045・密着する未亡人のお背中(ドキドキ)
(ふが……っ?)
唐突に目が覚めた。
あれ、朝……?
目の前には、金色の綺麗な輝きが見えて……おわっ、クレフィーンお母様!?
見えていたのは、彼女の後頭部でした。
(うん、綺麗な髪ですね)
じゃなくてぇ……!
どうやら僕は今、彼女に背負われているみたいで、僕らの先には黒髪の獣人さんと赤毛エルフさんの背中も見える。
ああ……そうか。
思い出した。
深緑の大角竜を倒した古代魔法2発の代償で、僕、魔力の欠乏で気を失ったんだっけ。
ここは、
(まだ、森の中かな?)
と、周囲を見て、思う。
ヒィン
【北東の森】
・深緑の大角竜を倒してから、20キロ地点。
・経過時間、約3時間。
え、3時間?
そんなに経ってるの?
つまり、僕、3時間も、この金髪の未亡人さんと密着して……?
ドキドキ
急に焦る。
意識すると、触れ合う部分が熱く、甘やかな匂いも感じる。
(や、やば~い)
と、そんな僕の気配に、彼女も気づく。
「シンイチ君?」
「ひゃい……!」
シャキン
クレフィーンお母様の背中で、思わず背筋を伸ばす。
でも、お母様は、
「ああ……よかった。目が覚めたのですね」
と、微妙に涙声だ。
え……?
その声に、僕の方が驚いてしまう。
そして、僕らの会話が聞こえたのか、前方の2人も振り返る。
「お、少年?」
「あら、起きたのね」
アルタミナさんは笑い、レイアさんは澄まして言う。
僕は「ども」と3人に会釈。
クレフィーンお母様は、青い瞳を伏せる。
項垂れ気味に、
「ごめんなさい、シンイチ君。貴方を守ると言っておきながら、このような目に遭わせてしまって……私のせいで、本当になんとお詫びすればよいか……」
なんておっしゃる。
(ええ……?)
僕は驚き、目を丸くする。
何言ってんの、このお母様?
僕は言う。
「え~と、ですね。その……クレフィーンさん、何も謝ることないと思うんですが?」
「え?」
「悪いの、あの竜でしょ?」
「…………」
「いや、むしろあの竜も、ただ生きたかっただけで悪くないし、誰も謝ることないと思うんですが」
「……シンイチ君」
彼女は、目を見開いている。
そんな彼女を見て、
「怪我、ないですか?」
「え? あ、はい」
「なら、よかった」
僕は、ホッと息を吐く。
そして、
「じゃ、褒めてください」
「え?」
「クレフィーンさん、守れました。僕、がんばりました。謝るより、お褒めの言葉をくださいな?」
と、笑った。
至近距離で、金髪のお母様は青い目を瞬く。
僕を見つめ、
クスッ
あ、ようやく笑った。
(うんうん)
お母様には、やっぱり笑顔が似合うね。
そして彼女は、
「ええ、そうですね。貴方のおかげで私は助かりました。――本当にありがとう、シンイチ君」
と、言ってくれる。
(えへへ……)
年上美人からのお褒めの言葉、嬉しいね。
褒めたあとも、クレフィーンお母様は熱い眼差しで僕を見つめてくる。
おお……、
(なんか、ドキドキ)
僕も照れ笑いだ。
そんな僕らに、
「ふふっ、いい男だね、少年」
「ふぅん?」
前方の美女たちも、1人は笑い、1人は感心したように呟いた。
あら、嬉し。
(どもども)
僕は、軽く会釈。
そんな感じで、うん、ま、今回の竜退治、何とか大団円で終われたかなぁ……と思う僕でした。
◇◇◇◇◇◇◇
そのあと、
(あ、自分で歩かなきゃ)
と、僕は気づく。
急いで、彼女の背中から降りようと思ったのだけど、
「駄目です」
「え?」
「これ以上、無理をさせたくありません。どうか、このまま私に背負われてくれませんか?」
「え、でも……」
「……お願いします、シンイチ君」
「…………」
えっと、
(お母様、なんか泣きそうなんですが……)
なぜに?
でも、いいのかしら?
こんな美人な未亡人さんに背負われて、密着し続けて……。
ドキドキ
役得過ぎない?
と、その時、前方の友人お2人が見える。
1人は苦笑しながら、もう1人は呆れた表情で僕に頷いてくる。
(あ、はい)
いいみたい。
僕は頷き、
「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて……」
と、お母様に返事。
彼女も「シンイチ君……」と僕の名を呼び、安心したように微笑んだ。
(……ん)
体重を預ける。
うむ、温かい。
あと、腕に触れる金色の髪がサラサラで、なんか心地いい。
(幸せ……)
僕は、女神の背を満喫する。
で、そうして移動しながら、僕は3人から今後の話を聞かされた。
まず、町で報告。
報告先は、冒険者ギルドと町長。
そして、後日、ギルドから冒険者が派遣され、今回倒した『深緑の大角竜』の素材を回収するのだとか。
回収費を天引きした素材代をもらえるらしい。
(へ~?)
そんな感じなんだね。
で、そういう諸々が済んでから、僕にも今回のお手伝い料を払ってくれるそうな。
いや~、悪いですな。
(でも、楽しみ)
ワクワク
少し期待する僕であります。
と、そんな僕に、
「――ところで、さ」
(ん?)
アルタミナさんが話しかけてきた。
彼女を見る。
獅子らしい縦長の瞳孔のある金色の瞳も、僕を真っ直ぐ見ていた。
ドキン
なんか緊張。
そして、彼女の唇が動く。
「――シンイチ君は、古代魔法も使えるんだね? それも、竜を屠るほどの威力のさ」
おっと?
思わぬ質問。
僕は驚き、
(ん……?)
気づけば、黒髪の美女だけでなく、レイアさん、クレフィーンさんも答えを待つように、僕を見ていた。
凄い注目度。
(そんな気になる?)
彼女たちの視線に、若干、戸惑う。
でも……ま、いいか。
今更、隠すことでもないし。
(うん)
僕は頷き、3人に正直に答えた。
「うん、4日前に覚えました」
「4日前?」
「うん。――ほら、クレフィーンさん。その日、ギルドに一緒に行く途中で、僕、お土産用の石板を買ったでしょ?」
と、彼女を見る。
お母様は、
「あ、はい」
と、驚いたように頷く。
僕は笑って、
「――実はそれ、まだ使える状態で、しかも僕の魔力紋に適合してるのがわかったから買ったんですよ」
と、秘密を暴露した。
ご覧頂き、ありがとうございました。
ここでお知らせ。
次回から更新時間を変更して、19時頃の更新になります。次回は9月12日(本日)の19時頃になりますので、よろしくお願いします。
また、いつもこの物語を読んで下さる皆さん、本当にありがとうございます♪




