンポン


 と、自分が傷ついているはずなのに、僕を慰めるように僕の頭を軽く叩いてくれる。


 レイアさんも「そうよ」と頷く。


 クレフィーンさんは、何とも言えない顔だ。


 亜人差別主義の3人の王国兵は、周りに止められながらも、まだ何かを言っている。


 …………。


 僕は、大きく息を吐く。


 顔を上げ、



「――もしかして、羨ましいんですか?」



 と、馬鹿3人に向け、大声で言った。


 その場の全員が、驚いたように僕を見る。


 僕は構わず、言う。


「こんな亜人や人間の美人たちに囲まれる僕が羨ましいからって、男の嫉妬はみっともないですよ? だから、お3人さんはモテないんですよ~」


 ニヤ~


 と、馬鹿にするように笑ってやった。


 馬鹿3人は、唖然。


 すぐに「何だと!?」と真っ赤になる。


 僕の隣の亜人種の美女2人も、


「シ、シンイチ君?」


「ちょっと、シンイチ」


 と、困惑した表情だ。


 でも、僕は態度を変えない。


 そんな僕に向け、3人の男たちは怒鳴ってくる。


「餓鬼が! 何も知らねぇ癖によ!」


「亜人どもがどんなに残忍か、俺の家族がどう殺されたか、その俺らの気持ちがテメェにわかんのか!?」 


「ふざけんじゃねぇ!」


 と、激昂。


(……家族が)


 そうか。


 少しだけ同情する。


 だけど、


「知らないよ」


 僕は、表情を消して答えた。


 彼らを真っ直ぐ見つめ、


「でも、知ってることもある。ここにいる2人が、貴方たちの家族を害した亜人とは別人だってことは」


「は……?」


「テメェ……」


「だから、何だ!? 亜人は悪だ、存在そのものがな!」


「そう?」


 僕は黒い目を細める。


 3人を見つめながら、全員に聞こえるように言う。


「見た目で分かるように、僕は、この国の人間じゃない」


 黒髪、黒目。


 顔立ちも違う。


 王国人から見たら、明らかな外国人。


 だから、


「で、そんな僕は先日、この王国の人間の野盗に襲われたんだ。なら、僕はこの場にいる王国の人全員を悪だとして、祖国でこの国の人間は虐げていい存在だと言うべきなの?」


 と、聞いた。


 3人が表情を歪めた。


 いや、この場の王国の人全員が言葉に詰まる。


 ジッ


 僕は3人を見据え、



「それは違う――そんなの、子供の僕でもわかるよ」



 と、言葉を重ねた。


 家族を失った悲しみ、苦しみ、それはとても辛いことと思う。


 でも、今の3人の行動は、そのやり切れない感情の捌け口が欲しくて、それらしい理由があって、けれど、本当は無関係の相手に理不尽にぶつけただけ。


 ぶっちゃけ、ただの八つ当たりでしかないんだ。


 気持ちはわかる。


 でも、


(絶対に、僕は認めない)


 そんな悲しいことは。


 なぜだろう?


 拠点内は静寂に包まれ、皆が不思議と僕の声に耳を傾けている。


 僕は、息を吐く。


「これ以上は、言わない」


(でも)


 顔を上げ、亜人の美女2人を振り返る。


 2人は、なぜか息を飲む。


 僕は笑う。


 それから周りを見て、


「だけど、1つだけ……その僕が野盗に襲われた時に、王国人のこの亜人の2人が助けてくれたことだけは伝えておくよ」


 と、全員に聞こえるように言った。


 亜人の美女2人は


「シンイチ君……」


「シンイチ……貴方……」


 と、僕を見つめる。


 それ以外の皆が黙っている。


 亜人差別主義の3人は悔しげな、でも、どこか苦しげな表情で僕から顔を逸らし、ガッと地面を蹴ると、何かから逃げるように天幕の奥に消えてしまう。


(…………)


 改心とか知らん。


 人の考えなんて、そう簡単に変わらないだろうし、興味もない。


 でも、譲れないものもある。


 だから、


(言いたいことは言ったぞ!)


 と、僕は、自分に胸を張る。


 そんな僕を、


「シンイチ君」


 ギュッ


 突然、クレフィーンお母様が大きなお胸で挟むように抱き締めてくる。


(お、おお?)


 だ、弾力が……!?


 両頬が柔らかくて、温かくて、堪らないんだが?


 そんな固まる僕の耳に、


「ああ、貴方はもう、本当に……」


「え、え?」


「ありがとう、そんな風にアルとレイアのために怒ってくれて……。2人の友人として本当に嬉しく思いますよ」


「えと、あの、うん」


 愛情深い声に、僕も頷く。


 見たら、女性の管理局員さんや他の人からも好意的な視線が向けられていた。


(え、何?)


 なんか、照れ臭いんだけど?


 すると、


 ペシッ


(あたっ?)


 突然、お母様に抱かれる僕の後頭部が、軽くはたかれた。


 振り返ると、


(レイアさん?)


 彼女は、不機嫌そうに唇を尖らせている。


「馬鹿ね」


「え?」


「余計な恨みを買うようなこと、しないの。私たちは大丈夫だから」


「…………」


「でも……ま、ありがと」


 と、そっぽを向く。


 頬が赤くて……え、ツンデレですか?


 今、デレました?


 僕は、レイアさんの珍しい姿に目を丸くしちゃう。


 と、今度は、


「くくくっ」


 と、アルタミナさんが喉の奥で笑い声を漏らしだす。


(え、何?)


 急に怖い。


 金色の瞳が僕を見つめ、


「君は本当に凄いね」


「?」


「ああ、困ったな。何だか、フィンに渡したくなくなってきたよ」


「えと……?」


「ふふっ、ありがとう、シンイチ君。今度、お礼に私の耳や尻尾を思う存分、触らせてあげるからね?」


「あ、はい!」


(やった~!)


 理由はよくわからないけど触らせてもらえるのなら、遠慮なく触るぞ。


 モフモフ、楽しみ♪


 でも、そんな喜ぶ僕の一方で、クレフィーンお母様の青い瞳は、少し意外そうに友人2人を見つめている。


 やがて、息を吐き、


「なるほど、そうですか……」


 と、少し困ったように微笑みながら呟いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは再び案内され、宿泊用の天幕に辿り着く。


 案内してくれた女性の管理局員さんは、何だか最初より柔らかな笑顔を僕らに向け、


「ごゆっくり」


 と、深々お辞儀をして去っていった。


(???)


 何だろう?


 よくわからないけど……ま、いいか。


 天幕内を見る。


 そこそこの広さで、中央の支柱に照明がかけられ、簡易ベッドが4台並んでいる。


 ベッドの足元には、荷物用の木箱がある。


 僕らは、武器や鎧、外套などの装備を外し、木箱に入れる。


(さて、寝るか)


 と思ったら、


 ガタガタ


 アルタミナさんが簡易ベッドを動かし、僕のベッドの横にくっつけた。


 え……?


「アル?」


「何してるのよ、貴方」


 と、友人2人も驚く。


 でも、黒髪の美女は楽しそうに笑い、


「今日は、シンイチ君のそばで寝たくてね。2人もどうだい?」


「…………」


「…………」


「…………」


 僕らは唖然。


 だけど、長い金髪を揺らして、クレフィーンさんが頷く。


「そうですね」


(え?)


「ちょっと、フィンまで?」


 僕とレイアさんは目を丸くし、けれど、アルタミナさんは満足そうに笑う。


 何で……?


 と、今度は、


「はぁ、仕方ないわね」


 僕の横で、赤毛のエルフさんも嘆息する。


 ガタン ガタガタ


 3人の美女は4台分の簡易ベッドをくっつけ、1つの大きなベッドにしてしまった。


(…………)


 WHY?


 僕だけ、理解不能です。


 でも、3人はあっという間にベットに横になる。


 そして、


「さぁ、シンイチ君も」


 グイッ


 と、金髪のお母様に手首を引っ張られた。


(わっ?)


 ポフッ


 女冒険者の力の強さに驚きつつ、僕は、彼女の横のシーツに倒れ込む。


 目の前には、白い美貌。


 僕の胸に、彼女の大きな乳房が当たり、柔らかく潰れている。


 と、今度は、


 ペタッ


 僕の太ももにアルタミナさんの長い足が絡み、細長い尻尾も巻き付く。


「ふふっ」


 彼女は、王子ではなく淫靡な小悪魔みたいに笑う。


 ゾクゾク


 なんか、背筋が震える。


 僕の左右に、クレフィーンさんとアルタミナさんが寝ている。


 そして、


「ま、気にせず寝なさい」


 ギシッ


 3人の頭の上に、横になるレイアさん。


 白い指が、僕のおでこにかかる前髪を軽くいじり、横へと払ったりする。


 いつもと違う、優しい表情。


(…………)


 3人の美女の包囲網。


 逃げ場なし。


 いや、逃げないけど……。


 でも、大人な彼女たちの温もりや甘やかな匂いに、頭の芯が痺れていく感じがする。


(うん、いいや)


 もう深く考えない。


 明日は、クエスト当日だし、とにかく休もう。


 僕は頷き、


「おやすみなさい、皆さん」


 と、言う。


 目の前でクレフィーンさんが甘く笑い、


「はい、シンイチ君。おやすみなさい」


 と、青い瞳を細めながら、嬉しそうに返事をしてくれる。


 続けて、


「うん、おやすみ、また明日だよ」


「おやすみ、シンイチ」


 背後と頭上から、アルタミナさん、レイアさんの声も響く。


 美声の三重奏。


 実に贅沢で、心地好い。


 僕も笑い、目を閉じる。


(……うん)


 暗闇の中でも感じる3人の気配と存在に、妙に安心してしまう。


 なんか、幼子の気分。


 僕は力を抜き……。


 やがて、美女たちの息遣いと温もりを味わいながら、やがて、ゆっくりと眠りに落ちていったんだ。

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― 新着の感想 ―
こんなん言ったの見かけちゃったら一緒に寝たくなっちゃうよね。
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