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007・クレタの町

 乗合馬車が町に到着した。


(すごぉ……)


 目の前には、高さ5メートルほどの石壁があった。


 僕は、左右を見る。 


 ずっと先まで、石壁は続く。


 重機もないだろう世界で、どうやってこれだけの規模の物を造れたんだろう?


 と、真眼が発動。


 ヒィン




【クレタの石壁】


・人力と魔法により建造された。


・総延長、約3キロ。




(お?)


 なるほど、魔法か。


 その石壁には巨大な門が設置され、門前には兵士らしい3人が立っていた。


 御者さんが話している。


 何か、書類を提出。


 兵士さんが確認し、


「記載より、人数が多いな」


 と、言う。


 乗客の皆さんが僕を見る。


 え?


(あ……僕のことか)


 御者さんが僕に言う。


「シンイチ君、何か身分証とかあるかい?」


「あ……いえ」


 しまった。


 町に入る時には、身分証提示の審査があるのか。


 多分、乗客の皆さんは、事前に馬車ギルドか何かで手続きしていたんだろう。


 兵士さんが、


 ジッ


 疑いの目で僕を見てくる。


(ど、どうしよう?)


 すると、


「旅人の彼は、道中、魔物に襲われて荷物の大半を喪失したそうです。身分証もその際になくしたのでしょう」


 僕の横で、金髪の女冒険者さんが言う。


 兵士さんが、僕を見る。


「そうなのか?」


「は、はい」


「ふむ、それは大変だったな。だが、そうなると入町税が500リドかかるぞ」


「500リド?」


 確か、1リド100円だっけ。


 ……え?


(5万円!?)


 たっか!


 いや、でも、身分証がないと犯罪者の可能性もある訳で、治安維持のためにも、あえて高額なのか。


 異世界の治安……。


 日本よりは、悪そうだし。


 ジャラッ


 財布を開く。


 けど、315リド、約3万1500円しかない。


(た、足りない……)


 参った。


 僕は、町の門前までか。


 異世界の町に入れると思ったのになぁ……トホホ。


 涙目である。


 御者さん、乗客の皆さんも困った顔だ。


 すると、


「私が払いましょう」


「え?」


 チャリ


 金髪のお母様が、銀色の硬貨を兵士さんに渡す。


 兵士さんは頷く。


「うむ、これなら構わん。通ってよし」


 僕は、唖然。


 我に返り、クレフィーンさんを見る。


 彼女は微笑み、


「娘を助けていただいたお礼です」


「で、でも」


「もし気になるなら、後日、お返しください。期限は設けませんので、いつでも構いませんよ?」


「…………」


 異世界人情、胸に染みます。


 僕は、


「ありがとうございます」


 と、深く頭を下げた。


 彼女は慈母の微笑みで、頷く。


 娘のファナちゃんも「お母様……!」と嬉しそうで、御者さん、乗客の皆さんも安心した表情だった。


 3人の兵士さんも頷く。


(いつか、必ず返そう)


 僕は心に誓う。


 そして、


 ゴトゴト


 乗合馬車は門を潜る。


 こうしてクレフィーンさんの助力もあり、僕も無事、クレタの町に入れたんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 門の先に、円形の停車場があった。


 ギギィ


 車輪を軋ませ、馬車が停まる。


 乗客の皆さんが荷物を手に降車し始め、僕も母娘と一緒に馬車を降りた。


 スタッ


 足が地面を踏む。


 そして、


(おお~!)


 目の前に、異世界の町が広がっていた。


 ……凄い。


 現代の日本の家とは全く違う、中世の西洋風の建物たちが並ぶ。


 地面は、石畳。


 電柱とか電線は、どこにも見えない。


 通りには、緑の街路樹とお洒落な街灯が、等間隔で設置されている。


 奥に見えるのは、教会かな? 


 水路や公園も見える。


 う~む、中世ヨーロッパ風というか、むしろ、ファンタジーゲームの世界みたいな清潔で美しい景観だ。


 そして、目の前の通りには、たくさんの人々も歩いている。


 男女とも、西洋風の美形が多い。 


 でも、その中には、耳が長かったり、獣の耳が生えている人もいる。


(こ、これは……!)


 エルフ! 獣人!


 異世界特有の人種さんだ。


(うひょ~!)


 本物、本物だよ。


 うん、これは感動。


 そんな目を輝かせる僕に、金髪の母娘は優しい表情だった。


 やがて、馬車前で乗客の皆さんとは別れの挨拶を交わし、彼や彼女たちは解散して、それぞれ町の中に消えていった。


 残ったのは、僕と母娘の3人。


 サラッ


 美しい金髪を揺らし、お母様の方が僕を見る。


「シンイチ君」


「うん?」


「私たちは、知人と待ち合わせた冒険者ギルドにこれから向かうのですが、シンイチ君も一緒に行きますか?」


「あ、行きます」


 そうだ。


(冒険者登録しなきゃ)


 僕の答えに、彼女も微笑む。


「登録すれば、今後、他の町でも入町税が必要ないので良い決断と思いますよ」


「へぇ……そうなんですね」


「はい」


 頷く、クレフィーンさん。


(じゃあ、ますます登録しないと!)


 ギュッ


 僕は、気合と共に両手を握る。


 すると、


「ファ、ファナも……」


「ん?」


「ファナも12になったら……登録、するの」


 と、9歳の金髪幼女が僕に言う。


(そっか)


 僕は笑う。


「じゃあ、僕は先輩として、しっかりがんばらないとだね」


「う、うん」


 彼女は赤くなりながら、コクッと頷く。


 天使……。


 お人形さんみたいな彼女の仕草に、僕もほっこりです。


 そんな僕らに、


「……ふふっ」


 お母様が口元に手を当て、上品に笑う。


 僕の視線に、


「いえ、ごめんなさい。でも、私の娘に優しくしてくれて、ありがとうございます」


「……?」


 優しい?


 別に普通では……?


 僕は、キョトンとしてしまう。


 それに気づき、クレフィーンさんは優しくはにかむ。


 ファナちゃんの金色の髪を撫で、


「よかったですね、ファナ」


「……うん」


 恥ずかしそうに頷く、天使な幼女。


 天使の母の女神様が僕を見て、


「では、行きましょうか、シンイチ君」


「あ、はい」


 僕は頷く。


 女神様の案内の下、僕は、クレタの町の通りを歩きだしたんだ。

ご覧頂き、ありがとうございました。


次回更新は、明日の予定です。

また明日からは、1日1話更新になります。どうぞよろしくお願いします。

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