047・お別れの予感
――その日の夕方、僕らはクレタの町に帰還した。
(ふぅ……)
やっと帰れたね。
疲労と安堵で、僕は息をつく。
門前の手続きも無事に終わり、僕ら4人は町の壁の中へと入っていく。
このあとは、
(冒険者ギルドと町長に報告だっけ?)
う~む。
まだ今日のお仕事、終わりませんね……。
僕は若干、遠い目。
だけど、
「フィンとシンイチ君は、先に帰りなよ」
と、黒髪の美人さん。
(え?)
僕は、お母様と目を丸くする。
すると、赤毛のエルフさんも頷いて、
「そうね、報告は私たちがしておくから。貴方たちは早く、ファナに顔を見せてあげなさい」
と、友人を見て続ける。
こ、これは、
(友情じゃん……!)
僕、ちょっと感動。
金髪のクレフィーンお母様も「アル、レイア」と青い瞳を潤ませた。
友人2人は笑顔で頷く。
僕も笑って、
「クレフィーンさん」
ポン
促すように背中を叩く。
クレフィーンさんも僕を見て、「はい」と頷く。
それからまた友人2人を振り返り、長い金色の髪をこぼしながら深く頭を下げ、顔を上げると宿の方へと足早に歩き出した。
(わっ?)
置いてかないで~。
僕も慌ててあとを追い、
(あ……)
途中で2人を振り返ると、ブンブン手を振った。
2人も笑い、手を振り返してくれる。
僕も笑う。
そして再び前を向き、先を行く金色の髪の流れる背中を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇◇
やがて、春風の宿に到着。
宿に入ると、受付の女将さんへの挨拶もそこそこに、僕らは2階への階段を上る。
タンタン
廊下を移動し、娘の待つ部屋の前へ。
「――ふぅ」
お母様はここで1度、深呼吸。
そして、
コンコン
「ファナ?」
と、白い手で扉を軽く叩く。
直後、ガタンと部屋の中から音がして、パタパタと急ぐ足音が響いた。
ガチャッ
扉が開き、
(あ……)
西洋人形みたいな金髪の幼女がそこに立っていた。
真ん丸の青い瞳。
その唇が、
「お母様……」
と、呟く。
クレフィーンお母様は優しく微笑み、廊下に膝をつく。
両手を広げ、
「ただいま、ファナ」
「っ、お母様……!」
ガバッ
幼女は、お母様に抱き着いた。
涙ぐんだ顔。
魔物討伐に出向いたお母様のことを、ずっと心配してたのだろう。
お母様の方も、
「ファナ……!」
ギュッ
娘をきつく抱きしめ、その髪を指で梳く。
彼女も泣きそうな顔だ。
(う……)
僕も、もらい泣きしそう……。
グスッ
鼻をすすり、慌ててそっぽを向く。
部外者の僕は何となく、少し離れて母娘の抱擁を眺めてしまう。
(……うん)
廊下の窓からは、夕日の赤い光が差し込む。
その燃えるような輝きの中で、美しい金髪のクレフィーンさんとファナちゃんが抱き合っていた。
絵になるなぁ……。
スン
もう1度、鼻をすする。
何だか、2人が遠く見える。
と、その時、
(……あれ?)
僕は、ふと気づいた。
今回、クレフィーンさんは、友人2人の仕事を手伝うため、このクレタの町に来た。
でも、仕事は終わった。
(あ……)
じゃあ、彼女たちは自分たちの村に帰るのか。
アルタミナさん、レイアさんの2人も活動拠点である王都に戻るだろう。
つまり、解散。
(ああ、そっか)
僕は、心の中に冷風を感じながら理解する。
――クレフィーンさんたちとは、もうお別れになるのか。
◇◇◇◇◇◇◇
人生は、出会いと別れの繰り返し、なんて聞くけどね?
でも、
(寂しいなぁ)
素直にそう思うよ……しょぼん。
そんな僕だけど、
「――おかえり、お兄様」
うぐっ。
金髪のお母様との抱擁のあと、天使ちゃんは僕にも微笑んでくれた。
え、笑顔が眩しい……っ。
僕も何とか、
「うん。ただいま、ファナちゃん」
と、笑い返した。
この無垢な天使の笑顔も、あと少ししか見れないのかぁ。
そのあと、僕らは母娘の部屋で今回のクエストの話をファナちゃんにしてあげたり、あとは母娘の時間だと、僕は自分の部屋に戻って少し仮眠を取ったりした。
あっさり寝つき、3時間後、ようやく目が覚める。
(ふ~む……)
何となく、ベッドの上でゴロゴロ寝ていると、
ヒィン
(ん?)
暗闇の中、文字が浮かぶ。
【2人の帰還】
・37秒前、アルタミナ、レイアの2人が宿に到着した。
・冒険者ギルド、町長への報告を済ませて、無事、クエストを完了させている。貴方たちにも報告予定である。
・現在、宿の手続き中。
(お……?)
2人とも、帰ってきたんだ?
時刻は、午後8時ぐらい……お疲れ様だなぁ
(よし)
パッ
僕は身体を起こす。
ベッドを降りると、隣の母娘にも声をかけて、亜人種の美女2人を出迎えに行くことにした。




