053・解体された竜の部品
朝食後、3人で冒険者ギルドを訪れた。
ザワッ
(お?)
煌金級、白銀級の冒険者2人の登場に、1階フロアにいた冒険者たちがざわめき、視線が集まった。
う~ん、
(有名人だねぇ)
改めて、再認識。
そして、そんな2人と知り合いで一緒にいることに、僕は少し鼻が高い……ふふん!
……いや、こういうの情けないか。
コホン
僕は咳払い。
(ま、僕は自然体で……ね)
元々、違う世界出身なんですし、正直、凄さがわかってないし、今更、態度を変えるのもね~?
そんな僕を、
(ん?)
なんか、2人が見てた。
えっと、
「何?」
「ううん」
「何でもないわ」
美女たちは笑い、
ポン ポン
白い手を伸ばすと、2人して僕の頭を軽く叩く。
な、何じゃい?
いきなりのスキンシップに僕は驚き、少々赤面してしまう。
彼女たちはまた笑い、
「さ、行こう」
「こっちよ」
「……う、うん」
なんだか楽しげな2人の後ろを、僕は素直について行った。
◇◇◇◇◇◇◇
総合受付で話しかけると、すぐに『解体室』に案内された。
1階フロアの奥。
僕がよく薬草の鑑定を頼む素材用受付――その奥にある金属扉の先に『解体室』はあった。
ガシャン
重そうな金属扉を潜る。
(へぇ……?)
室内は広く、教室2つ分ぐらいの空間だ。
窓はなし。
換気口はあるみたい。
天井は高く、滑車付きの鎖が何本も下がっている。
床は、ゴムみたいな素材。
血でも洗い流したのか、少し水に濡れていて、それでも染み込んだ血の汚れが残っている。
床の端には、排水溝もあった。
で、
――部屋の中央に、ド~ンと『深緑の大角竜』の部品が置かれていた。
(ほへぇ……)
まさに部品だ。
各部が切断され、骨、肉、内臓、外皮、角、爪、牙などに分かれている。
圧巻の光景だ。
(…………)
う~む?
ほんの3日前に生きてる姿を目にしていただけに、少々、複雑な気持ちになるね。
ま、とどめ刺したの、僕だけど……。
あと、ちょっと生臭い。
鑑定室には、ギルド長(40代ぐらいの髭のおじさん)と、いつも薬草鑑定でお世話になっている眼鏡のおじさんもいた。
2人は僕ら……というか、美女たちに話しかける。
討伐の労い、鑑定の詳細、金額の説明……そんな感じの会話が続く。
僕は、まぁ、聞き流す。
(難しい話は、大人にお任せだ)
それより、こんな竜の解体された状態を見る方が珍しく、興味深い。
ジロジロ
ふ~む、骨、太いね。
僕の腕より大きい。
内臓はプルプルしてて、柔らかそう。
あとで教わったけど、火を吐くための袋とか、魔素を蓄える臓器とか、竜肝とか、希少な部位も多いらしいよ。
外皮の鱗は、うん、硬そう。
鱗1枚が僕の手のひらぐらいある……でかい。
爪とか牙も鋭いね。
あ、牙の先端、少しギザギザしてる?
(そっか)
獲物の肉を、これで裂くんだね。
面白いなぁ。
そして、
「ん……?」
解体された素材の中に1つ、半透明の石があった。
大きさは……30センチぐらい?
形は丸く、でも、少し凹凸がある。
見た目は透明な紫色で美しく、だけど、内部に赤黒い染みのようなものが滲んでいて、少し不気味な印象だった。
(何だ、これ?)
僕は、首をかしげる。
と、その時、話が終わったのか、美女たちが戻ってくる。
僕の様子を見て、石に気づく。
黒髪の美女が、
「ああ、この竜の『魔力結晶石』だね」
と、言った。
魔力結晶石……?
僕は、より詳しい説明を求め、彼女を見る。
彼女は微笑み、
「魔物と呼ばれる生物は、他の野生動物に比べて、肉体に高濃度の魔素を宿してるんだ。その影響で、体内で魔素が結晶化することがあるんだよ」
「へ~?」
「結晶自体が魔力の塊だからね。色々、社会利用もできる貴重な物さ」
「なるほど」
天然の魔力資源。
この世界は、電力の代わりに魔力を使っているみたいで……つまり、この世界の魔法文明を支えるエネルギー資源の1つってことだ。
(う~ん)
異世界の定番だねぇ。
と、レイアさんも魔力結晶石を見る。
その瞳を細め、
「竜の結晶石だから、なかなかの大きさね。けど、この結晶石、変な色しているわ」
「え?」
(変な色?)
僕は、キョトン。
彼女の白い指は、赤黒い染みを差す。
「この濁り」
「…………」
「本来、結晶石は綺麗な紫色に澄んでいるはずだけど……この色は、何なのかしら?」
チラッ
彼女は、鑑定の眼鏡おじさんを見る。
彼は、
「わからん」
と、答えた。
(あら?)
わからんの?
「ただ最近は、そういう濁りのある結晶石も多く見かけるな。特に、ここ1~2年で増えた気がするが……」
「あら、そうなの」
頷くレイアさん。
アルタミナさんも「ふ~ん?」って顔。
ギルド長さんは、
「魔力の抽出さえできれば、まぁ、問題はないですよ」
と、おっしゃる。
(そっか)
僕は頷き、もう1度、魔力結晶石を見る。
綺麗な石だ。
まるでアメジストの宝石みたいに美しく、でも、赤黒い部分は不気味に思えて――、
ヒィン
(お?)
その時、突然、真眼が発動する。
【汚染された魔力結晶石】
・結晶化した魔力の塊。
・ただし、この結晶石は『邪竜の呪詛』に汚染されている。
・通常より多くの魔力を抽出できるが、人体に吸収されると肉体、精神に悪影響を与える可能性が高い。
・浄化、推奨。
(……え?)
汚染?
邪竜の呪詛?
な、何だ、それ~っ!?




