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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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068・さぁ、説得だ!

「――どうぞ」


 秘書さんが、僕の前のテーブルに飲み物のグラスを置く。


(あ、ども)


 ペコッ


 僕は軽く頭を下げる。


 彼女は微笑み、全員のグラスを置くと場を離れる。


 ギルド長の魂の叫び――もとい一喝のあと、僕らは一旦、落ち着いてから話そうと、来客応接用のソファーに座らされた。


 ズズッ


(あ、アイスティーだ)


 うん、美味しい。


 僕は、ホッと息を吐く。


 そんな僕の様子を、他の4人の大人は何も口をつけずにジッと見つめていた。


(? な、何か?)


 皆の視線に、僕はキョトン。


 美女3人の内、2人は苦笑、1人は肩を竦める。


 そして、僕以外、もう1人の男性である銀髪のギルド長は、大きく息を吐きだした。


 彼は、手元の書類を見る。


 先程、この場に移動する間に、秘書さんが用意した物だ。


 何だろう?


 見ていると、


 ヒィン


(ん?)




【書類】


・桐山真一の登録情報。


・貴方の個人情報、クエスト情報、各町や村の来訪記録などが記されている。




(おお)


 身元確認用の書類?


 この短時間で、秘書さん、優秀だね。


 彼女は扉の近くで目を伏せながら、まるで人形のように微動だにせず立っていらっしゃる。


 と、巨漢のギルド長は僕を見る。


 ジロッ


 ぬ……強い視線。


 僕は、姿勢を正す。


「15歳、他国の少年か」


「あ、はい」


「登録は、約1ヶ月前の無真級。達成したクエストは『薬草採取』のみの完全な新人冒険者」


「…………」


「だが……深緑の大角竜討伐に参加、報酬を受け取っているだと?」


「……ですね」


 頷く、僕。


(何も間違ってないぞ)


 彼の視線の圧は強いけど、やましい所なんてないので、僕は平然と構えていた。


 視線がぶつかる。


 ……?


 僕は愛想笑いで、小首をかしげる。


 途端、彼は難しい顔になる。


 そして、その視線は、同席する黒髪の女冒険者へ。


「おい、アル?」


「ん?」


 彼女は微笑んだまま、応じる。


 ギルド長は言う。


「こいつはどういうこった?」


「何が?」


「無真級のほぼ素人の子供を、なぜ、煌金級のお前のクエストに同行させた? 理由は何だ?」


「え? 必要だったから」


「何が?」


「彼の力が」


「…………」


 ギルド長はもう1度、僕を見る。


(え~と?)


 僕は言う。


「僕、目がいいので、探し物が得意なんです」


「…………」


「…………」


「それで?」


「それだけですが……」


「…………」


 グリグリ


 彼は、太い指で自分の眉間を揉む。


 そのまま、


「アル?」


「ん?」


「本当か?」


「うん。実際、移動した深緑の大角竜の潜伏先も、隠れてた擬態を見抜いたのも彼だよ」


「……ほう」


 彼は手を放す。


 ジッ


 再び僕を見る眼差しは、少しだけ変化していた。


 銀髪のギルド長は、鼻を鳴らす。


「人間、得意分野ってものがあるもんだ。なるほど、高価な薬草を追加で毎回手に入れてた記録もあるし、坊主は『探す』という分野に特技があるんだな」


「…………」


 ほほう……?


(真眼のこと、見抜かれた?)


 いや、実際の真相はわからなくても、登録情報にはない『何か』があると思われたのかもしれない。


 ま、言わないけど。


 多分、向こうも聞くことはないと思う。


 冒険者の奥の手。


 その冒険者個人の最後の手段まで無理に聞き出すことは、マナー違反だというのは、うん、異世界物の定番だし。


 なので、僕は、


 ニコッ


 と、無言のまま笑った。


 その反応に、ギルド長も片方の口角だけを上げる。


 彼は、書類をテーブルに置く。


 アルタミナさんを見て、


「理由が足りんな」


「ん?」


「その程度の理由では『月輪の花』クランへの加入は認められん」


「…………」


「わかってんのか、お前? 『月輪の花』は王国最強クランの1つ、しかも、これまで何人、実力と等級もある冒険者がその過酷な環境に耐え切れず脱退したと思ってる?」


「……あ~」


 彼の指摘に、彼女は困った顔。


 ギルド長は、


「冒険者の安全を守るギルドとして、そんなクランに『無真級』の新人の加入を許可できるか!」


 バンッ


 と、テーブルを平手で叩いた。


(おおぅ)


 グラスの紅茶が跳ねたぞ。


 びっくり。


 そして、目の前のギルド長さんの語っている内容は、なんかメッチャ正論じゃないか。


 チラッ


 美女3人を見る。


 クレフィーンお母様は少し困った表情をしている。


 レイアさんは他人事のように澄ました美貌で、ただ成り行きを見守っている。


 そして、黒髪のアルタミナさんは、


「……う~ん」


 と、その金色の瞳を軽く伏せる。


 白い手がテーブル上の紅茶のグラスを掴み、


 コクッ


 冷たい中身を一口。


 唇を湿らせると、ゆっくり獅子の如き目を開かれる。


 ギルド長を見て、



「――彼ね、実は『古代魔法』が使えるんだよ」



 と、淡々と告げた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「――は?」


 銀髪のギルド長は目を丸くした。


 その口も半開きである。


 後輩の美女は続ける。


「冒険者登録した翌日にね、偶然、手に入れた石板で覚えたらしいんだよ。しかも、攻撃系の、ね」


「……待て」


「報告には書いてないけど、深緑の大角竜にとどめを刺したの、この子だよ?」


「!? おい、待て」


「私たちも戦わせる気はなかったんだけど、成り行きでね。でも、結果として、それでフィンの命を救ってくれたんだ。もう彼には頭が上がらないよね、うん」


「だ、か、ら、待てと言ってるんだろうが!」


 ダン


 彼は、テーブルを叩く。


(おう、乱暴……)


 先代の睨みに、けれど、今代のアルタミナさんは肩を竦める。


 彼は舌打ちする。


 そして、彼の視線が僕を向く。


 目力、強っ、怖っ。


「今の話、本当か?」


「あ、はい」


 僕は頷く。


「たまたま、広場の屋台でお土産の壊れた石板を買ったら、実はまだ壊れてなくて……使ったら、適合してたのか、覚えちゃいました」


「…………」


「買った時、クレフィーンさんも一緒でしたよ」


 と、お母様を見る。


 ギルド長も視線を向け、彼女は長い髪を揺らしながら、はっきり頷いた。


「はい、確かに」


「…………」


「そして、アルの言葉通り、命を助けられたのも事実です」


「……そうか」


 彼は、苦虫を噛んだ顔。


(まぁ、確かに?)


 本来、壊れてるはずの魔法石板が壊れてなくて、更に100分の1の確率の適合率が1回目で一致する。


 そんなの、天文学的な確率だ。


 理解できても、納得は難しいだろう。


 と、ここまで黙っていたレイアさんは、不意に口を開く。


「ギルド長、もう1つ言っとくわ」


「……何だ?」


「このシンイチね。登録の前日に、フィンの大事な娘を助けてるの」


「何?」


「乗合馬車が魔物の群れに襲われて、フィンが不覚を取ったんだって。そこを、たまたま通りがかったシンイチが娘を助けたらしいわ。つまり、命の恩人」


「…………」


「それがフィンとの最初の出会いで、今になるわ」


「…………」


 彼は、もう1度、僕を見る。


 え~と、


(……はい)


 僕は、半分照れながら頷いた。


 厳つい風貌のギルド長は、何とも言えない表情で僕を見ている。


 すると、


「ギルド長」


 と、アルタミナさんが口を開いた。


 ギルド長も彼女を見る。


「私も酔狂で彼をクランに誘ったんじゃないんだ」


「…………」


「異国人で、文化も価値観も違う15歳の少年が、竜を殺せる古代魔法を習得している。放置できると思うかい?」


「……いや」


 彼は、首を横に振る。


 黒髪の美女も頷いた。


「だからだよ」


「…………」


「私たちが彼を見守り、正しく導く。そのためのクラン加入だよ」


 彼は沈黙。


 やがて、言葉を選ぶように言う。


「だが、それは、お前たちでなくてもいいのではないか? 優秀なクランは他にいくらでもある。何も王国最強クランの1つ、『月輪の花』が負うべき役目じゃないだろう」


「そうかもね」


 アルタミナさんは、認めた。


 ギルド長が「なら――」と言葉を重ねかけ、



「――でもね? クレフィーン自身が、この子を育てたがっているんだよ」



(え……?)


 初耳だ。


 僕は驚き、お母様を見る。


 彼女は前を向いたまま、けど、僕の視線に気づくと優しく微笑む。


(うっ)


 ドキッ


 笑顔の美しさに、少しときめく。


 黒髪の美女は言う。


「自分と娘の命の恩人だ。そりゃあ、恩返しをしたいと思うよね? それに正直、彼女が冒険者に復帰するよう説得したのも彼だし、クランに戻る理由の大半もこの子の存在なんだよ」


「…………」


「どうする? どう思う、ギルド長?」


「…………」


「この子も、私たちを信じてくれている。だから、クラン加入を受け入れてる。もし、断ったら?」


「……言うな」


 ギルド長は、大きな手で遮る。


 でも、黒獅子公は容赦なし。


 弱った獲物を逃さぬ獅子のように、



「――うん、きっと、雪火剣聖も、この子も、ギルドの手の届かない別の道に行くかもね」



 と、畳かけ、甘く笑った。


 ゾクゾク


 おお、凄い笑み。


 美人な分、余計に怖くて迫力があったぞ……。


 ギルド長は額を押さえる。


 眉間にしわが寄り、どの選択をしたらどのような問題が起きるか、様々な思考を巡らせているみたいだ。


(……偉い人は大変だなぁ)


 当事者だけど、なんか他人事気分。


 黒獅子公は獲物を見るように、彼を見つめる。


 隣に座る相棒の赤羽妖精は『早く諦めたらいいのに……』という表情だ。


 そして、雪火剣聖は、



「――グレイシャンさん。私がこの子の安全と人生に責任を負い、必ず守ります。ですから、どうか信じてはいただけませんか?」



 と、真摯に訴えた。


(……クレフィーンさん)


 その真剣な表情に、僕の方が驚いてしまう。


 そして、正攻法の説得の方が胸に響いたのか、銀髪のギルド長も顔を上げてお母様を見返した。


 2人の視線が絡まる。


 数秒の緊迫した空気。


 やがて、


「ふぅぅ……」


 と、彼は大きく息を吐いた。


 降参、とばかりに両手を顔の横に上げ、僕らに苦笑してみせる。



「――わかった。加入を認めよう」



(おお……!)


 ついにギルド長の許可が出た。


 説得が成功して、アルタミナさんとクレフィーンさんは嬉しそうに笑い、あのレイアさんも珍しく微笑をこぼす。


 僕も何だか嬉しい。


 すると、お母様が僕を見て、


「シンイチ君……」


 キュッ


 膝上にあった僕の手に自分の白い手を重ね、笑いかけてきた。


(うん)


 僕も笑顔を返す。


 しばらく見つめ合う。


 そんな僕ら2人の様子を、ギルド長はかすかな驚きの表情で見る。


 唇を歪め、微妙な沈黙。


 やがて、息を吐き、


 パン


 自分の膝を叩いて、破裂音を出した。


 僕らの注目が集まる。


 見つめる僕ら4人を、彼も見つめ返す。


(いや……?)


 4人の中の僕1人に、巨漢のギルド長は鋭い視線を向けていた。


 そして、彼は言う。



「――だが、加入を認める前に、坊主、お前は俺と手合わせし、その実力を見せてみろ!」



 へ……?

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アルタミナさん流石の説得・・・と思いきや、実力を測る為にまさかのギルド長と手合わせ!?勝てるのか、シンイチ・・・
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