076・適合する魔法石板を見つけよ!
(――お願い、真眼君)
僕は目に集中し、
ヒィン
五角形に並ぶ陳列棚を1面ずつ見ていく。
1面目……文字なし。
2面目……文字なし。
3面目……4面目も、文字はなし。
(く……っ)
200個あっても、適合する石板は1つもないのか?
そして、
(これが最後……!)
5面目の陳列棚を見て、
ヒィン
【王霊の盾】
・魔力の盾を生み出す魔法。
・高密度の魔力障壁を創り、物理、魔力の攻撃を5秒間、完全に遮断する。
・防御力、250。
・桐山真一の魔力紋と適合している。習得、可。
お……。
おおお……!
(ほ、本当にあった!)
これか?
この20センチ×10センチぐらいの長方形の石板、これがそうなのか!?
端は、少し欠けている。
でも、魔法文字の羅列は無傷。
文字自体は、鮮やかな青色でとても綺麗だった。
ドキドキ
鼓動が早くなる。
凝視する僕に、
「……シンイチ君?」
クレフィーンお母様が確かめるように聞いてきた。
友人2人も、僕を見ている。
彼女たちを振り返り、
(――うん)
僕は頷いた。
この場には支配人さんもいるので3人は何も言わず、ただ小さく微笑み、頷きを返してくれた。
よし、買おう。
でも、値札がない。
え~と、
「あの、これ、いくらしますか?」
と、素直に聞く。
3代目クレイブマンのおじ様は、僕の言葉に上品に微笑む。
石板を見て、
「こちら、3年前、リドラ森林奥地の遺跡で発掘された石板ですね。まだ未解明の魔法式が刻まれた石板ですので、現在は7000リドになります」
「7000……」
約70万円。
高い。
(50万円じゃないのか)
う~ん、高級店だしなぁ。
相場より、若干、高いのかもしれない。
でも、買えない額じゃない。
僕は頷き、
「じゃあ、これ――」
買います……と言いかけ、
(……待てよ?)
ふと、思い留まった。
少し考える。
支配人さんの微笑みは変わらず、3人の美女は、少し怪訝そうに僕を見る。
ここは、王都だ。
王都には、たくさんの店がある。
当然、魔法石板を売るお店も複数存在しているだろう。
なら、もしかしたら、他のお店にも同じように僕と適合する魔法石板があるかもしれない。
それが、もし複数存在してたら?
(おお……)
げ、厳選しなきゃ!
だって、お金も魔法回路の枠も有限だしね。
もちろん、全部の石板店を見て回ることもできるけど、そんな時間のかかることは致しません。
なぜなら、
(僕には真眼があるから)
ふふふ……っ。
僕は、悪~い笑みをこぼす。
クレフィーンお母様が「シ、シンイチ君?」と何だか心配そうに聞いてくる。
僕は、それ以上を止めるように、
パッ
彼女に開いた手を向ける。
お母様は口を噤む。
僕は黒い目を閉じ、
(お願いします、真眼君……この王都に存在する僕に適合する石板の全てを教えてください!)
カッ
強く願い、目を開けた。
数秒の間……そして、
ヒィン
【適合する石板の数】
・4つ、ある。
・内、1つは、王霊の盾。
・他3つの内、2つは他石板販売店で販売中。残り1つは、王立魔法院の石板研究所に存在する。
(おお……!)
あった。
も、もっと詳しくわかるかな?
目に集中。
ヒィン
【不死霊の奇跡】
・回復の魔法。
・1日1回、即死以外なら、どのような肉体損傷でも回復できる。
・病気には無効。
・回復力、500。
【水霊の戯れ】
・水で疑似生物を生み出す魔法。
・最大3メートル、最小3センチの範囲で、疑似的な生命体を創り出せる。
・生命体は、命令に忠実。
・水の肉体なので、基本、戦闘力は低い。
・補助力、120。
【闇霊の眼】
・暗視の魔法。
・完全な闇の中でも視界を保てる。また光源に頼らない分、より広範囲を視認、把握できるので便利。
・突然の光を受けても、目は眩まない。
・補助力、180。
(へえ、へえ、へえ……!)
回復系と補助系か。
凄い。
面白い。
現在、『土霊の岩槍』だけだから、残り4枠、全部埋められる!
(いいじゃん、いいじゃん)
さすが、真眼君。
本当、ありがとね!
目を閉じ、心の中で深く感謝。
あ……そうだ。
(3人にも、報告しとこう)
僕は、ずっと僕の方を見ていた3人の美女を振り返ると、軽く手招きしながら近づいていく。
不思議そうに3人も寄ってくる。
4人で、顔を近づけ、
(う……)
ち、近い。
美人なお顔が3つも間近にあり、少しドキッとする。
あと、大人の女性のいい匂い。
お、落ち着け。
心の中で、深呼吸。
そして僕は、支配人さんに聞こえないように小声で言う。
「あの、今、秘術の目で見たんですけど、この王都内に、僕に適合する『マトゥーンの魔法石板』が、ここ含めて4つあるみたいです」
「まぁ……」
「4つもかい?」
「……本当、便利な目ね」
「で、ですね、魔法の種類は――」
ヒソヒソ
と、3人にも見えた魔法の詳細情報をお伝えする。
3人とも、興味深そうな顔。
クレフィーンお母様は、長い金色の髪を揺らして頷き、
「どれも面白い魔法ですね」
と、微笑む。
黒獅子の美女さんは、
「王立魔法院保管の石板か……コネを使えば、何とか入手できなくもないかな?」
と、顎に手を当てながら言う。
そして、赤毛のエルフさんは、
「…………」
(……?)
何も言わず、しばらく考え込んでいる。
レイアさん?
友人2人も気づき、彼女を見る。
やがて、考えがまとまったのか、綺麗な赤毛の髪を揺らして彼女は頷き、そして、僕を見る。
その唇が開き、
「――そうね、4個とも買うのはいいけれど、習得する魔法は2種類までにしておきなさい。じゃないと、貴方、詰むわよ?」
と、警告を口にした。
(え?)
……詰む?




