078・美人先生方の魔法習得観
(――あ、あった)
僕は、目的の石板を発見した。
不死霊の奇跡――1日1回、どんな怪我も治せる古代魔法の宿った石板だ。
――クレイブマン石板販売店を出たあと、僕らは『真眼』の案内を頼りに、この石板のある場所まで移動していた。
辿り着いたのは、都市部から外れた商店。
店構えを見た時、
(え……物置小屋?)
と、思っちゃいました。
それぐらい小さいし、汚いし、壁の一部が壊れてるし……正直、商店かも怪しい感じだった。
3人の美女も、唖然。
「本当にここかい?」
と、アルタミナさんにも疑いの表情で確認されたぐらい。
聞いた所、ここはいわゆる貧民も多い区画で、この商店も恐らく商業ギルドに未登録の非合法店だろう……とのこと。
(非合法かぁ)
うん、あまり関わりたくないね。
店内に入ると、中はかなり狭い。
奥のカウンターで、葉巻をくゆらせる怪しげな風体のおじさんが1人、座っている。
(う~む)
厳つい顔や体格、醸し出す雰囲気は、明らかに裏家業の人っぽい。
眼光の鋭いおじさんは、
ジロッ
僕ら4人を威嚇するように睨んでくる。
1人なら怖かったかも……。
けど、一緒にいる凄腕の女冒険者たちは平然としていて、その存在に僕もなんか安心してしまう。
大人な美女3人の護衛付き。
(……えへへ)
なんか、贅沢だね。
で、僕は平常心のまま周囲を見る。
店内の陳列棚には、一応、石板が並んでいる。
ふむ?
見てみると、
ヒィン
【偽物の石板】
・素人が作った偽の石板。
・その辺の石を砕き、適当な文字を刻み、色付けした物である。
(ぬお……)
店内の商品、ほぼそれです。
それ以外も、皆、壊れた石板ばかり。
僕は、唖然。
だけど、その中に1つだけ、
ヒィン
【不死霊の奇跡】
・回復の魔法。
・1日1回、即死以外なら、どのような肉体損傷でも回復できる。
・病気には無効。
・回復力、500。
(――あ、あった)
と、本物の石板があり、それが僕の求めた『不死霊の奇跡』の石板だった。
見た目は、三角形の石板。
赤と黄色の2色の文字列。
結構、放置されていたのか、埃を被って灰色になっている。
もちろん、即、購入だ。
怪しい店なので登録魔刻石は使わず、アルタミナさんにお金を借りて、現金でお支払い。
ちなみに値札は、
(2000リド……20万円か)
安い。
なるほど、安値で客を引き寄せ、偽物を売る手口かな。
でも、これ、本物なのにね?
ということで、
「これ、ください」
チャリン
と、無事に手に入れた。
受け渡しの時、あくどい顔のおじさんに、
「商品を渡したら、何があろうと、うちじゃ一切の返金はできねえ。あとから文句は聞かねえぞ、わかったな?」
と、低い声で凄まれた。
(あ、うん)
あとで、偽物だったと知られた時の苦情を封じてる感じですかね?
僕は頷き、
「はい、もちろん」
と、笑顔で答えた。
僕の明るい反応に、おじさんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
なぜか、気味悪そうに僕を見る。
何で……?
そして、僕の後ろでは、3人の美女が横を向き、必死に笑いを堪えていたりする。
(???)
よくわからんけど、店出るまで我慢して?
で、石板を手に退店。
パタン
詐欺店の木製の扉が閉まる。
無言のまま、しばらく路上を進む。
歩きながら、4人で何となく顔を見合わせ、
プッ
と、誰かが吹き出し、そのあと思わず全員で声を出して笑ってしまったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
買い物のあとは、大通りに戻る。
近くの広場に時計塔があり、見れば、針は午後1時半ぐらいを差していた。
アルタミナさんは時計塔を見つめ、
パタ パタ
お尻から生える黒毛の細い尻尾が左右に揺れる。
彼女は、僕らを振り返り、
「よし、お昼を食べてからクランハウスに帰ろうか?」
と、笑顔で提案した。
(あ、うん)
僕も少しお腹が空いてきた所。
「いいですね」
と、僕も笑う。
友人2人も賛同して、全員で近くの喫茶店に入った。
カラン カラン
ドアベルを鳴らしながら、店内へ。
(へ~?)
お洒落なお店。
賑やかな王都にありながら、店内は落ち着いた雰囲気だった。
コーヒーのような香りがふんわりする。
客の人数はそこそこいるけど、皆、静か。
本を読みながら飲み物を飲んでいる人や、カップルが食事をしながら小声で談笑したりしている。
(うん、なんかいいね)
こういう空気、僕は好き。
僕ら4人は、店員さんの案内で窓際のテーブル席へ。
大きなガラス窓の向こうには、たくさんの人々が行き交う通りと混雑する車道が見えていて、何だか店内とはガラス1枚隔てた別世界みたいだった。
注文し、のんびり待つ。
10分ほどで、パンケーキやベーコンエッグとサラダ、紅茶などの軽食が届く。
いただきます、と食事。
(うん!)
美味しいや。
さすが、王都に店を構えるだけあって、味もよし。
僕らは笑顔で食事をしながら、今日の買い物についてを話したりする。
僕の目の便利さや、5枠の魔法構成のパターン、よく買い替える石板の種類など、話題は多岐に渡り、やがて、僕はこんな質問をした。
目の前の3人の美女に、
「『身体強化』と『回復』の魔法は、なぜ全員が覚えているんですか?」
と、問いを投げかける。
彼女たちはキョトンと僕を見る。
(だってさ?)
パーティーとして動くなら、4人の内1人が覚えて、全員にかけてあげればいいじゃないか。
その方が魔法枠の節約にもなるしさ。
でも、僕らは1人ずつ、全員が『身体強化』と『回復』を使える(僕は、まだ石板購入しただけだけど)。
それを、
(なんで?)
と、少し疑問に思ったのだ。
3人の美女は顔を見合わせ、そして、楽しげに笑う。
金髪のお母様が、
「そうですね、いい点に気がつきました」
と、褒めてくれる。
その優しい表情は、まさに美人な女先生っぽくて。
赤毛のレイアさんも頷き、
「まぁ、お金がない新人や、クエスト難度の低い低ランクの冒険者の内はそれでもいいんでしょうね」
などと言う。
(ふむ……?)
つまり、高ランクの冒険者、難易度が高いクエストでは全員が覚えた方がいいってこと?
要するに、
「じゃあ、全員が使えないと危険なんですね?」
と、理解する。
3人は笑って頷く。
黒髪の美女が言う。
「そうだね。そして、危険の主な原因はね。現状、身体強化と回復の魔法は、接触発動型しか存在しないからなんだよ」
「接触、発動……」
僕は驚く。
(つまり、対象に触れないと発動できない……?)
思い出せば……うん。
確かに、クレフィーンさんやレイアさんが僕に魔法をかける時は、僕の身体に触れてたかも。
思い出す僕に、彼女は頷き、
「そう。だから、例えば戦闘時に身体強化が切れたら、もし1人しか覚えていない場合、かけ直してもらうために仲間の元へ移動する手間がかかる。そして、その分のリスクを負うんだよ」
「リスク……」
「うん。だってその間、前衛が減るか、あるいは後衛が前線に上がる必要が出てくるんだから。そうして戦力バランスの乱れた時ほど、事実として、死亡率も高いんだよ」
「…………」
なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。
……あれ?
でも、待てよ?
(身体強化の魔法は、約3時間持続するはず)
僕は言う。
「あの、戦闘の直前に魔法をかければ、そうそう効果が切れることはないんじゃ……?」
「そうだね。でも、探索中はいつ戦闘が始まるかわからない。敵も馬鹿じゃないから不意打ちもするし、夜襲もするし、擬態が得意な魔物もいる。事前にわかっていることは少ないんだよ」
「あ……」
「だから、強化は常にかけるのが基本」
「はい」
「それに、私とレイアは50時間、戦闘を継続する状況に陥ったこともあるしね」
「50時間!?」
え、2日間以上?
戦いっぱなしなの?
(そんなこともあるのか)
僕は茫然。
赤毛のレイアさんは遠くを見て、「あの時は大変だったわね」と思い出したくなさそうに呟く。
ひぇぇ……。
金髪のクレフィーンさんも「まぁ」と驚いている。
アルタミナさんは苦笑する。
それから、
「それ以外にも、こちらの強化を打ち消す魔法を使う厄介な敵もいたりするしね。だから、私はかけ直しできることは必須だと思っているのさ」
「そんな敵も……」
「うん、いるんだよ」
「…………」
「回復も、同じ理由で1人1人が覚えていた方がいいと思ってる」
「はい」
「探索中、何らかの理由で、もし1人になった状況でも充分生き残れるような魔法構成は大事だよ。そして、各人のかけ直し中には、できる限りサポートするのも仲間の役目だね」
ニコッ
僕に向けて、彼女は朗らかに笑う。
でも、その金色の眼には王国トップの冒険者としての自信と自負が見えた。
(なるほどなぁ)
1人1人が自立しながらも、協力して戦う。
それが、彼女の思い描く冒険者。
クラン『月輪の花』の戦闘方針なのかもしれない。
だからこそ、身体強化と回復の魔法は、3人とも全員が覚えるようにしているのか。
(――うん)
僕も理解し、頷いた。
と、クレフィーンさんが優しく微笑み、言う。
「とは言え、シンイチ君はまだ新人ですから。あまり力まず、私が色々と教えてあげますので、ゆっくり私たちのやり方に慣れていってくださいね」
「あ、はい」
僕は素直に従う。
それに、お母様は笑みを深くし、
「ふふっ、よしよし」
物分かりの良い子供を褒めるように、僕の頭を撫でてくれた。
(ふぁ……!?)
ドキン
突然のスキンシップに、鼓動が跳ねる。
相変わらずの彼女に、眉を寄せたレイアさんが「フィン」と窘め、お母様も「あら、ごめんなさい」と気づき、手を引くと少し恥ずかしそうにはにかむ。
(い、いいえ~)
ドキドキするけど、嬉しいのも本当。
大人な美女によしよしされて、嫌な奴……いるの?
アルタミナさんは、
「君たちは本当、仲良しだね」
と、楽しそうに言う。
僕とクレフィーンさんは顔を見合わせ、互いほんのり頬が赤くなった。
長い耳の美人さんは、軽く肩を竦める。
と――まぁ、そんな感じで、食事も終わり。
やがて、会計を済ませ、喫茶店をあとにすると、僕ら4人は大通りを歩いてクランハウスへの帰路に就いたんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
なんと本日、ブクマが100件を超えていました!(更新時)
こんなに大勢の方に読んで頂けて、本当に嬉しいです。
改めまして、今日までにブクマ、星の評価などをして下さった皆様、本当にありがとうございます♪
もしよかったら、どうかこれからも真一達の物語をゆっくりと楽しんで下さいね♪




