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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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050・真眼の少年の説得

「――いいえ、私は行きません」



 断る声の強さに、僕は少し驚いてしまう。


 お母様……?


 いつも優しげな美貌が、今は酷く硬質な感じだった。


(……むぅ)


 そんなクレフィーンさんの返事に、友人の2人も悔しそうな、悲しそうな表情をしている。


 アルタミナさんが、


「フィン……」


「…………」


「どうしても、かい?」


「はい」


 頷くお母様。


 美しい表情は、けれど、まるで人形のようだ。


 バン


 レイアさんがテーブルを叩く。


 お母様の隣のファナちゃんがビクッと跳ねる。


 でも、大人たちは表情も変えず、気にもせず、その頭上で会話を続けた。


「どうしてなの、フィン!?」


「…………」


「アレスのいないあの村で、貴方がどんな目に遭っているか、私たちが知らないとでも思っているの!?」


「レイア……」


「私たちと来なさい、フィン! 来るのよ!」


 キッ


 レイアさんが金髪のお母様を睨む。


(……ああ、うん)


 森の野営の時、アルタミナさんに聞いたっけ。


 クレフィーンさんが、今、暮らしている村で村人たちから孤立してしまっているって……。


 辛い目に遭っているって……。


 だから、これまで2人は何度も誘い、けど、クレフィーンさんは頑なに断っているとか。


 3人を見る。


 クレフィーンさんは、


 フルフル


 もう1度、首を左右に振った。


「行きません」


 伝え、



「――あの村には、あの人の……アレスの墓がありますから」



 と、悲しげに微笑んだ。


 ザクッ


(う……っ)


 胸に刺さるような、痛みを感じる笑みだ。


 友人2人には、より深く刺さったようで、僕より苦しげな表情になっている。


 お母様は2人を見つめ、


「あの人を置いてはいけません」


「フィン……」


「貴方ね……」


 2人も必死に言葉を紡ぎ、でも、それ以上、続けられない。


 目の前にいるクレフィーンさんの悲しい覚悟を決めた表情が、2人にそれ以上を続けさせない。


(うう~ん?)


 胸の痛みを堪えつつ、僕は考える。


 大人たちは気づいていないけど、ファナちゃんは泣きそうだ。


 これは、よくない。


 その時、


 ヒィン


(お?)


 真眼が発動した。




【クレフィーンの説得】


・この瞬間に、クレフィーンの未来が決まる。


・このままでは、今後、彼女に幸福な日々はなく、娘のファナにも明るい未来はなくなるだろう。


・説得、推奨。


・がんばれ。




(がんばれ……?)


 し、真眼君、そんなこと言うんだね。


 ってか、


(このままじゃ、母娘とも不幸になるのかい!)


 そりゃ駄目だよ。


 絶対に駄目だよ。


 僕はちょっとだけ覚悟を決め、少しだけ勇気を振り絞る。


 幼女を見る。


 目が合い、


(うん)


 ニコッ


 僕は安心させようと笑った。


 西洋人形みたいな美しい金髪の幼女は、驚いた顔をする。


 僕は、息を吐く。


 そして、



「そのお墓に、アレスさんはいないですよ?」



 と、言った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「え……?」


 驚いたようにクレフィーンお母様が、僕を見た。


 友人2人も僕を見る。


 僕は目を伏せ、


「日本国の歌にあるんですよ。死んだ人の魂は風になり、空に舞って、ずっと愛した人を見守っているって」


「風に……?」


「はい」


 目を見張るお母様に、僕は頷く。


 僕も好きな歌である。


 なんか哀しくて、でも心に響く歌でね。


 僕は、更に言う。


「もちろん、日本国にもお墓はあります」


「…………」


「でも、それは祈りの場でしかないんですよ。故人を思い、悼み、忘れないための、生きている人のための」


「…………」


「王国にも神殿はたくさんありますよね? でも、神様は神殿にしかいませんか? そこで祈っている間しか、見守ってくれませんか?」


「それは……」


「違いますよね。――だから、アレスさんもお墓にはいません」


「…………」


 僕は、彼女を見る。


 日本国の秘術の宿る目で、ジッと見る。


 ンクッ


 彼女が息を飲んだのがわかる。


 そんな彼女に、僕は、


「僕は、アレスさんがどんな人か知りませんけど……」


「…………」


「でも、自分のせいで愛するクレフィーンさんが苦しむのを、今みたいに辛そうな顔をしているのを喜ぶ人でしたか?」


「!」


 彼女は、青い瞳を瞠る。


 僕は言う。


「死んで見守るしかできないのに、そんなクレフィーンさんを見たら、アレスさんも悲しむと思います」


「…………」


「だから、ちゃんと幸せにならなきゃ!」


「シンイチ君……」


「ね?」


 僕は、笑った。


 クレフィーンお母様は、茫然と僕を見ている。


 長い金色の前髪がこぼれ、何だか心の拠り所を失ったような、とても不安定な表情に見えた。


 友人2人は何も言わず、僕らを見ている。


 ただ、何かを願うように、見ている。


(――うん)


 僕は頷き、


「それとね、クレフィーンお母様?」


「え?」


「大好きなお母様が苦しむ日々を見続けて、それじゃ、ファナちゃんも不幸になりますよ?」


「っ……」


 彼女の表情が強張った。


 バッ


 長い金髪を散らし、忘れていた隣の娘を見る。


 そこにいるのは、


「……お母様」


 泣きそうな愛する娘さん。


 クレフィーンさんは、自分の罪に気づいたようにその美貌を歪めた。


「ファナっ!」


 ギュッ


 強く、愛する我が子を抱きしめる。


 その腕の中で、金髪の幼女は声を出さずに、ポロポロと涙をこぼした。


(ああ……)


 母親を真似たんだね。


 我慢し続けるお母様を見て、誰にも知られないように泣くお母様を見て……。


 そのお母様も、


「ファナ……」


 娘を抱きながら、涙をこぼす。


 友人2人も唇を結びながら、友人と娘の様子を見つめていた。


 僕は、母娘に声をかける。


「娘さんと一緒に、ちゃんと幸せになりましょう?」


「……っ」


 コクン コクン


 クレフィーンさんは長い金髪を揺らし、何度も頷く。


 もう1声。


 僕は、言う。



「――じゃあ、王都、行きませんか?」



 涙に濡れた美貌が、僕を見る。


 僕も見返す。


 日本人らしい僕の黒目――でも、彼女には未知を視通す『秘術の目』に見えるだろう。


 ンクッ


 彼女は小さく喉を鳴らす。


 潤んだ青い瞳。


 まるで敬虔な信奉者のように僕を見つめ、



「――はい。私は……私たち母娘は、シンイチ君と一緒に王都に参ると約束します」



 と、金色の髪の輝く頭を下げたんだ。

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― 新着の感想 ―
真眼君さぁ・・・「此処で何とか説得しないと、クレフィーンさん親子は不幸になるよ(要約)」と教えたは良いけど、説得する為の良い助言もなしに「がんばれ。」の一言はないでしょ。「真眼も万能スキルではない」と…
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