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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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064・新しい僕の部屋

 豪邸の『月輪の花クランハウス』。


 これから暮らす僕らは、その中を管理人の老夫妻に案内してもらう。


 その広さに、


(ほへぇ)


 と、僕は感心しちゃう。


 建物は3階建て。


 1階には、食堂や大浴場(男女別)、台所、洗濯室、トイレ、治療室、倉庫、管理人室などがあった。


 ダルトン夫妻は、管理人室で暮らしているそうな。


 2階は、クラン員室。


 今は誰もいないけど、20部屋あるって……いや、宿屋かい?


 3階は、クラン長室、副クラン長室、会議室、応接室がある。


 クラン長室は、当然、アルタミナさんの部屋。


 なんか、テレビで見た高級ホテルのスイートルームみたい。


(うん、豪華……)


 副クラン長室は、相棒のレイアさんの部屋。


 室内は、クラン長室とほぼ同じ。


 実は、副クラン長室は2部屋あって、


「10年前までは、私が暮らしていたんですよ。……この間取り、窓からの眺め、懐かしいですね」


 と、金髪のお母様。


(へ~?)


 クレフィーンさんも副クラン長だったの?


 でも、考えたら、この3人で設立したクランなんだから、当然か。


 彼女は、


「あ……この傷、まだあったのですね」


 と、部屋の柱を見て笑っている。


(ん……?)


 ふと見れば、友人2人は何だか眩しそうに、10年ぶりにこの部屋にいるお母様を見ていた。


 ……うん。


 彼女たちの中には、長年、積み重なった思いもあるのだろう。


 部外者は、何も言うまい。


 僕は、後ろでこっそり微笑むのみである。


 クランハウスの案内は続き、最後に広い庭に稽古場もあると教わり、案内は締め括りとなった。


 で、


「じゃあ、シンイチ君の部屋を決めたいけど、2階の空き部屋でいいかい?」


 と、美人クラン長のお言葉。


 僕は「あ、はい」と頷く。


(泊めてもらえるなら、どこでも文句ないよ)


 と、思ってます。


「そう。じゃあ、眺めの良い南の角部屋でいいかな?」


「うん、わかりました」


「よし。……あ、家賃はないけど、クラン管理費で月100リド支払ってもらうからね。よろしく」


 100リド……1万円か。


 月の家賃と考えれば、うん、安い安い。


 ちなみに、光熱費込みだぞ?


「はい、了解です!」


 ビシッ


 僕は敬礼。


 アルタミナさんや管理人の老夫妻、ナイド母娘は笑ってくれる。


 ……レイアさんは、呆れ顔だったけどね。


 エルフさん、厳しっ。


 で、実際に部屋に移動した。


 ガチャッ


「おお~」


 思わず、声、出ちゃった。


 クレタの宿より、部屋が広いぞ。


 大きくフカフカのベッドは、枠組みの木材の質も良く、お洒落な彫刻がされていた。


 壁も一部、上品に木造を見せつつ、全体的には漆喰か、モルタルっぽい。


 箪笥もある。


 高級箪笥で作りもいいのか、引き出しの押し引きでも全然引っかからないや。


 気持ちいい~。


 それ以外にも、クローゼット、鍵付きの荷物入れ用金属箱。


 照明は、天井とベッド脇、2ヶ所にある。


 どっちもお洒落なランプ。


 南向きの窓も大きく、カーテン付き。


 窓から見れば、


(うわ……眺めいい!) 


 目の前にはクランハウスの庭と高級住宅地の車道があり、その先には王都アークロッドの美しい街並みが見えていた。


 窓からの風が、僕の黒髪を柔らかく揺らす。


 うん……最高。


 僕は皆を振り返り、


「ありがとうございます、凄く素敵な部屋ですね!」


 と、お礼を言った。


 僕の様子に、大人たちは穏やかに笑う。


 と、その時、


 クイ クイ


 おかっぱの金髪幼女の小さな指が、お母様の服の裾を引く。


 お母様は気づいて、


「? ファナ?」


 と、娘を見る。


(ん?)


 僕らも注目。


 視線の中、娘ちゃんは青い瞳で母親を見上げる。


 そして、


「……ファナ、お兄様の隣のお部屋がいい」


 と、小声で訴えた。


(え?)


 僕、びっくり。


 お母様たちも驚いた顔をしていた。


 その反応に、勇気を出したファナちゃんは俯いてしまう。


(おおう……)


 目を丸くしていたお母様は、でも、すぐに「ファナ……」と娘を優しく見つめ、その髪を愛おしそうに撫でる。


 そして、友人2人を見て、


「アル、レイア。すみませんが……」


「ああ、構わないよ」


「どうせ部屋は空いてるのだし、貴方たちの好きにすればいいわ」


 友人たちは苦笑する。


 クレフィーンさんは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。


(え~と……)


 この流れだと、決まりですかね?


 ま、いいか。


 むしろ、僕も嬉しいし、うん。


 頷いて、


「じゃあ、またお隣同士だね、ファナちゃん」


「う、うん!」


 幼女の前にしゃがんで言うと、彼女は大きく頷いた。


 そして、嬉しそうな笑顔。


 頬っぺたが林檎みたいに赤くなって、尻尾があったら左右にパタパタ振れてそうな感じ。


 ふふっ、可愛い。


 思わず、頭を撫でちゃう。


 そして、僕は、クレフィーンさんを見上げる。


 必然、彼女ともお隣さん。


 僕は笑って、


「これからもよろしくお願いします、クレフィーンさん」


「――はい。シンイチ君」


 キュッ


 彼女は大きな胸の前で、何かを押さえるように両手を握り、花のように微笑む。


 うん、お綺麗ですね……。


 ドキドキ


 僕らはお互い、笑い合う。


 ともあれ、こうしてクレタの町の宿屋同様、このクランハウスでも金髪の母娘と僕は再びお隣さんとなったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 案内のあとは、一旦解散。


 僕は借りた部屋で、1人荷解きした。


(まぁ、大した量はないんだけどね?)


 一応、外套や短剣、リュックの中身をクローゼットや箪笥、鍵付きの金属箱へとしまっておく。


 そのあとは、お風呂を頂いた。


 でっかい浴槽だ。


 4~5人ぐらい、一緒に入れそう。


 男風呂を使うのは、僕とジーグルさんだけなので、少し勿体ないなと思う。


 そもそも、


(2人なのに、なぜ、この大きなクランハウスを維持してるんだろう?)


 と思ったり。


 答えは、お風呂のあと、食堂での全員の食事の時に教わった。



「――お金、余ってるから」



(…………)


 これが、煌金級冒険者か……。


 僕、何とも言えない気分。


 白銀級のレイアさんも「文句ある?」という表情である。


 いや、ないですが……。


 と、アルタミナさんは苦笑して、


「あとは、安全面でね」


「安全?」


「そ。お金があるってことは、厄介な出来事も招くのさ」


 厄介?


 僕は、キョトン。


「あ、泥棒ですか?」


「あはは、それぐらいなら可愛いね」


「…………」


(ええ……?)


 困惑する僕。


 黒髪の美女は、教えてくれる。


「多いのは寄付や投資の懇願かな? ただ詐欺も多いけどね。他にも、見知らぬ相手に求婚されたり、親族を語る怪しい人が現れたり、嫉妬で命を狙われたり……あ、実体験の話だよ?」


「…………」


「一々対応するの、面倒なんだよね」


「……でしょうね」


 想像し、僕は頷く。


 そんな僕に、彼女は「ふふっ」と笑う。


 そして、言う。


「でね。このクランハウスが建ってるのは、実は富裕層の暮らす地区で衛兵の巡回も多いんだよ」


「あ……」


「うん、だから、そういう連中は……ね?」


 パチッ


 彼女は、お茶目に片目を閉じる。


(なるほど~)


 悪い人はなかなか近づけないし、強引に来られても衛兵が対応してくれる、と。


 僕も納得だ。


 お金に余裕があって安全を買えるなら、そりゃ現状維持するか。


 と、その時、


「あとは、フィンのためね」


 不意に、レイアさんが呟いた。


 え……?


 僕とお母様は、彼女を見る。


 赤毛のエルフさんは、少し遠くを見ながら、


「いつかフィンが戻ってきた時のために、昔のままの景色を……このクランハウスを残しておきたいって、アルが意地を張ったのよ」


「あ……」


「…………」


「10年待ったけど、ようやくね。おかえり、フィン」


 と、友人を見て、レイアさんは笑う。


 ゆ、友情ぅ~。


 暴露されたアルタミナさんも少し恥ずかしそうに笑って、クレフィーンさんを見ている。

 

「レイア……アル……」


 お母様は驚き、その青い瞳が潤む。


 そして、


「ええ、ただいま……長く待たせてしまいましたね」


 と、目元を指で擦りながら微笑んだ。


 うん……。


 僕も泣きそう。


 こういうの、弱いんだよぅ。


 娘のファナちゃんも「よかったね、お母様」と笑い、お母様も嬉しそうに娘を抱き締めている。


 食堂の壁際では、老夫婦も穏やかな微笑みだ。


 …………。


 そのあとも、和やかに食事は続いた。


 料理はハンバーグを中心とした肉料理で、ハンナさんが作ってくれたらしくて、全部、美味しかった。


(う~ん、春風の宿の料理にも負けてないね)


 モグモグ


 僕は、大満足。


 うむ、今後の食事も楽しみです。


 で、食事しながら、今後のお話。


 我らがクラン長は、


「明日、王都の冒険者ギルドでシンイチ君のクラン加入手続きをするからね」


「あ、はい」


 僕は頷く。


(そっか)


 手続き、いるのか。


 頷く僕に頷き返し、そして、彼女はお母様も見る。


「で、フィンも正式に活動再開する訳だし、1度、ギルド長に面会しておこう。『雪火剣聖』の正式復帰だから、きっと歓迎されると思うよ」


 と、笑う。


 クレフィーンお母様は頷き、


「わかりました。ですが、もう、こんなおばさんになってしまいましたので、あまり期待されても困りますけどね」


 なんて言う。


(う~ん?)


 子持ちの27歳なんて、日本じゃ若い方に思うけどね。


 友人2人も呆れ顔だ。


「君ね……」


「鏡を見なさい、全く」


(同感だ)


 2人に同調し、僕も内心頷く。


 でも、美人なお母様は友人たちのお世辞と思っている様子で「はいはい」と笑うと、上品に食事を続けていた。


 は~、やれやれ……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 食事会も終わり、全員、今夜は解散となった。


 僕は1人、自室に戻る。


 夜も更け、室内は薄暗い。


 でも、窓からの月光や街の明かりでぼんやり見えて、僕は照明もつけずにベッドに寝転がった。


 ポフン


 柔らかなクッションが背中を受け止める。


「は~、お腹いっぱい」


 と、僕は笑いながら、胃の辺りを両手で触る。


 ナデナデ


 しばらく撫でる。


 しかし、


(ついに、王都に来てしまったか)


 と、感慨深い。


 異世界転移してまだ1ヶ月も経っていない。


 だけど、王国トップの冒険者クランにも入れたし……うん、なかなか順調じゃないか、僕。


 でも、


(器用な人なら、もっと上に行けたのかな?)


 とも思ったり。


 物語のチート持ち主人公とか、あっという間に世界最強になったりしてるしね。


 う~ん?


 ……ま、いいか。


 僕は僕だし、無理はするまい。


 それに、


(今でも充分、僕、楽しんでるしね?)


 現状に満足してる。


 だって、さ?


 ヒィン


 ふと横に視線を向ければ、壁に文字が浮かぶ。




【クレフィーン・ナイド】


・隣室にいる。


・娘と同じベッドで、眠る娘の寝顔を眺めながら、その髪を撫でている。


・現在の自分の状況と幸せを、改めて噛み締めている。




(……うん)


 彼女と出会い、こうしていられるだけで最高じゃん。


 まぁ、ね?


 相手は、年上の未亡人さん。


 相手にされないとわかってても、好きになるぐらいは構わないよね?


「…………」


 ふと、窓の外を見る。


 夜空には星々と共に3つの月が輝き、その下には王都の光に満ちた夜景があった。


(……綺麗だなぁ)


 僕は、黒い瞳を細める。


 しばらく眺め、


(ん……もう寝るか)


 と、まぶたを閉じる。


 その直前、


 ヒィン


 空中の文字が変化した。




【クレフィーン・ナイド】


・隣室の壁を見つめ、今、桐山真一がどうしているか、気にしている。


・貴方と過ごす明日のことを考えている。


・好感度、85/100。




(ふえっ?)


 ドキッ


 思わぬ表示に、驚いた。


(そっか)


 今、彼女が僕のこと考えてくれてるのかと思うと、嬉しくて、恥ずかしくて、顔が熱くなる。


 何だか、頬が緩む。


(……うん)


 隣室の方を見ながら、



「――また明日、クレフィーンさん」



 僕は小声で囁く。


 今度こそ、まぶたを閉じる。


 静かに息を吐き……そして、僕は幸せな心地で、今夜の眠りについたんだ。

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― 新着の感想 ―
これで月一万なら安い方だよ……今のシンイチなら王都でもやっていけるだろうし、問題ない筈。次回は流れ的にクレフィーン視点かな?
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