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008・こ、これが冒険者ギルド!

 金髪の母娘と僕は、町の大通りを歩く。


 行き交うたくさんの人々、そして、並んだ異世界の商店が見える。


(何のお店なんだろう?)


 と思ったら、


 ヒィン


 お……?


 ヒィィイ……ン




【アンドレ武具店】【エレノアの防具店】【奇跡の魔法薬店】【薬師の家】【慈母神マトゥ教会】【町立孤児院】【商業ギルド支部】【石版販売店】【民家】【レストラン】【春風の喫茶店】【ハミレ雑貨店】【蜂蜜パン工房】【民家】【食料品店の倉庫】【八百屋】【鮮魚店】【郵便ギルド】【町民館】【町長の屋敷】【湖の宝石店】【旅人専用の衣服店】【旅人専用の道具屋】【馬車ギルド】【木工工房】【警邏隊第7詰所】……




 おおお……!?


(目、目が、目がぁ……!)


 情報過多。


 あまりの文字量に眩暈がした。


 慌てて『消えろ』と念じながら、瞬き2回……視界を埋めていた文字列が消える。


 ふ、ふぅ……。


 安堵の吐息がこぼれる。


 と、


「シンイチ君?」


 僕の様子に気づいた金髪の美女が僕を見る。


 天使な娘さんも、少し心配そうにこちらを見上げていた。


(あ……)


 僕は慌てて、


「ごめん、大丈夫です。ちょっと人の多さに酔っちゃって……」


「……そうですか」


「うん」


 作り笑顔で誤魔化す。


 クレフィーンさんは少し怪訝な顔をしていたけど、深くは突っ込まなかった。


 幼女の方は、


 ジッ


 まだ僕を見ている。


「無理……しないでね?」


 と、小声で一言。


 て、天使!


 僕は「うん、ありがとう」と笑って、その頭を撫でてあげた。


 彼女は、少し赤くなる。


 うん、ほっこり。


 …………。


 しかし、情報が見え過ぎるのも問題だな。


 ズキズキ


 脳に負荷がかかったのか、少し頭が痛い。


 軽くこめかみを揉みながら、


(便利な『真眼』だけど、必要以上に視ないように制御して、使いこなさないとだなぁ)


 と、今後を考える僕だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 10分ほど、大通りを歩く。


 やがて、


 ピタッ


 金髪の女冒険者さんの足が止まった。


 目の前には、3階建ての三角屋根の大きな建物があった。


 大通りに面した物件で、他の建物よりも大きく、出入り口からは武装した人々が頻繁に行き来している。


(もしや……?)


 僕は慎重に『真眼』を使う。


 ヒィン




【クレタの冒険者ギルド】


・冒険者ギルドの支店の1つ。


・クレタの町の冒険者の管理、サポートの運営を行う。


・現在、ギルド職員25人、冒険者42人が在籍している。




 やっぱりだ。


(ここが異世界の定番、冒険者の活動拠点!)


 凄い、本物じゃん。


 クレフィーンさんが微笑み、


「ここが、クレタの冒険者ギルドです。さあ、中に入りましょう」


「あ、うん!」


 僕は、大きく頷く。


 ワクワク


 期待と共に、僕は母娘と扉を開け、建物の入り口を潜ったんだ。


 …………。


 おお……!


 中は、かなり広かった。


 多分、僕の中学時代の体育館ぐらいの広さがあった。


 1階フロアは、入り口正面に総合受付があって、受付嬢さんが2人座っている。

 

 奥の方にも、カウンター受付が3つ。


 あっちは、冒険者用かな?


 武装した人たちが何人か並んでいる。


 入り口右に階段があり、2階フロアに依頼者用の受付が別にあるみたいだった。


(あ……)


 右奥の壁に、掲示板がある。


 何十枚も紙が貼られ、冒険者たちがその前に集まっている。


 あれは、


(依頼書の貼られた掲示板!)


 本当にあるんだ?


 凄い。


 ギルドの定番、本物だ。


 あとでどんな依頼があるのか、見てみよう。


 また1階フロアの左側は、机と椅子が並んだ待合場所みたいで、何組かの冒険者が談笑していた。


 併設して、軽食やお茶を提供する売店もある。 


 ここで、冒険の相談とかするのかな?


 更に奥には、魔物や採取素材の鑑定、買取のための受付と別室への入口もあった。


(ふ~む)


 荒くれ者の集まるイメージとは、全然違う。


 むしろ、普通の企業って感じ。


 想像と少し違ったけど、でも、いい意味での驚きだった。


 見ていると、


「シンイチ君」


「ん?」


「すみませんが、待ち合わせの知人が来ているか、登録の前に先に確認して来てもよろしいですか?」


 と訊く、金髪の女冒険者さん。


(あ、うん)


 もちろん構わない。


 僕は笑って、


「はい、大丈夫です」


「ありがとう。では、ファナと一緒にあちらで待っていてくださいね」


「うん、わかりました」


「ファナ、いい子にしてるんですよ?」


「ん」


 コクッ


 おかっぱの金髪を揺らし、頷く幼女。


 お母様は微笑み、その頭を撫でる。


 娘さんは、気持ち良さそうに目を細める……なんか、猫みたい。


 そして、


「では」


 女冒険者さんは1人、総合受付の方へ。


 僕とファナちゃんも待合場所の方に移動すると、適当な空席に座った。


 しばし、待機。


 そんな僕の横を、


 ガシャ ガシャ


 全身鎧と大剣を装備した大柄な戦士が歩いていく。


 その後ろには、杖を持った魔法使いらしい老人と僧侶らしい女の人が続く。


(…………)


 なんか、存在感が凄い。


 本物のプロスポーツ選手を間近で見たような、独特の迫力があった。


 これが、冒険者。


 そして、そういう人たちが集まるのが、この冒険者ギルド。


 ……浪漫だねぇ。


 漫画やラノベの世界が今、現実に目の前に存在している――その事実が、僕は嬉しかった。


 そんな僕を、


 チラッ チラッ


(ん……?)


 ファナちゃんが、時々、覗き見ていた。


 目が合う。


 何となく、ニコッと笑うと、


「あ……」


 恥ずかしそうに俯いてしまった。


(うむ、可愛い) 


 そうして天使な幼女を愛でながら、待つこと5分……天使の母が戻ってきた。


 彼女は微笑み、


「お待たせしました」


 と、娘の隣の椅子に座る。


 ファナちゃんは「お母様」と嬉しそう。 


 僕も「おかえりなさい」と言い、


「待ち合わせの知人さんは、どうでした?」


 と、聞いた。


 彼女は、首を横に振る。


 動きに合わせ、綺麗な金色の髪もサラサラと揺れて、


「まだ来ていませんでした」


「ありゃ?」


「彼女たちは王都方面から来る予定でしたが、長雨の影響で乗合馬車の運行が遅れているようで……到着は明日になるそうです」


「そうなんですね」


 僕は、頷く。


 クレフィーンさんも、少し残念そう。


 でも、


(彼女たち……か)


「待ち合わせの知人さんって、複数なんですか?」


 と、聞いてみる。


 金髪の女冒険者さんは頷いた。


「ええ、2人です」


「2人」


「はい。どちらも女性で、昔は、彼女たちとパーティーを組んで、私も王都を中心に冒険者活動をしていたんですよ」


「へぇ……?」


「ですが、10年前、結婚と妊娠を機に、私だけ王都を離れ、南の暖かい地域で夫と娘と3人で暮らすようになりまして……」


「…………」


「ただ、移住2年目に夫が亡くなってしまって」


 あ……。


 凄く悲しそうな表情。


 ズキッ


 思わず、こちらの胸も痛む。


 天使な娘さんが「お母様……」と、母の手を握る。


 それに、クレフィーンさんは微笑む。


 僕を見て、


「それ以来、ファナと暮らしながら、今回のように、たまに彼女たちの仕事を手伝ったりしているんです」


 と、穏やかな口調で言った。


 僕は「そうですか」と頷く。


 同時に、改めて、


(……未亡人さんなんだよな、彼女)


 と、思い知る。


 まだ15年しか生きていない僕には、上手い言葉が思いつかない。


 少し悔しく、情けない……。


 そんな僕を、クレフィーンさんは見つめる。


 やがて、優しく笑い、


「さて……では、そういうことなので、シンイチ君の冒険者登録をしましょうか?」


 と、椅子から立ち上がった。


(あ……)


 そうでした。


 僕も「はい、お願いします」と席を立つ。


 ファナちゃんも椅子から降り、


 ピトッ


 お母様に寄り添う。


 娘の頭を軽く撫で、


「では、行きましょう、シンイチ君」


「うん」


 僕は頷く。


 冒険者登録をするため、3人で総合受付へと向かったんだ。

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