036・夕餉の昔話2
本日2話更新の2話目です。
1話目(第35話)もお見逃しなく。
あとランク外となっていた注目度ランキングになぜか再び入っていました。
びっくりですが、嬉しいです。
皆さん、本当にありがとうございます♪
ではでは、本日2度目の更新、第36話になります。
よろしくお願いします。
(へ~、15歳?)
今の僕と同じ年齢だ。
クレフィーンさんは、その歳に運命の出会いがあったんだね。
……羨ましぃ。
彼女は、自分の下腹部を両手でソッと押さえる。
「冒険者の先輩として、彼には色々なことを教わりました」
「うん」
「そして1年後、16歳で交際が始まり、更に17歳になった年にこの身にファナを授かりました。同時にアレスに結婚を申し込まれ、私は冒険者を引退して……」
「…………」
「そのあと、南の、アレスの故郷の村に移住して……ファナも産まれて、3人で暮らしていたんです」
「うん、そっか」
僕は頷いた。
当時を思い出しているのか、クレフィーンお母様はとても優しい表情だ。
でも、その美貌が少し暗くなる。
微笑んだまま、
「ただ、その2年後、あの人は流行り病で……」
と、最後は言葉を濁した。
(ああ……うん)
クレフィーンさん、未亡人になっちゃったんだよね。
僕も、次の言葉に困る。
でも、金髪の未亡人さんは微笑んで、
「そのあとは、年に2~3回、彼女たちの仕事を手伝わせてもらいながら、ファナと暮らしています」
と、友人たちを見た。
僕も見る。
でも、2人は少し複雑そうな表情で、
(……?)
その意味を、僕は測りかねる。
と、アルタミナさんが口を開き、
「――正直、私は2人の結婚に反対だったんだ」
と、言った。
(えっ!?)
ば、爆弾発言。
姉のような友人は、ため息交じりに言う。
「当時のクレフィーンは、古代魔法も取得して、ギルドも将来を期待する優秀な冒険者でね。私とレイアも引退しないよう、フィンに何度も言ったんだけど……」
「頑固なのよね、この子」
と、レイアさんも不満そうに続ける。
(……ああ、そうなんだ?)
輝かしい冒険者としての未来、それを捨てて結婚したのか、クレフィーンさん。
チラッ
彼女を見る。
何度も説得されたのか、クレフィーンお母様は困った顔で微笑んでいた。
レイアさんは言う。
「あんな駄目男に、フィンを渡したくなかったわ」
「……駄目男?」
僕は、驚く。
金髪の未亡人さんも、
「レイア、あの人は駄目ではありませんでしたよ」
と、さすがに咎める。
だけど、
「フィンより先に死んで、貴方を泣かせたわ」
「…………」
「どんな理由があろうと、私にとってはそれだけであの人間の男は駄目男でしかないの」
「……レイア」
そう言われると、クレフィーンさんもそれ以上、言えなくなる。
黒髪の美女も頷く。
(う、う~ん?)
旦那様、奥様の友人2人からの評価は厳しいのかな。
でも、彼女たちにしたら、大事な仲間を奪われた形になるし、しかも、その仲間を未亡人にして泣かせてるし……。
(そりゃ、仕方ないかぁ)
とも思ったり。
ただ、うん、
「――みんなに愛されてますね、クレフィーンさん」
と、僕は言う。
3人の美女は、虚を衝かれた顔をする。
(だってね)
そうした複雑な事情になるのも、全て、愛があればこそ。
金髪の未亡人さんは、僕を見る。
そして、友人2人を。
「…………」
「…………」
アルタミナさん、レイアさんは何とも言えない表情で顔を逸らす。
でも、少し頬が赤い。
クレフィーンさんは驚き、また僕を見る。
僕は彼女に、
ニコッ
と、笑った。
美しい金髪の未亡人さんは、なぜか息を飲む。
やがて、表情が優しく崩れて、
「……ええ、ありがとう、シンイチ君」
少し潤んだ青い瞳で、僕のことを真っ直ぐに見つめてくる。
(うん、美人さん)
僕は笑顔で、
「いえいえ」
と、気楽に答えたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
やがて、食事も終わる。
時間的には、まだ午後7時ぐらい。
だけど、クレフィーンさん、レイアさんの2人は、夜中の見張りのためにもう眠るとおっしゃる。
(あらま……)
最初の見張りは、アルタミナさん。
3時間交代で、朝4時から活動開始らしいです。
早いねぇ。
僕は少し考え、
「あの~、僕、まだ全然眠くなくて……もう少し起きててもいいでしょうか?」
と、3人にお伺いを立てた。
姉妹みたいな2人は頷き、
「はい、シンイチ君はお好きに」
「まだ話し相手になってくれるなら、私も退屈しないかな」
と、言ってくれた。
でも、レイアさんは、
「まだ子供ね」
「…………」
「冒険者として生きていくなら、これから睡眠のコントロールも覚えなさい」
とのご指摘。
(そっか)
1流の冒険者って、眠りも自由にできるんだ?
凄~い。
驚きながら、
「うん、精進します」
と、僕は頷く。
それにレイアさんも満足そうに頷き、赤毛の髪をなびかせテントに向かう。
友人2人は苦笑する。
それから、
「では、私もこれで」
と、金髪の未亡人さんは微笑む。
アルタミナさんは頷き、「おやすみ、フィン」と言う。
僕も言おうとして、
(あ、そうだ)
ふと思いつき、南の方角を見る。
ヒィン
真眼、発動。
僕の様子に、
「シンイチ君……?」
と、金髪を揺らし、彼女は首をかしげる。
(……うん)
文字を読み、僕は頷く。
クレフィーンさんを振り返り、
「ファナちゃん情報」
「え?」
「30分前に食事を終えて、今、北の空を見ながらお母様の無事を祈ってます。もう少ししたら、お風呂に入る予定みたいですよ」
「…………」
「以上、ファナちゃん情報でした」
と、僕は笑った。
お母様は驚き、青い目を見開いている。
そして、
「シンイチ君……」
何だか、泣きそうな顔をする。
と、次の瞬間、
ギュッ
(わっ?)
突然、抱きしめられた。
お、おお……お胸が顔に当たってますぅ!?
綺麗な金色の長い髪もこぼれ落ちて、サラサラと僕の肌を撫でていく。
な、なんか甘い匂い。
ドキドキ
慌てる僕に、
「ありがとうございます、シンイチ君」
と、感謝の言葉。
身体が離れる。
そこにあるのは、母親の愛情に満ちた、優しく安心したような表情だ。
(…………。うん)
少しは役に立ったかな?
クレフィーンお母様は南の方角を見て、1度、静かに祈るように目を閉じる。
まぶたが開き、僕を見る。
「――おやすみなさい」
甘やかな微笑み。
ドキン
高鳴る胸を感じつつ、
「えと、うん、おやすみなさい、クレフィーンさん」
と、僕も何とか答えた。
そして、彼女もテントの中へ。
(……ふぅ)
胸を押さえ、吐息を1つ。
やれやれ。
僕も男の子なんですけどね~、子供扱いは困っちゃうな~、お胸様、柔らかかったけど。
(うへへ)
と、その時、
「鼻の下、伸びてるよ?」
はっ!?
アルタミナさん、いたんだった!
驚く僕に、黒髪の獣人さんはクスクスと困ったように笑う。
そして、
「フィンがごめんよ」
「え?」
「あれは時々、無自覚でね。けど、君に心を許してる証拠なんだ」
「…………」
そうなんです?
僕は、彼女を見つめてしまう。
アルタミナさんは、
「私たち以外に、ああいう姿を見せるフィンは久しぶりに見たよ」
と、懐かしそうに言った。
(……ふ~ん?)
悪い意味でなくてよかった。
ま、ね。
好感度、70あるらしいし?
(意外といい関係性を築けているのではないでしょうか)
と、思うのですよ。
クレフィーンさんの義姉という黒髪美人さんは、僕にニコッと笑う。
焚火に鍋をかけながら、
「お茶、淹れるよ。君も飲むかい?」
「あ、いただきます」
「夜は長いからね。飲みながら、私の話し相手になってよ」
「は~い」
僕は頷く。
焚火を囲み、僕らは座る。
パチパチ
火の粉が弾け、森の夜空へと散っていく。
静かな夜の森で、僕とアルタミナさんはしばらく2人きりで時間を過ごしたんだ。




