066・王都の冒険者ギルド(でっかい)
王都の中心街。
そこは、各行政機関や軍関連施設、ギルド関係施設など、国の重要施設が集まる区画らしい。
そして、国際組織の1つ『冒険者ギルド』のアークレイン王国本部も、この中心街のご立派な建物たちの中に存在していらっしゃった。
(――でっかぁ)
僕は、お口あんぐりだ。
目の前には、巨大な建築物があった。
立派な石造りで、近代的なビルみたい。
1階正面の壁は、全面ガラス張り。
しかも、薄くスモークがかかってる。
高さは3階建てぐらいだけど、横に長く、広く、奥には300台ぐらい停められそうな馬車や竜車の駐車場もあった。
で、それが2棟。
「片方は、依頼者用だよ」
と、アルタミナさん。
(へ?)
と驚く僕に、
「武装してる冒険者は、一般国民には威圧感があるからね。依頼者は一般国民が多いし、依頼者用と冒険者用の場所を分けてあるのさ」
「はぁ~、なるほど」
「さ、私たちはこっちだよ」
「あ、はい」
先導する黒髪の美女を追う。
クレフィーンさん、レイアさんも続く。
見れば、うん、確かに依頼者用の建物には普通の服装の人が出入りし、冒険者用の建物には武装した集団が出入りしてる。
(面白いなぁ)
王都のギルドって、こんな感じなんだ。
やがて、僕らは建物入口へ。
木製の立派な扉の前には、制服を着たギルド職員らしい男の人が2人立っている。
「お疲れ様です」
「どうぞ、中へ」
ガチャッ
と、左右から扉を開けてくれる。
(ええ……?)
扉の開閉まで、職員がやってくれるの?
僕、びっくり。
そう言えば、ここは『冒険者の王国』だから、他の国より冒険者の地位が高いとか前に聞いたっけ。
そのせいか?
アルタミナさんは「ありがと」と爽やかスマイルで。
レイアさんは特に何もせずに当たり前の顔で、クレフィーンさんは微笑みながら会釈して通り抜ける。
(ど、ども~)
新米冒険者の僕も会釈して通る。
で、中へ。
「…………」
ひ、広ぉ~っ!
いや、わかってたけど。
わかってたけど、マジで広い。
ホームセンターの商品棚、全部なくしたぐらいの感じ?
正面に、円形の総合受付。
受付嬢さんは、3人いらっしゃる。
そばには、館内地図の描かれた案内版が設置され、足元には色分けされた矢印が。
正面奥に、受注受付が……ええっと、1、2、3の……うん、12ヶ所。
現在、並んでいる冒険者も100人ぐらいいるぞ。
なんか、どこかの遊園地のアトラクションの順番待ちをしてるみたい……。
等級ごとに色分けされた依頼書の張られた掲示板も7枚あり、1枚1枚が異常に大きく、張られた依頼書も何百枚あるのかわからない。
また1枚毎に1人、ギルド職員が付いている。
見ていると、どうも不慣れな冒険者に助言や説明を行うアドバイザー的な人みたいだ。
その掲示板に集まる冒険者も、何百人って単位。
(ひぇえ……)
他にも、素材鑑定、解体用の受付、搬入口もあったり、治療用の専門施設、武器や防具などを用いた練習場みたいな場所もあるみたい。
2階は、冒険者が仲間と待ち合わせしたり相談できる休憩室や、レストラン、武器、防具、道具類の販売所もあるようで。
3階は、職員用の施設っぽい。
…………。
マジ、大企業じゃん。
クレタの素朴な冒険者ギルドが懐かしい……。
(やべぇ)
社会経験のない15歳のお子様には、なんか胃が痛くなるほど立派な施設でございますな?
僕の様子に、大人の美女3人は笑う。
黒髪の美女が、
「まずは、ギルド長に会おうか。さ、こっちだよ」
と、階段の方へ歩き出す。
(あ、はい)
ぎこちなく頷く僕。
と、優しいお母様が、
キュッ
「一緒に行きましょう、シンイチ君」
と、僕の手を握ってくれた。
め、女神~。
手の温もりに安心する。
そうして僕は、情けないけど子供みたいに手を繋がれて、お母様と歩き出した。
と、その時だ。
1階フロアには、大勢の冒険者がいる。
その何人かが、僕らに気づいた。
「おい? あれ、まさか……」
「うわ、黒獅子公だ!」
「赤羽妖精様もいらっしゃるわ」
「え、マジで?」
「凄い、本物だ」
「お~い、黒獅子公と赤羽妖精がご帰還だぞ~!」
「何ぃ!?」
ザワザワ
(お……?)
物凄い勢いで冒険者が集まり、注目される。
おお……クレタの町の冒険者もそうだったけど、この2人、本当に有名人なんだなぁ。
でも、王都のギルドは、冒険者の数も多い。
近くに100人以上が集まり、遠めに見ている冒険者も何百人といそうだ。
アルタミナさんは芸能人みたいに愛想よく笑いながら、周りに手をヒラヒラさせ、レイアさんは怜悧な美貌を変えずに完全無視で歩いていく。
(……うん、慣れてるね)
これが2人の日常っぽい。
周囲の冒険者も一定の距離を保っていて、
ザワザワ
ただ、ざわめきは大きい。
そして、聞こえる声の中に、
「ん? おい、あの金髪の女……まさか、『雪火剣聖』か!?」
「えっ?」
「『月輪の花』クランの幻の3人目!?」
「引退したって噂だったけど、まさか、現役復帰したのか!?」
「マジかよ!」
「び、美人だ~」
「現役時代は、黒獅子公より強かったって話よね? そんな人が、また活動再開するの!?」
「凄ぇ……!」
おお……。
(クレフィーンさんも、超人気じゃん!)
全く無関係なんだけど、なぜか僕も鼻が高い……ふふん!
そして更に、
「ところで、あの黒髪の子供は何だ?」
「さあ……?」
「雪火剣聖と手を繋いでるぞ」
「息子……?」
「いや、年齢が近いだろ。多分……若い燕じゃね?」
「え、マジで?」
「愛人?」
「あんなガキがいいのかよ!?」
「く、くそぅ……! 羨ましい~!」
「お、俺じゃ駄目かぁ?」
「アンタらね……」
えっと……うん。
僕、クレフィーンお母様の息子か、愛人にされそうです。
(……悪くないけど)
へへっ。
でも、勝手な噂を立てられて、クレフィーンさんには申し訳ない気持ちになる。
チラッ
見ると、
(あ……)
お母様もこっちを見ていた。
お互い、驚く。
と、彼女は少し眉を寄せて、
「ごめんなさいね」
「え?」
「こんなおばさんと変な噂を立てられて……嫌ですよね? 本当にごめんなさい」
と、謝ってくる。
(え、何で?)
僕、びっくり。
「嫌じゃないですよ」
「え……」
「いや、むしろ、美人のクレフィーンさんとの噂なんて光栄だし、嬉しいです」
「シンイチ君……」
「なんなら、本当に愛人にしてもいいですよ?」
ニコッ
僕は笑ってみる。
軽い冗談だったけど、彼女は呆けたように僕を見つめた。
そして、
ボッ
顔が赤くなる。
(……あれ?)
お母様は慌てたように、
「も、もう……こんなおばさんをからかわないでくださいっ」
「え、あ、えっと……」
「でも、その……そう言ってくれて、ありがとう、シンイチ君。その……少しだけ嬉しかったです」
「…………」
お母様?
え……何、その可愛い反応。
(うわっ)
顔、熱っ。
恥ずかしそうな彼女の美貌を見てたら、僕も恥ずかしくなっちゃったよ、ひぃ~。
パタパタ
手で、顔を仰ぐ。
彼女を見る。
向こうも見てきて、また目が合う。
「…………」
「…………」
「くっ」
「ふふっ」
お互い、赤くなったまま笑ってしまった。
(あはは)
うん、楽しい!
こんな美人と、こんな時間を過ごせて僕は幸せ者だね。
キュッ
結局、手は繋いだまま。
僕とクレフィーンさんは先行する2人を追いかけながら、ギルドの階段を上って行ったんだ。




