072・勘の囁き……?
訓練場を出たあと、ギルド長室に戻る。
秘書さんの指示の下、僕はクラン加入手続きの書類に記入したり、冒険者証を渡して登録作業をしてもらった。
で、正式に加入完了。
(ふ~ん)
思ったより、あっさり。
特別、クラン証などもなく、個人的には何も変化がないので実感もない。
だけど、
「これからよろしくね」
ギュッ
と、アルタミナさんは笑顔で握手してくる。
(あ、はい)
僕は頷く。
3人の先輩に、
「どんな役に立てるかわかりませんが、がんばります。よろしくお願いします」
ペコッ
と、頭を下げた。
3人の内、2人の美女は笑顔で頷く。
そして、冷静沈着派のエルフさんは「ま、最初は期待してないから、力を抜いてやりなさい」と澄まして言う。
(せ、せんぱ~い)
マジ、格好いいっす……。
見ていたギルド長さんも笑っていた。
そのあと、
「あ? 邪竜の呪詛?」
「そう。汚染された魔物は凶暴化するらしいよ。あと、最近多い、魔力結晶石の濁りの原因もそれだってさ」
「……どこ情報だ?」
「内緒」
唇に人差し指を当て、ウィンクするアルタミナさん。
ギルド長は憮然とした顔。
その後輩は、
「人体にも有害らしいから、浄化や解呪を推奨だってさ」
「……そうか」
「根本の原因は、世界に満ちてる女神の力が弱まったかららしいんだ。多分、邪竜崇拝者や破滅主義者の裏組織が関与してると思うから、関係各所にも連絡しといてね?」
「…………」
「ね?」
念押しするアルタミナさん。
ギルド長は、
ジロッ
(う……?)
なぜ、僕を見る?
え、なんか、バレてる?
ドキドキ
僕、必死にポーカーフェイス。
やがて彼は嘆息し、
「わかったよ」
と、頷いた。
(ほっ)
内心、僕は安堵する。
アルタミナさんはニコニコ笑顔で、レイアさんは肩を竦め、クレフィーンさんは少し困ったように笑う。
そんな感じで話は終わり。
伝えるべきことも伝えたし、もう用はなし。
僕らは席を立つ。
黒髪のクラン長が代表し、
「それじゃあ、今日はこれで帰るね」
「おう。予約していたクエストは、明後日からか?」
「そうだね」
「坊主も連れていくのか?」
「一応、そのつもりだよ」
「そうか」
「ま、無茶はさせないからさ。心配しないでよ」
「ああ、そこは心配してねえよ」
と、ギルド長は言う。
(?)
じゃあ、違う何かを心配してるの……?
何を?
アルタミナさんも気づいたのか、視線で問いかける。
ギルド長は言う。
「――例の『冒険者狩り』さ」
(冒険者狩り?)
僕はキョトン。
でも、アルタミナさんとレイアさんは『ああ』という表情だ。
ただ、お母様も怪訝そうで、
「冒険者狩り?」
と、呟く。
レイアさんが言う。
「フィンは知らないだろうけど、実は半年ぐらい前から、クエスト中の冒険者が何者かに襲われる事件が起きてるのよ」
「まぁ……」
(ええ……?)
僕らは驚く。
レイアさんは続ける。
「犯人は不明でね。生き残った冒険者の証言だと、黒装束の人物1人の犯行らしいわ」
「1人、ですか」
「そう」
頷き、
「その1人に、複数の冒険者パーティーがやられてる。しかも、被害者の中には『白銀級』もいたらしいわ」
「まさか……白銀級が?」
「ええ、相当な手練れよ」
2人の『白銀級』の美女たちは、真剣な表情で会話を交わす。
(マジか……)
僕も唖然。
その犯人、何者かしら?
ちょっと怖……。
ギルド長は頷き、アルタミナさんに言う。
「そういうことだ」
「ああ、うん」
「お前たちなら大丈夫と思うが、今回、その坊主も同行させるなら、特に気をつけろよ?」
「わかってるよ」
黒髪の美女は微笑み、頷く。
自信のある表情。
噂の冒険者狩り相手でも、自分ならば勝てるという自負が見える。
(うん、頼もしい~)
と、お母様も金髪を揺らしながら、僕を見る。
優しく微笑み、
「――何があろうと、シンイチ君は私が必ず守ります。だから、安心してくださいね」
(お、お母様……)
僕、感動。
「うん」
と、笑って頷いた。
お母様も笑みを深くする。
そんな僕らに、友人2人も笑ったり、肩を竦めたりしている。
その様子を見ていたギルド長は、
「――なるほどな」
と、短く呟く。
そして、彼は僕を見る。
(ん?)
僕はキョトン。
彼は、僕をジッと見つめ、言う。
「3人のこと、任せたぞ」
「え?」
僕に?
いや、逆でしょ?
(3人に僕を任せるんじゃないの?)
と、少し困惑。
美女3人も、不思議そうな表情だ。
でも、彼は苦笑して、
「気にするな。俺の勝手な勘と期待だ。――またな、シンイチ」
「あ、はい」
僕は頷き、会釈する。
巨漢のギルド長も頷いた。
やがて、僕らはギルド長室を退室すると、そのままギルドの建物もあとにしたんだ。




