052・母娘の居ぬ間に
金髪母娘が町を去った。
(再会できるのは、最短でも8日後かぁ……)
長いような、短いような、微妙な日数である。
ただ何もしないで待つのも時間が勿体ないので、2人を待つ間、僕は今まで通り『薬草採取』でもしてようかなと思う。
世の中、お金は大事。
稼げる時に稼がないとね?
(うんうん)
僕は、そう予定を決める。
ちなみにアルタミナさん、レイアさんの先輩冒険者のお2人は、宿屋で完全休養するそうで……。
(おや、意外)
と思ったけど、
「私ぐらいの立場だと、意外と休みが取れなくてね」
と、黒髪の美人さん。
僕は目を丸くし、
「そうなの?」
「うん。前に休んだのは、3ヶ月前かな?」
「え、3ヶ月前?」
「ふふっ、これでも煌金級だからね。でも、今回のクエストはフィンに会う口実もあったから、無理に日数を確保したんだよ」
「へぇ……」
なんと、ブラック職場。
見れば、アルタミナさん、笑ってるけど、何だか遠い目をしていらっしゃる。
う~ん、
(偉くなるって、大変だ……)
僕、当面は低い等級でのんびりやろう、うん。
相棒のレイアさんも、
「今回は途中で、クエスト日数を延長したでしょ?」
「あ、うん」
「でも、貴方のおかげで早くに済んだから。その余剰分の日数を休暇に充てたのよ」
「ああ」
「で、久しぶりの休みを楽しみながら、フィンも待つの」
と説明し、笑う。
僕も頷き、
「うん、なるほどです」
と、納得した。
そうした訳で、クレフィーンさんたち母娘を待つ間、僕はお仕事に励み、2人はのんびり休暇となったのである。
(よ~し)
僕は僕でがんばるぞ、おー!
◇◇◇◇◇◇◇
で――3日目の朝が来た。
(ふがっ)
僕は、目を覚ます。
窓の外を見ると、太陽はしっかり顔を出し、クレタの町を照らしていた。
多分、7時ぐらいかしら?
「ふぁ~あ」
大欠伸をしながら、僕はベッドを降りる。
カチャ カチャ
この生活にも慣れたのか、寝ぼけながらも冒険用の装備を着込み、荷物も準備する。
この2日間は順調だ。
依頼された薬草も、問題なく集められている。
(ま、真眼あるしね?)
本当、便利です。
クエストの報酬は、1件40リド。
採取した薬草の状態が良いので、ボーナス1割加算で44リド、約4400円。
2日で8800円だ。
もちろん、日々、目的の薬草以外にも『高価な植物』を採取し、臨時収入も確保している。
1日目、370リド、約3万7000円。
2日目、230リド、約2万3000円。
合計6万円。
税金1割引かれて、5万4000円だ。
総報酬……6万2800円!
(ふふふっ)
たった2日間で、なかなか稼げてるじゃないの。
ただ、母娘が戻る日までの宿泊代を6日分追加で支払い、約8400円(1泊1400円)の支出。
あと2日間の朝食代が1000円。
携帯食料も4日分(母娘が戻る日までの分)、4本で2000円。
更に、もしもの予備に5本買い、2500円。
全部で1万4900円の支出。
なので、
(え~と……)
うむ、4万7900円の黒字なり。
そして、現在の僕の財産は……ギルド貯金265万2500円、お財布に5万7100円である。
…………。
やるじゃん、僕。
思った以上の額に、やべ~と思いつつ、自画自賛です。
(うへへ)
懐が暖かいと、心も頬も緩みますな。
いや、
(いかんいかん!)
パン
僕は自分の頬を両手で叩き、己を戒める。
初日の骸骨さんを忘れるな?
ここは異世界。
突然、何があるかわからない。
油断は大敵、足元を掬われないよう慎重にやってくぞ。
(うん!)
気持ちを引き締め、僕は本日のクエストに意識を集中しようとする。
と、その時、
(あ、そだ)
ふと思い出し、部屋から南の方角を見つめる。
真眼、発動。
ヒィン
空中に文字が浮かび、
【ナイド母娘の様子】
・宿場村の宿にいる。
・現在、2人で朝食を食べながら、談笑中。
・心身共に問題なし。
(うむ)
2人とも、元気だね?
よかった。
出会った時は、街道で魔物に襲われて大変な状況だったからさ。
(何事もなくて安心だよ)
ホッ
僕は、安堵の息を吐く。
よし、じゃあ母娘の安全も確認できたし、僕も食堂で朝食を食べてきますか。
2回瞬きして、文字表示を消す。
と、同時に、
コンコン
部屋の扉がノックされた。
(おや?)
そちらを見ると、
「シンイチ君、起きてるかい?」
今の声、アルタミナさん?
僕は「あ、はい」と答え、部屋の扉へと向かう。
カチャッ
木製の扉を開くと、
「やぁ、おはよう」
「ちゃんと起きてたようね」
目の前の廊下には、僕へと微笑みかける亜人種の美女2人が立っていた。
う~む、
(朝から眼福ですな)
と、思う。
どちらも海外女優さんみたいに本当に顔もスタイルも良くて、それぞれの爽やかな笑顔と涼やかな笑顔も眩しいよ。
そんなお2人に、
「アルタミナさん、レイアさん、おはようございます」
ペコッ
僕も軽く会釈し、笑う。
2人も微笑み、
「朝からごめんね、シンイチ君。実は20分ぐらい前に、冒険者ギルドからの連絡が届いてさ」
「連絡、ですか?」
「うん」
黒髪を揺らし、頷くアルタミナさん。
そして、
「昨日の深夜に、私たちの倒した『深緑の大角竜』の解体、運搬作業が終わったらしくてね。ようやく、その素材の買取金額が決定したらしいんだ」
と、教えてくれた。
(え……?)
あれ?
もしかして、僕……またお金、もらえるの?




